山上 佳樹 院長の独自取材記事
小豆島山上整形外科医院
(小豆郡小豆島町)
最終更新日:2025/07/07

正面にはオリーブ畑、背後には瀬戸内海が広がる絶好のロケーション。「小豆島山上整形外科医院」は、日本のオリーブ栽培発祥の地として知られる小豆島で、2023年に開院した。香川大学医学部附属病院で長く研鑽を積んできた山上佳樹院長は、小豆郡の保健所訪問をきっかけとして、島の医療問題に直面。基幹病院との協力体制を敷きながら、開業医としてこの地の整形外科診療を支えることを決意した。膝の痛みに対する新治療を早くに導入するなど、意欲的な取り組みも多い。「私にできることは、すべて全力でやります」と力強く宣言する山上院長を取材した。
(取材日2025年5月17日)
「歩くことを支える医師」になりたい
整形外科の医師を選ばれた理由をお聞かせください。

子どもの頃から物作りが好きで、最初は宮大工を夢見ていました。ところが「宮大工は中学生から修行に入る」と知ったのが、高校在学中の頃だったんです。進路に悩む中で、同級生の父親だった外科医師の方と話す機会があり、同じ外科医師を志すようになりました。外科にも複数のジャンルがありますが、整形外科では骨や関節の手術を通して、人間の基本動作である「歩行」を支えることができます。患者さんがいつかはご自分の力で歩けるように、人として生きる楽しみを支えられるようにと、初期研修後は整形外科学講座の門をたたきました。生来のスポーツ好きだったことも、整形外科を選んだ理由の一つですね。1年だけ坂出市立病院に勤務した時期もありますが、2006年の入局以降、拠点は一貫して香川大学医学部附属病院です。
大学病院では、どんな疾患を診ていらっしゃったのですか?
「骨軟部腫瘍」と呼ばれる、特殊な疾患を専門に診ていました。これは骨や軟部組織、つまり筋肉や脂肪、神経などから発生する希少がんの一種です。「病気は高齢者がなるもの」と思われがちですが、この疾患の場合は、思春期・成長期の子どもたちが主な患者層となります。私は医師になって間もない頃に骨軟部腫瘍の子どもたちと出会い、この領域を専門に選びたいと思いました。大学卒業から10年目を迎える2014年には、骨軟部腫瘍治療で知られるアメリカの総合病院に3ヵ月間留学し、治療の見識を深めています。私が患者さんお一人お一人に適した医療を心がけているのは、自分の専門性によって、人の生死と長く向き合ってきたからです。
小豆島での開業を決めたきっかけはありますか?

大学に籍を置きつつ、非常勤医師として内海病院に赴任した2012年当時は、まだこの場所で将来を決めるつもりはありませんでした。方向性が定まったのは、その約10年後。新型コロナウイルス感染症が引き続き猛威を振るっていた、2021年のことです。当時の私は予防医学や公衆衛生学に興味があり、香川県社会福祉総務課に出向するかたちで、小豆郡の保健所にも伺う機会がありました。そこで親しくなった方から、「小豆郡は人口あたりの開業医の数が全国的にも少ない」とお聞きしたんです。医師として生きる次の人生を考えた時に、整形外科診療が小豆島中央病院に過集中しているこの島で、手術治療以外の診療を引き受けたいと思いました。手術を含めた最先端の治療は提供できないけれども、基礎的な体力づくりを通して「歩くこと」を支えられれば日常生活の場がぐっと広まり、それがひいては予防医学にもつながるだろうと、島での開業を決意したのです。
変形性膝関節症に対する新治療を導入
この場所の立地や、院内の様子について教えてください。

山も海も見える、すてきな場所を紹介していただきました。廊下の突き当たりには、この景色を生かした大きな窓を設けています。休日当番で発熱患者さんを受け入れる日もありますから、二診の部屋には、感染症対策として外から入れる扉を設置しました。広さを確保したリハビリテーション室では、常勤する理学療法士がお一人お一人に寄り添いながら、身体機能の向上をサポートしています。島外で手術を受けられた方なども、当院で術後のフォローを続けることが可能です。診療ではエックス線検査、骨密度検査、超音波検査に対応し、必要であれば提携する医療機関をご紹介することで、精密な検査や専門的な治療につなげています。
県内でも早くから、膝の痛みの新治療を開始されたと聞きました。
このほど健康保険が適用された、変形性膝関節症に対する新治療を2025年2月から行っています。県内でこの治療を導入している医療機関は、まだそう多くありません。痛みの緩和という意味での第一選択肢は、やはり手術療法です。しかし実際には高齢であったり、身体機能に問題があったり、家を空けられなかったりといった理由によって、手術に踏みきれない患者さんもたくさんいらっしゃるわけです。それでも膝の痛みに苦しんでいる方々には、これまでとは違った発想の、末梢神経のブロック治療の一種をご提案したいと思っています。膝の痛みをゼロにすることはできませんが、痛みのレベルを半減できれば、日常生活の活動性は大きく変わっていくでしょう。
具体的には、どのような治療なのですか?

「ラジオ波(高周波)」と呼ばれる電磁波によって、痛みを伝えている末梢神経を焼灼し、痛みの伝達を止めようとする治療です。一般的なブロック治療で使われる局所麻酔薬の作用はいずれ消失しますが、ラジオ波治療ではラジオ波から生まれる熱によって神経の組織を変性させるため、より長期的な痛みの改善が期待できます。治療にかかる時間は、片膝で30分程度です。まずは超音波を当てながら、局所麻酔薬で痛みのブロックを図るテストを実施し、その結果を見た上でラジオ波の使用に移ります。治療はおおむね木曜日で、週に2件ほど行っているという状況です。最終的には、膝の痛みを理由に家を出なくなっていた高齢の方々が、外を歩いて生きる楽しみを見つける姿を目標に描いています。
人生100年時代の健康増進に貢献
現在の患者層はいかがですか?

膝・腰・肩の痛みを訴える高齢の方が中心です。島外にお住まいの方が来られることはほぼ、ありません。痛みの治療としてはラジオ波治療だけでなく、通常のブロック治療も行います。超音波を用いての関節内治療なども、開業当初から実施してきました。あとは学校でケガをしたという小・中学生も、最近は多いと感じます。骨折をしているのか、安静にしていれば良いのか、そういった初期診断をすることは開業医の役割ですから、これからもその務めを果たしていきたいです。患者さんは予約優先です。当院は待ち時間の短縮と患者さんの利便性向上をかなえるため、小豆島では珍しい、ウェブ予約・会計システムを導入しています。とはいえ、予約なしで受診される患者さんも変わらず多いので、どなたもできるだけお待たせしないよう、常に対策を考えています。
診療のモットーをお聞かせください。
何にお困りなのか、話をよく聞いて解決すべき課題を見つけ出し、その解決策をご提案するということです。私はこの島と地縁があったわけではないので、「はじめまして」の患者さんお一人お一人と対話を重ねることで、少しずつ人間関係を構築してきました。薬を出すだけでなく、話を聞いてほしいという患者さんも中にはいらっしゃいますので、「聴く」姿勢は診療の基本軸として大切にしています。医師と患者という特殊な関係性を超えた、地域の方々とのつながりを持てればと、開業後にウインドサーフィンも始めました(笑)。休日は裏手の海で、サーフィン仲間と楽しいひとときを過ごしています。
今後の目標をお願いいたします。

大学などの教育機関と提携しながら、次代の医療従事者たる実習生を受け入れて移住・就職を促進し、この島の人材・人口の確保に努めていきたいです。地域のためにはクリニックの規模を拡大すべきでしょうが、劇的に人口減少が進むこの島での目下の課題は、やはり人材発掘です。当院をきっかけとして小豆島を好きになって、この島で働きたいと思う方が増えればうれしく思います。また今後は足に特化した外来を開設し、フットケアの専門技術を持つ看護師と協力して、巻き爪や外反母趾などを総合的に診る体制をつくろうとしています。足はトラブルが多いにもかかわらず、なかなか人に見せにくい部位です。フットケアを専門に行う外来は、いずれ当院の大きな柱となるでしょう。人生100年時代が到来しています。私は自分にでき得ることを全力でやり遂げながら、「歩くことを支える医師」として、小豆島という地域一円の健康増進をめざします。