高木 秀暢 院長の独自取材記事
済心ホームクリニック
(宇都宮市/宇都宮駅)
最終更新日:2024/12/02
2023年に栃木県宇都宮市に開院した「済心ホームクリニック」は在宅医療・訪問診療を中心としたクリニックだ。24時間365日の往診体制を整えて、患者の急変にも対応している。院長の高木秀暢先生は、心臓血管外科が専門で、15年にわたり手術などの急性期医療に携わってきた。現在は、得意分野の心臓疾患はもちろんのこと、がんや神経難病など多岐にわたる症状を抱える患者の訪問診療に奔走している。社会の高齢化が進み、どこで最期の時を過ごすかは高齢者自身にもその家族にも大きくのしかかる問題だ。安心して在宅・訪問診療を任せられる医師は今後ますます必要とされていくだろう。「済心ホームクリニック」というクリニック名は、「心も救われる」存在をめざして名づけられたという。熱い思いを抱く高木院長に、話を聞いた。
(取材日2024年10月15日)
心臓血管外科の臨床経験を経て、訪問診療メインに開院
開院までの経緯を教えてください。
出身は九州で、福岡県の大学を卒業後、慶應義塾大学病院での初期研修を経て、同大学の心臓血管外科に入局しました。その後、15年間にわたり手術などの急性期医療に携わってきました。医局からの派遣で2016年に宇都宮に来まして、済生会宇都宮病院の心臓血管外科に7年間在籍しました。心臓疾患の場合、術後に全身状態が悪化してしまう方が少なからずいらっしゃり、そういう方々へ充実した医療が提供できればと考えたのが、開院の一番のきっかけです。私は外科の現場で手術がしたくて医師をめざしたので、訪問診療を行う医師になる姿はまったく想像もしていませんでした。今も週に1回は済生会病院に行き、非常勤で心臓の手術を続けています。
訪問診療は主にどのように依頼されるのでしょう。
ケアマネジャーさんからのご紹介が多いですが、介護認定を受けていない方からのご依頼もあるので、こちらからケアマネジャーさんを紹介するケースもあります。訪問診療に関しては、心臓の疾患に限らず幅広く受け入れ、がんや神経難病の方など多岐にわたります。現在、常勤で私以外に2人の医師がいて、非常勤医師も5人いますが、それぞれ専門分野があるので、相談しながら診療できるのが、当院の強みだと思っています。神経難病の方も他のクリニックに比べると多いと思いますね。今では、私も多くの経験を積んでさまざまなことに対応できるようになりましたが、開院当初は専門以外の領域になると知らないことがあるので、各領域の専門の医師に相談できるような体制を整えることを心がけました。
訪問診療の依頼数の推移を教えてください。
当院への依頼は増えており、今後も需要は増えていくだろうと思います。新型コロナウイルス感染症の流行も影響して、今も面会の制限を行っている病院もあるので、病院に入院すると会えなくなるからという理由で在宅を選ばれるケースも多いですね。在宅は無理でも、有料老人ホームやサービスつき高齢者住宅などへの入居を決める方も多くいらっしゃいます。数ある訪問診療のクリニックから当院を選び、頼っていただいているので、依頼は断りたくないという気持ちでやっています。訪問診療に伺えるのは、当院から半径16km圏内にお住まいの方という制度上の決まりがあります。ですから、栃木県内の離れた地域からご依頼いただくこともあるのですが、それは、残念ながらお受けできません。
患者の家族にも寄り添い、地域医療を支える存在に
近年訪問診療を行うクリニックも増えてきたと思いますが、こちらならではの特徴はありますか?
例えば、肺に水がたまっている場合、針を刺して水を抜いてあげるための処置を行いますが、そういう外科処置は対応しないクリニックもあります。当院はご希望があれば、そういった外科的な処置も行うことができますね。ただし、医療のやりすぎも良くなくて、施せばいいわけでもありませんし、医療の押しつけになってしまうのも良くないので、その線引きが大事だとは思います。患者さんが希望された場合に、私の外科での経験を還元してお役に立てればいいなと思いますし、いろいろな選択肢を提供できるようにしたいと体制を整えています。
線引きという意味では、ご家族との緊密なやりとりが必要になる場面も多いと思います。
そうですね。患者さんやご家族のほとんどは医療に関しての知識がないので、こちらの言うことに従わざるを得ない場面が多いと思うのです。こちらの説明によっては、間違った方向に導いてしまう可能性もあるので、そこは気をつけなくてはならないと常に意識しています。例えば、がんの末期で食べられなくなった時、点滴をするのが一つの選択肢になってきます。ただし、ご家族は何かしてあげたいと思っていたとしても、ご本人はつらい痛みを抱えた状態が長引くのを希望していないかもしれません。医療者の「食べられなくなったから、点滴してあげましょうか?」といった伝え方一つで、本人は希望していないのに「じゃあ、ぜひ」と促されてしまうことが多いのですね。本当に医療者の言い方次第で、患者さんやご家族の意向が反映されなくなってしまう場面は往々にしてあり得るので、ミスリードしないように心がけています。
ご家族にとっては、信頼できる訪問診療があってこそ、在宅介護を選択できるともいえますね。
制度が整ってきたとはいえ、みんながみんな自宅で最期を迎えられるわけではありません。それは、ご家族のさまざまな努力があってこそですからね。在宅で介護を受けられていた方を看取った後、ご家族には「最期をこのように迎えられたのは、ご家族のサポートがあったからですよ」といったねぎらいの言葉を、必ずお伝えするように心がけています。
24時間365日。専門性を生かして良質な医療を提供
循環器をご専門とされていますが、どのようなことに気をつけて診療されていますか?
自覚症状はなくても、循環器が専門の医師が聴診器で胸の音を聞くと心雑音が聞こえる患者さんは、皆さんの想像よりも多くいらっしゃいます。聴診ですぐに手術が必要な疾患が見つかる可能性も考えられるため、心臓や血管を専門としてきた医療者として、しっかりと検査をしていきたいと心に誓っています。心臓はとても大事な臓器なので、辛抱強いといいますか、なかなか症状が出ないこともあります。逆にいうと、症状が出てからだと病気が進行しているともいえますので、その前に診断することの重要性を感じています。
24時間365日の診療体制でお忙しい毎日だと思いますが、何か工夫されていることはあるのでしょうか?
これはシステム的なことですが、電話でのやりとりは何かを行っていても手を止めなくてはいけませんし、負担がかかると感じています。ですから、患者さんの情報などに関しては、医師会も推奨しているスマートフォンのアプリケーションを利用してやりとりをしています。当院の診療でのニーズにも合っていて、それをうまく活用することで大きく負担を減らすことができました。そういうデジタルデバイスを使ってインフラを整えることも、所属する医師やスタッフたちの業務を効率化し、労働環境を整える上でとても大切だと思っています。それによって診療に力を注げるようになるので、ありがたいですね。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
在宅・訪問診療の医師は、患者さんにとってきっと最後の主治医です。それはとても責任が重いことだと捉えています。最期をどう過ごすかをご家族のお気持ちも踏まえて考えながら、安心して任せてもらえるようなクリニックでありたいと努力しています。需要が増えていることは日々感じていますが、提供できる医療の質を落とさないように体制を整えながら、当院を選んでくださった皆さんのお気持ちに応えていきたいです。