緒方 理恵 院長の独自取材記事
おがたメンタルクリニック
(福岡市南区/大橋駅)
最終更新日:2024/05/13
大橋駅から徒歩5分の場所にある「おがたメンタルクリニック」。周辺に専門学校や大学が多いことから、ファミリー層に加え若い世代も多く受診するクリニックだ。気さくな人柄が印象的な緒方理恵院長は、大学卒業後、麻酔科の医師としてキャリアをスタートさせた。大学病院でペインクリニック分野の診療と並行して緩和ケアや東洋医学を学び、薬物を使わない痛みの治療について学ぶために渡米。帰国後は自身の大病をきっかけに精神科へ転科し、多くの心の不調と向き合うべく、2023年1月に自身のクリニックを開院した。児童・青年期の不登校や発達障害をはじめ、うつ病、不眠症、パニック障害など、各症状の根底にある要因をすくい上げ、改善をめざしている。そんな緒方院長のこれまでの歩みや診療スタイルについて話を聞いた。
(取材日2024年4月10日)
麻酔科の医師としてキャリアを重ね、1994年に渡米
緒方院長は福岡県でお育ちになったのですか?
生まれは熊本県荒尾市で、小学校まで地元の学校に通っていました。中学から福岡県内の学校に通っていましたので、この辺りも親しみのある地域なんです。父が産婦人科の医師だったことから、「将来は医師になるの?」と小さい頃から聞かれることが多かったのですが、実は当時から産婦人科の医師や看護師だけにはなりたくないと思っていたんです。というのも父は開業医でしたので、24時間365日何かあればクリニックに駆けつける日々。家族で旅行に行ったり、遊んだりすることがなかったんです。小学生の時に一度だけ宮崎へ家族旅行したのですが、宮崎に着いてすぐ父がクリニックに連絡すると、出産が始まりそうな患者さんがいるとのことだったので、即とんぼ返りです。私は旅行を楽しみにしていたので本当にがっかりしました。
それで将来は産婦人科の医師にはなりたくないと。
そう思っていましたね。私も親が敷いたレールを歩くことに抵抗があったものですから、「アメリカに行く!」と宣言したりと、自分の意思をしっかりと主張する子だったので、大学受験の時はずいぶんともめました。しかし、その時に母が言った「あなたはまず医師免許を取得して一人で生きられる力をつけるべき」という言葉には妙に説得力がありました。その一言から医学部を受験し、埼玉医科大学に進学したんです。
大学卒業後はどのようにキャリアを積まれたのですか?
卒業後はアメリカに行く予定だったのですが、知識が新鮮なうちに現場に出たほうがいいと考え、大学病院の麻酔科に入局しました。本当は外科を希望していたのですが、将来結婚して子どもを育てるとなると、時間の調整をしやすい麻酔科がいいだろうと思ったんです。臨床に入ってしばらくすると、ペインクリニックの分野に興味を持つようになり、関東逓信病院(現・NTT東日本関東病院)に1年間国内留学させてもらいました。ペインクリニックは痛みに対する治療を行う分野で、末期がんの患者さんに接することも多くあります。そういったことから、元の病院に戻ると手術の麻酔と並行し、緩和ケアや東洋医学も学びました。そんな中、精神的に参ってしまう出来事が重なり、「これは今アメリカに行きなさいということだ」と思い、病院を辞めて渡米したんです。
大病を機に精神科の医師としての診療に取り組む
ようやく学生の頃からの夢がかなったわけですね。
ええ。注射や薬を使わずに痛みへのアプローチをする方法に興味を持ったので、アメリカでは学校に通い手技を習得しました。しかし、在米中に乳がんにかかっていることがわかり、帰国することに。アメリカには15年いましたから、まさか病気で帰国することになるとは思いませんでしたが、アメリカの高額な医療費を考えると帰国以外の選択はありませんでした。帰国して乳がんの治療後、仕事に復帰してしばらくすると、今度はウイルス性髄膜炎になり命を落としかけました。一命は取り留めたものの、歩行器なしでは歩けない状態が続いたんです。早く仕事に復帰したかったので、いろいろな病院を受診し、原因が判らず心因性と言われていたのですが、3年後に鹿児島大学病院神経内科で診断がつきました。体に障害があることで、いろいろな方と知り合えました。それをきっかけに精神科に転科し、診療に携わるようになりました。
クリニックでは、これまでの経験をどのように生かしていますか?
発達障害のお子さんは就学前に療育を受けることで、入学後の悩みの軽減が見込めるケースが多いんです。そして、親御さんも早い段階でお子さんとの関わり方を学べば、成長後の親子ストレスの軽減も望めます。発達障害の方は社会で居心地の悪さを感じる場面が多く、伸び伸びと本来の力を発揮できる環境づくりが重要です。診療ではそのようなサポートに注力しています。また、外来診療に加えて訪問診療もスタートしました。クリニックから半径16km圏内に住んでいて、精神的、年齢的な理由でクリニックに来られない方の所に出向き、診療を行っています。訪問診療は引きこもりの方からのニーズが高く、自宅という閉鎖的な空間にい続ける患者さんにとって、少しでも支援や心の安らぎになればと考えています。患者さんをサポートするご家族にも寄り添い、患者さんの将来や生き方について一緒に考える機会を設けるようにしています。
どのような患者さんがいらっしゃいますか?
発達障害に悩むお子さんや大人をはじめ、不登校、うつ病、パニック障害、双極性障害、統合失調症、睡眠障害、産後・更年期・がん疾患のうつなど、幅広い症状の患者さんが来られています。大橋駅から近い場所にあるため、近隣の方だけでなく沿線地域にお住まいの方も来られますよ。治療を進める際に私が重視しているのは、これらの疾患や症状のベースにあるのは何なのか、根本的な原因を究明することです。本質的な部分にアプローチできないと、本当の意味での解決をめざせないのではないかと思っています。私の診療スタイルは、症状の根底にあるものをすくい上げること。その上で、症状や困り事の改善に向けてしっかりアプローチできたらいいなと思っています。
生きづらさを抱える患者が安心できる場所をつくりたい
どのような治療の流れを採用されていますか?
まず、時間をかけてお話を聞かせていただきます。お薬を処方しながら、患者さんのお気持ちが少し落ち着いてきたタイミングでカウンセリングをお勧めします。患者さんによって症状が異なりますので、カウンセリングに移行するタイミングもケースバイケースです。「安心につながる関係の構築」が大切だと思っているので、信頼できるスタッフと力を合わせて患者さんのケアをさせていただいています。その構築過程においては、状態によって薬も適切に使うことが有用だと考えています。薬を服用することに抵抗のある方もいらっしゃいますが、タイミングを見ながら、減薬を考えます。不安定なメンタル状態が継続するよりも、服薬によってまずはメンタルの安定をめざすことをお勧めします。
受診の目安となる症状など教えてください。
いつもできていたことができなくなった、眠れない、食欲が湧かないといった状態が継続する場合は要注意なので、早めに受診してください。ただ、これはあくまでも目安で、この症状がないと受診できないということではありません。話を聞いてもらうことで気持ちが楽になることにつながる場合もあると思うので「こんなことで受診してもいいのだろうか」と躊躇してしまうような悩みであっても、気にせずいらしてください。感じ方は人それぞれ。同じことであっても気にする人もいれば、まったく気にならない人もいます。ご自身が少しでもつらいと感じたら気軽に受診をしていただきたいですね。
最後に、今後の展望と読者の皆さんへメッセージをお願いします。
精神的に悩む患者さんの多くは、頭痛や肩凝りといった痛みにも悩まされています。そうした痛みを緩和するため、今後、運動などのケアを取り入れて、痛みのケアを行うクリニックとしても役割を果たしていきたいと考えています。皆さんにお伝えしたいのは、風邪と同じように心の不調は誰でもなり得るということです。そして、二次障害や症状の悪化を回避するためにも早めの受診が大切です。今身を置いている環境を調整することで、症状の改善につながるかもしれません。お子さんの不登校や引きこもりで悩まれている親御さんも、決して一人で悩まないでください。外来診療の他に訪問診療やオンライン診療など、それぞれの患者さんに合わせて関わりを持っていけたらと思っていますので、いつでもご相談ください。