藤森 理子 院長の独自取材記事
湘南思春期クリニック
(藤沢市/湘南台駅)
最終更新日:2024/12/27
湘南台駅より徒歩1分。児童心療内科の診療を専門とする「湘南思春期クリニック」では、体調不良や心の問題に悩む子どもたちをサポートすることに力を入れている。藤森理子院長は小児科と大人の心療内科で研鑽を積んできた医師で、心身の不調の改善を図るための食事指導などにも精通している。「親御さんにはお子さんの専属カウンセラーになっていただきたい」と、日々の診察では子どもだけでなく家族と会話を重ねることにも力を入れている。学校に行けなくなってしまった子どもへの進路のアドバイスも行っている。近隣に児童心療内科が少ない状況を危惧して、困っている子どもたちの受け皿になることをめざしてきた藤森院長に、これまでの歩みやクリニックの特徴について語ってもらった。
(取材日2024年11月25日)
身体と心の両面から子どもの不調をサポート
こちらのクリニックの特徴を教えてください。
当院は児童心療内科専門のクリニックです。身体と心の両面から思春期特有の問題に対応し、お子さんたちの健全な成長をサポートします。私は特に小児科と大人の心療内科での経験が長く、お子さんだけではなくご家族のお悩みにも寄り添った診療の提供をめざしています。カウンセリングやアロマセラピーなど、専門スタッフによる幅広いサポートも行っており、患者さん一人ひとりのニーズに応じたきめこまやかなケアを行うことを心がけています。発達に遅れが見られる2歳〜5歳の未就学のお子さんも受けつけておりますが、特に力を入れてサポートしているのが学校に行けない、思春期特有の体調不良や心の問題などに悩むお子さんたちです。診療時間は平日と土曜日に設定されており、予約制での診療を行っていますので、ゆっくりと相談することができます。
先生が児童心療内科の道に進んだきっかけとは?
医学部卒業後に小児科の医局に進んだのは、「患者さんの身体を全面的に診られる医師になりたい」という思いがあったからです。大人の内科は循環器、呼吸器、消化器など診療科が細かく分かれていますが、小児科の場合は一つに包括されているので、自分がめざす医師像に当てはまる確信がありました。一方で精神科にも興味があり、患者さんの身体と心をトータルで診るべきだと感じていたのですが、当時在籍していた小児科では身体の病気を治すことしかできませんでした。長く診察を続けていると、最初の主訴だった頭痛や腹痛は治っているはずなのに、いつまでも表情が晴れないお子さんに出会うことも少なくありませんでした。そこでメンタルヘルスの重要性を痛感して、小児科と平行して精神科の外来も担当させてもらうことで知識と経験を増やしていきました。
その後、独立して大人を対象とした心療内科を開業したんですよね。
2010年、東京・目黒に「オルソ心療内科クリニック」を開業しました。そこでは、大人の方向けに診療を行っていました。大人の場合、長期的に不調と付き合ってきた患者さんも多く、心をほぐしていくのはとても時間がかかります。それならば、思春期でこじれかけた状態の子どもたちのサポートに専念することで、多くの人を救えるのではないかと思いました。そこで、大学病院時代の先輩が開業した「あべともここどもクリニック」に院長として迎えていただき、小児科の診察をしながら思春期の外来も担当することに。3年ほど経験を積んだ後、2024年の2月に「湘南思春期クリニック」を開業しました。
開業前は藤沢市で思春期の外来を行っているクリニックがなかったそうですね。
子どもの発達やメンタルを専門に診るクリニックが当時の藤沢市はゼロでした。そのため長い間、藤沢市にある県運営の総合療育相談センターが発達障害を抱えるお子さんを診ていましたが、医師の減少をきっかけに、診られる患者人数も減ってしまったんです。その頃、こちらのクリニックの思春期の外来もあふれてきており、「思春期クリニックをつくろう」とちょうど思い立った時期でした。思春期で悩みを抱え困っているお子さんたちの受け皿が必要なことは明らかだったので、「あべともここどもクリニック」から独立して思春期の外来に専念にする場所をつくった次第です。
子どもの個性や体調に合わせた診療を心がける
日々の診察では具体的にどんなことを行っていますか?
院内には診察室の他に個室が3室あり、30分単位で公認心理師と1対1でカウンセリングをしてもらったり、会話が難しい場合は絵で描いてもらったり、お子さんの個性や体調に合わせて臨機応変に対応をしています。また、子育てで困っている親御さんとの会話も大切にしており、親御さんがご家庭でのお子さん専属カウンセラーになっていだだくことをめざして、コミュニケーションの取り方や生活のアドバイスなどをしています。ご両親で来院していただくことで目的意識を共有できると、その後、親子関係の改善につながると考えています。
患者さんとのコミュニケーションで心がけていることを教えてください。
まずは「学校に行かなければならない」という刷り込みを解くことに力を入れます。無理して行く必要がないことを伝えて安心してもらうことを念頭に置き、お子さんの話に耳を傾け、行けなくなってしまった理由を一緒に探ります。体育の授業が極度に苦手な子もいれば、授業で先生に発言を求められることが嫌いな子もいます。例えば、その苦手な部分を避ける指示を診断書に書き込むなど、学校に行きやすくなるようなサポートを行います。「行く」か「行かない」の2択ではなく、お子さんの個性に合わせた通い方ができるように微調整していくことが大事だと思っています。
食事や睡眠の指導もしているそうですね。
メンタル不調で来院するお子さんは、ほとんどが医学的に「痩せすぎ」の状態です。最近特に身近になったSNS等のメディアの影響で、男子も女子も「細いほうがかっこいい」という思い込みが強くなり、まともにご飯を食べていない子が増えたように感じます。基本的なことですが、診察では親御さんも含めて栄養補給の大切さを伝えるようにしています。食事の量を増やすだけでも、頭痛や寝起きの悪さの改善につながることもあります。そして、食事と同じぐらい大事なのが睡眠です。精神状態を安定させるためには8時間以上寝ることが理想です。医学では、寝起きを良くするより、“寝つきを良く”するほうが得意ですので、必要に応じて睡眠導入剤の処方も行っています。それだけ睡眠というのは大事なのです。
健全な発育には地域や家族のサポートも必要
クリニックでは不登校の児童に向けた進路相談も行っているそうですね。
近年は通信制の学校も増えていますし、都道府県の枠を超えて地方の公立高に入学できる地域みらい留学という制度を導入する学校も増えています。離島の高校を選択することもでき、伸び伸びと過ごせる環境で授業を受けることで、不登校だったお子さんが自分らしさを取り戻すきっかけになるかもしれません。学費や食費の補助金も出ますし、親子が距離を取って暮らすことでこじれていた関係の修復が図れることもあります。当院でも学校に行けなくなってしまったお子さんに多様な選択肢を増やしてあげることで、視野を広げるお手伝いをすることに力を入れています。
今後の課題や展望について教えてください。
児童精神科のクリニックは慢性的に数が少なく、どこも予約が取りにくい状況が続いていると思います。2024年開院の当院はまだ予約枠に余裕があるものの、認知度が広がるにつれて対応が追いつかなくなってしまうかもしれません。そのため、例えば栄養や睡眠と発育の関係性を説く講演を開くなど、お子さんたちのメンタル不調を未然に防ぐための啓蒙活動をする必要性を感じています。受け身のスタンスで診療を続けるのではなく、地域の学校や小児科と連携しながら積極的にお子さんたちの意識改革や生活改善を促していきたいですね。
最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
人生で大切なことは、自分の好きな分野で気の合う人と働き、朝起きたら前向きな気持ちで仕事に行ける職場に行き着くことだと思います。しかし学校では勉強や人間関係のストレスで疲弊してしまい、未来のことを考える余裕がないお子さんも多いのではないでしょうか。だからこそ、家庭での会話がとても大切です。お子さんが好きなことを見つけ、それを仕事に生かす道を一緒に考えたり、社会で働く楽しさを教えたり、未来に希望を抱けるような会話をしていたきたいなと思っています。夢や目標を持つことが、メンタル不調を予防することにつながると考えています。