神川 晃 院長の独自取材記事
神川小児科クリニック
(大田区/糀谷駅)
最終更新日:2025/07/31

大田区の「神川小児科クリニック」は1992年開業。京急空港線の糀谷駅付近から続く、昔ながらの商店街を抜けた場所にある。開業以来33年、院長の神川晃先生は近隣に住む子どもたちの健康を見守り続けてきた。「僕はぶっきらぼうで、あまり話が得意なほうではないのですよ」と神川院長は言うが、小児治療の話題になると熱意のこもった口調で語り出す。その話しぶりから、本当に子どもが好きで、大切に育てたい、幸せになってほしいという思いがひしひしと伝わってくる。取材時にも診察時間前から複数の親子が訪れており、近隣住民に頼りにされ厚い信頼を得ている様子が見えてきた。そんな神川院長に、小児医療にかける思いを語ってもらった。
(取材日2019年9月20日/情報更新日2025年6月26日)
必要最低限の治療で子どもの治癒力を引き出したい
開業から約30年。変わったと感じたことはありますか?

親御さんについてですが、インターネットの普及によって情報をたくさん持っている方がいる反面、まったく情報がない方もいます。インターネットの情報は玉石混合、正しい情報の取捨選択が重要です。しかし、お子さんに当てはまる症状があると一般の方のブログなど医学根拠のない情報でも、それを信じ込んでしまって振り回されている方もいます。今ほど情報がなかった時代は、お子さんの具合が悪くなると、ずっと手を握りながら、様子を細かく見ていたお母さんがいて、こちらもその情報をもとに診断をしていました。けれども今は、お子さんを見るよりもスマートフォンなどからの情報を気にしていると感じることはありますね。
情報が多すぎると、医師に何を聞いて何を話すべきか、わからなくなってしまいそうですね。
親御さんが気になることや悩んでいることがあればどんどん聞いてもらったほうが良いです。例えば、「小児科なのに皮膚科のことを聞いていいのかな」「眼科のことを聞いてもいいのかな」と迷う親御さんが多いようですが、小児科は子どもの体全体を見ていますので、なんでも聞いてください。その上で、専門科を受診したほうが良いと判断した場合は適切な医療機関をご紹介します。また、親御さんが不安や心配を感じたときは、かかりつけの小児科にすぐ相談してください。夜間や休日なら医師会がやっている休日診療所、大田区子ども平日夜間救急室などに相談できます。医師からも「こういう症状があったらこうして」という指示ができますから。
ちょっとした発熱だと、受診するかどうか迷ってしまう親御さんも多いのではないでしょうか。

子どもは大人と違って成長段階ですので、まだ多くの感染症にかかっていません。そのため、風邪をひくと、風邪をひいた経験がないため体を守る抗体がなく、発熱することで微生物の増殖を抑制して抗体を産生したり、好中球やリンパ球を集め微生物と闘っています。もしも子どもが発熱しないと、子どもの状態を知るわかりやすい目安がなくなります。発熱は、子どもが「病気だよ」と親御さんに訴えているのです。決して発熱は悪者ではありません。風邪による発熱でしたら、1~2日で解消し良くなると思います。発熱以外に、不機嫌、食欲がない、水分を取れない、嘔吐、ぐったりする、顔色が悪いなどの症状が強い時は小児科を受診しましょう。
主治医は親。その手伝いをするのが小児科の医師の役割
どういったことを心がけて、日々の診察をされていますか?

先ほども言いましたが、お子さんの回復力を最大限に引き出してあげることです。外来を受診する子どもの病気の多くはウイルス感染症です。病気を治すのはお子さん自身、主治医は親御さんです。僕たちが薬を出すのは症状を取ってあげるためで、病気そのものを治しているわけではありません。子どもが自分の力で治していくのです。あとはお父さん、お母さんのサポート。医師はそれを見守り、お手伝いしているにすぎません。もちろん医療的な介入をしなければならないお子さんもいますが、それは少ないと思います。急性期のお子さんを診て、医療的な介入が必要なお子さんをできるだけ早く見つけて高次医療につなぐのは、医師の重要な役割です。ただ、それ以外のお子さんは様子を見て、必要であれば薬を出しますし、「1日様子を見て、こういう症状があったらまた来てください」と言うこともあります。
お子さんに対してはいかがでしょう。
自信を持てる言葉をかけるようにしています。今は「自分が生まれてきたことを喜んでもらっている」「みんなに愛されている。自信を持っていいんだ」と感じることが少なくて、「僕なんか……」と思っている子が増えているように思うのです。それはおそらく、褒められる機会が少なくなっているからなのではないでしょうか。褒めてあげることは大切で、それが自信につながるんです。例えば注射をして泣いてしまっても、叱るのではなく「頑張ったね」と言うと、ちょっと笑ってくれます。「僕、頑張った。褒められた」と思う、それが小さいけれど成功体験となって積み重なることで、自信が持てる。それは大切なことですし、医療現場で小児科の医師ができることだと思っています。
子育てをしている皆さんに、今一番伝えたいことは何ですか?

よくいわれていることですが、スマートフォンに子守をさせないでほしいですね。色がきれいで動きが早く、子どもの興味を引くようなつくりになっているので、見始めたら止まらない。ところが放っておくと、視力の発達に支障を来す危険性があるといわれています。例えば、子どもの近視が増加していることやタブレットやスマホを長時間使用したための内斜視の発症が報告されています。視機能の発達を妨げる危険が潜んでいるかもしれないのです。まだ実証されていなくても、悪影響の可能性を警告しないといけないというのが、今感じていることです。
褒めることが、子どもの栄養になることを知ってほしい
小児科の医師として、今後新しく取り組みたいことを教えてください。

治療ではありませんが、お子さんの健全な成長のために、メンタルな側面で必要なことをお話しできたらと思っています。例えば、先ほどお話しした「褒める」ということ。親に褒められること、「すごいね」「やったね」「頑張ったね」「強かったね」と言われることが、子どもには一番の栄養なんです。最近注目されている発達障害も、褒めることで、良い行動が増え少しずつ好転することもあります。それから、これも子どもの成長や発達に欠かせない愛着の形成。親との関わりで、人間関係の基礎が養われるのですが、こういう話は診察時にはなかなかできません。そこで保育園の保護者会などでお話しさせていただくのですが、今後はこういう機会をもっとつくっていきたいですね。
先生が小児科の医師になった理由をお聞かせください。
父親も叔父も医師ですから、僕にとって医師というのは最も身近な職業でした。兄も従兄弟たちも、皆医師になっていますし、一番自然な選択だったのです。小児科を専門にしたのは、家内の父が小児科の医師だったからです。もともと子どもが好きだったということもありますが、義父と話す機会が増えて小児医療に対する思いを聞いているうちに、子どもを診たいという思いが募ってきました。子どもが持っている回復力を引き出し、将来を見据えた治療をする小児医療という領域に、魅力とやりがいを感じたのです。実際に小児科の医師になって思うのは、子どもの笑顔がパワーになるということ。近くに笑顔がある、仕事としてこんな素晴らしいことはないですよね。
子育て世代の皆さんにアドバイスをお願いします。

3歳ぐらいまでは子どもの心身に著しい発達が見られます。昨日できなかったことが今日できる、といったように、どんどん成長して伸びていく時期なので、子育てが一番面白い時期かもしれませんね。その時代を子どもと一緒に楽しんだほうが良いと僕は思います。もちろんその後も楽しいことはありますし、生涯子どものサポーターであることは、変わりありません。それでもやはり、一番大変な時期でもある3歳ぐらいまでは、具合が良いときも悪いときも、しっかり子どもを見る。それが親にとって大事なことだと考えます。「あの子が具合悪い時に夫婦で悩んで、一晩寝られなかったね」という思い出さえ、財産になると思いますよ。