0~1歳の家庭内での不慮の事故
「窒息」と「溺水」の予防策
諸岡小児科ちくし通りクリニック
(福岡市博多区/竹下駅)
最終更新日:2024/02/02


- 保険診療
子どもは時に、親の想像をはるかに超える行動をする。特に成長著しい0~1歳期は、目を離したら何が起こるかわからない時期だ。「0歳~14歳の子どものうち、不幸にも命を落とす“不慮の事故”の約4割が0~1歳で起こり、その現場の多くは“家庭内”です」と教えてくれたのは、「諸岡小児科ちくし通りクリニック」の諸岡雄也院長。小児救急に携わってきた経験から、「どんなことが事故につながるのか、危険なのかを親御さんや周囲が知っておくことで未然に防げる事故もあります。大切な子どもの命を守るため、知識をアップデートしていきましょう」と力強く語る。今回は0~1歳期の家庭内での不慮の事故要因の上位である「ベッド内での窒息」「浴槽での溺水」に焦点を当て、その予防策について諸岡院長に聞いた。
(取材日2023年11月7日)
目次
睡眠環境を整えて、窒息と乳幼児突然死症候群予防を。入浴の際は「子どもは静かに溺れる」ことを忘れずに
- Q子どもの家庭内での事故にはどのようなものがありますか?
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A
▲子どもの運動機能の発達過程で起きやすい事故は変わっていく
足をバタバタさせる、寝返りをうつ、一人で座る、ハイハイする、立つ……生まれて1年ほどの間に子どもの運動機能は目覚ましく発達し、その段階によって発生しやすい事故は変わっていきます。やけど、歯ブラシでの喉突き、ペットに噛まれる動物咬傷、誤飲、転落、打撲など大小問わずさまざまな事故が起きていますが、悲しいことに子どもが亡くなってしまう家庭内事故で最も多いのが、0歳では「ベッド内での窒息」、1歳では「浴槽での溺水」です。厚生労働省の調査によると2016年~2020年の5年間で「ベッド内での窒息」は127件で、うち118件が0歳児、「浴槽での溺水」は131件でうち55件は0~1歳児の事故です。
- Qベッド内での窒息とは、どういう状況なのですか?
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A
▲乳幼児突然死症候群は少しの工夫や注意が予防につながる
うつぶせで寝てやわらかい寝具に顔が埋もれていた、紙おむつのパッケージが顔を覆っていた、酔った状態で添い寝して赤ちゃんに覆いかぶさっていた、などさまざまなケースがあります。日本では添い寝をする文化が残っていますし、赤ちゃんにふわふわの布団を掛けたり、よかれと思ってベッドガードをつけたり、そばにぬいぐるみを置いたりする様子もよく見かけますが、それは「危ない」という認識をぜひ持ってほしいと思います。またうつぶせ寝は、それまで健康だった乳幼児に起こる原因不明の突然死「乳幼児突然死症候群(SIDS)」を引き起こすリスクにもなります。睡眠の環境を整えることは、窒息と同時にSIDSの予防にもつながるのです。
- Q睡眠環境の整え方を具体的に教えてください。
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A
▲大切な命を守るため、なにが危険なのかを事前に知ることが重要
さまざまな睡眠環境の工夫による予防策があります。例えば、平らな場所に、うつぶせ寝ではなく仰向けで寝かせる。やわらかい寝具は置かず、固いマットレスを使う。枕も不要。布団ではなくスリーパーを着せる、などです。寝る場所については、親と同じ部屋の違う寝床で寝て、添い寝は基本的に望ましくありません。厚着させない……といった工夫もあります。すべてを完璧にする必要はありませんが、できる範囲で睡眠環境を見直してみてください。また、うつぶせ寝は避けるべきですが、起きている時にうつぶせで遊ばせることはSIDSのリスクを下げることがわかっています。よく見守れる時間に数分から始めてみてください。
- Q1歳になると、「浴槽での溺水」による事故が急増しますね。
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A
▲一つ一つの予防の積み重ねが悲しい事故を減らす
子どもが立てるようになると、親にとってはお風呂が一気に楽になりますが、ここで油断してはいけません。一緒にお風呂に入っていても、親がシャンプーしている数十秒の間に子どもが浴槽に浮いていた、という話も身近に聞いたことがあります。まして、親が先にお風呂から上がって子どもを浴槽内に残す、子どもに浮き輪をつけて目を離す、入浴後に浴槽の水を抜いていない、浴室に子どもが自由に出入りできる状態にしておくのはとても危険です。子どもは数秒、数センチの水で溺れてしまうと覚えておきましょう。
- Q浴槽での事故に対しては、どのような予防策がありますか?
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A
▲子どもたちの一番の味方でありたいと話す院長
目を離さないことがまず大切です。“子どもは静かに早く溺れる”という話を聞いたことがある方も多いと思います。人が溺れる時、ギャーギャー騒いで手足をバタバタさせるのは映画の中だけ。実際は声も出ません。体の小さい子どもは特に早く、何が起きているかもわからないまま静かに溺れます。子どもの溺水事故を経験した保護者は「助けを求める声は聞こえなかった」と話されるように、耳は頼りにならないのです。しかし一瞬たりとも目を離さないことは現実的には難しいですよね。洗髪時は子どもを浴槽から出す、子どもだけで入浴させない、浴槽で浮き輪を使わないなどの予防策を一つずつ積み重ねていきましょう。