園田 薫 院長の独自取材記事
そのだクリニック
(茨木市/総持寺駅)
最終更新日:2024/09/25
長年にわたり認知症診療を専門としてきた園田薫院長が、2024年4月にオープンした「そのだクリニック」。一見、クリニックとはわからないノスタルジックな外観が印象的で、奥には古民家や中庭もあり、まるで自宅で過ごしているかのような安心感がある。こういったアットホームなクリニックにしたのも、「治療へのハードルを下げたい」という思いからだという。「認知症があってもなくても、地域の人がつながるような場所をめざしたい」と話す園田院長。治療はもちろん、家族へのサポートや、本人や家族の生活面での充実にも気を配る診療スタイルから園田先生の人柄が感じられる。今回は同院の特徴や地域への思い、今後の展望などたっぷりと話を聞いた。
(取材日2024年5月18日/更新日2024年9月19日)
認知症治療を継続できるよう、環境づくりから注力
こちらは認知症専門のクリニックだそうですね。
私は認知症を専門として20年、これまで数多くの認知症患者さんと接してきました。認知症治療の課題は、いかに外来診療を継続させるかということです。認知症の症状を自分で自覚することは難しい場合が多く、ドロップアウトされる方も少なくありません。ですが、治療を中断してしまうと、精神状態が不安定になったり、入院などの環境の変化で認知機能障害が進行したりすることもあります(リロケーションダメージ)。多くの人にとって医療機関に行くのは楽しい体験ではありませんが、くつろげる環境があれば治療も続けやすいのではないかと思いました。さまざまな工夫や取り組みを通して通院のハードルを下げ、患者さん自身もご家族も通院を楽しみにできる、そんなクリニックをめざしています。
「環境づくり」の面で、こちらのクリニックはとても特徴的ですね。
ええ。クリニックの外観もその一つで、以前商店をされていた雰囲気をそのまま残しています。このお店はずっと昔から地域の人たちの集いの場所であったそうです。「地域の人も昔を思い出して、ふらっと扉を開けてくれるかもしれない」、そう思ってあえて昔のままの外観を残しました。一方で、院内はあらゆる方が通院しやすいようバリアフリーに改装し、診察室まで車いすで入れるようにしていますし、待合室は落ち着いたトーンのオレンジの照明とゆったりとした音楽が心地良い空間になっています。ぜひ気軽に訪れてほしいですね。
院内には中庭があり、古民家スタイルの診療室もあるとか。
こちらを見せていただいた時に気に入ったのが、昭和の懐かしい雰囲気と、古民家にある中庭の緑、樹齢100年近いザクロの木でした。奥の古民家では自宅にいるような雰囲気でお話を聞けるので、クリニックに行くことに抵抗がある患者さんも安心して通院いただけています。また患者さんの中には花を育てるのが好きな人も、大工仕事が得意な人もいらっしゃるでしょう。診察終わりに縁側に座り、ご家族と一緒に昔を思い出したり、土いじりをしたりするのも良い体験になると思いますし、それが家族との関係の再構築につながれば、この懐かしい空間も生きるのではと考えています。そして認知症のある人もない人も、地域の人たちが庭や古民家に手を加え、形を変えながら、たくさんの人にとって安心できつながりをもてる場所にしていくことが夢ですね。
ネットワークを作る・ハードルを下げる
開業は茨木市にこだわって探したそうですね。
私は1995年に医師となり、2005年から茨木市の藍野病院で認知症を専門に診療してきました。認知症が専門の医師としての研鑽は茨木市で重ねてきましたので、これからは地域の人々に医療で還元したいと「開業するなら茨木市で」と決めていました。また勤務医時代にはあいの認知症プロジェクトを立ち上げて、認知症クリニカルパスの作成や家族教室、地域講座などさまざまな活動を多職種のスタッフとつくり上げてきました。そのプロジェクトは現在は茨木市の事業として委託されるまで成長しているんですよ。他にも、茨木市医師会での活動や茨木市役所の認知症初期集中支援チームにも参加してきました。茨木市で出会ってきたさまざまな人々を中心にさらにネットワークを広げて行き、さまざまな垣根を外して、地域の人々をサポートしていくことが私の役割だと感じています。
診療ではどのようなことに気をつけていますか?
まずは、改善の見込みがある疾患を見逃さないように慎重な診断を心がけています。認知症のうち、例えば甲状腺機能低下や慢性硬膜下血腫などが原因の場合は、早期に適切な治療をすることで認知機能障害の改善が見込めます。まずは血液検査やMRIなどの画像検査といった医学モデル的なアプローチから改善可能なものはないか原因を探り、次に生活モデル的なアプローチを行います。認知症は「認知機能障害により生活に支障をきたした状態」で、個人と社会の関係から生じる状態です。その方にとって生活しやすい環境をつくっていくことで、認知機能低下があっても安心して生きがいを持った生活をすることが可能になっていくと思います。
治療では、多職種による連携を大切にされているそうですね。
はい。一人ひとりに寄り添ったオーダーメイドの治療をするには、患者さんに関わる多職種スタッフが情報を共有してチームとして有機的に動く必要があります。ご家族が認知症になると、「何が必要なのか」「今後はどのようにしていけばいいのか」悩むことも多いでしょう。連携するケアプランセンターや訪問看護ステーションを必要に応じて紹介しますので、安心していただきたいですね。ご本人ご家族、ケアマネジャー、看護師、公認心理師など多くの人の意見を聞いて、コミュニケーションツールなども活用しながら、プロセスを見える化し、治療プランをつくり上げていくようにしています。また当院には熟練した公認心理師も常勤していますので、ご本人との会話をまず大切にして検査でもじっくりと時間をかけてコミュニケーションを取っています。
認知症を知り、皆で支え合える地域をめざす
さまざまな角度からで認知症患者さんをサポートされているのですね。
認知症治療では、一人ひとりに合わせた治療が何より大切です。それを実現するために私がイメージする理想の医師像があります。それは3段重ねのピラミッド型の構造のイメージです。上に認知症の専門性、真ん中にジェネラルな精神科の知識、下にプライマリケアの提供能力の3層のバランスの取れた精神科の医師像です。専門部分は藍野病院で、ジェネラルな精神科の知識は福岡大学病院の精神科で10年間にわたり統合失調症やうつ病など多様な疾患を精神療法的なアプローチで診療することで身につけました。そして福岡市の在宅医療を担う、たろうクリニックで認知症の在宅医療、プライマリケアについても学んできました。認知症は脳に変化が起こる病気ですが、人との相互関係で心理的な症状が出ることもあったり、穏やかに過ごせる人もいたりと、社会との関係が症状や進行に影響します。その領域を今後も深めていきたいと思っています。
今後の展望についてお聞かせください。
少しでも多くの人に認知症について知っていただけるよう、いろんな取り組みをしたいと思っています。地域の多職種スタッフはもちろん、一般の地域の方々とも勉強会や講座などで交流を深めていきたいです。たくさんの人が認知症についての理解を深めていくことで、認知症があっても助け合い人生を楽しみながら生活できる町になるのではないでしょうか。また引き続き医師会や行政とも連携し、誰もが過ごしやすい町づくりのお手伝いができればと考えています。古民家のスペースでは患者さん同士の集まりや家族の集まり、認知症カフェなども開催しています。ご興味のある方はぜひお越しいただければと思います。
患者さん、そのご家族に向けたメッセージをお願いします。
90歳を超えたら6割の方が認知症になるという報告もあり、現在認知症は誰もがなり得る病気です。しかし認知症への先入観から、受診することをためらわれている方も多くいらっしゃいます。私が医師になった頃と比べて認知症の症状の進行を抑えるための新しい薬も出てきましたし、サポート体制も充実し、通院しながらご自宅で過ごすこともできるようになってきました。認知症は早期の介入が重要です。身近な人に「これまで日課としていたことができにくくなった」「いつも探し物をしている」など、気になることが見られた時には、お早めにご相談にお越しください。適切な認知症に対する知識と対応方法を、ご本人、ご家族と一緒に考え、笑顔で過ごすためのお手伝いができればと思います。