金子 浩之 院長の独自取材記事
南郡元在宅医療クリニック
(鹿児島市/涙橋駅)
最終更新日:2024/09/25

鹿児島市内の訪問診療を担うべく、2023年10月に開業した「南郡元在宅医療クリニック」。院長の金子浩之先生は「患者さんやご家族にとって、使い勝手のいいクリニックでありたい」と、24時間365日、患者からの連絡があればいつでも対応する姿勢だ。大学医局員として鹿児島市だけでなく薩摩川内市、都城市で研鑽を重ねてきた金子先生。脳神経内科が地域にとって非常に重要な存在であることを各地で実感し、内科と脳神経内科、そして緩和ケア内科の3つを標榜する、訪問診療メインのクリニックを開業。一般内科・神経難病に関わらず医師が患者のもとを訪れることで通院の負担を減らしたいと考えている。患者やサポートする家族の思いを尊重し、どんな時でも頼れる存在をめざしたいと話す金子先生にクリニックの診療方針や強みなどの話を聞いた。
(取材日2023年6月6日/情報更新日2023年10月10日)
地域での神経内科医の必要性を強く実感した医局時代
医師をめざしたきっかけと、これまでの経歴について教えてください。

祖父と父が内科医で、南さつま市でクリニックを開業していました。地域の方々の体調不良やさまざまな病気を診察する、いわゆる町のクリニックです。父は常に忙しく、毎日僕が起きる前に家を出て、僕が寝た後に帰ってくるような生活でした。あまり遊ぶ時間もなく、当時は少し寂しい気持ちもありましたが、強い責任感を持って患者さんを診察する姿に憧れていて、自分も自然と医師をめざすようになりました。埼玉医科大学を卒業後、2年間、東京医科大学病院で学び、3年目に鹿児島大学病院の神経内科に入局しました。それからは神経内科を専門に、鹿児島大学病院、鹿児島市医師会病院や都城市の藤元総合病院などで研鑽し、日本神経学会神経内科専門医取得後は、緩和ケア内科で、がん患者の緩和ケアだけでなく神経難病の終末期でもオピオイド(医療用麻薬)の導入に対応できるように経験を積みました。
なぜ神経内科を専門に選ばれたのでしょうか?
神経内科は奥が深く、わかっていないことも多い分野。そこに興味を持ったというのが一つですね。もう一つは、父から「医師として働くなら、一生かけて学べる分野を選んだほうがいい」と言われたから。長年医師として働いてきた先輩ですから、とても説得力がありました。入局後、各地で働く中で神経内科医が必要とされているのを肌で感じてきました。都城市にある藤元総合病院に勤めていた時、初診の患者さんへさまざまな検査を行い診断し、入院させ治療を行って、また自分の外来でフォローしていました。経過が長い患者さんのご家族からは日々のちょっとした表情の違いで体調を推し量ることも学びました。幅広い症状や患者さん、ご家族と向き合いながら、神経内科医として濃い1年間を過ごしました。
開業しようと思った理由を教えてください。また、クリニックの場所に南郡元町を選んだのはなぜですか?

今、日本各地で高齢化や人口減少が大きな問題となっていますが、鹿児島も例外ではありません。今後、訪問診療のニーズはさらに高まってくると考え、自分の知識や技術を生かして訪問診療をメインに行うクリニックを開業しようと決めました。ただ、訪問診療というのは医師1人だけの力では継続できません。サポートしてくれるスタッフはもちろん、訪問看護師や救急診療を行う総合病院の存在など必要な条件がそろって初めて訪問診療は成り立ちます。南郡元町は、そうした条件が整った環境にありました。さらに、これから人口が増えてくるだろうと予想される地域とも適度な距離感で結ばれていて、その立地の良さにも惹かれて選びました。
訪問診療を通して、神経難病患者や高齢者を見守りたい
訪問診療の対象範囲や、患者の層について教えてください。

クリニックから車で片道30分くらいの場所まで対応します。具体的には、北は伊敷や草牟田、南は谷山、坂之上辺り、西は松元辺りまでを考えています。患者さんの層としては、65歳以上の高齢者の方が中心です。年齢や持病、障害を理由に通院が難しい方のご自宅、または高齢者施設などに伺い、訪問診療や往診を行い、神経難病、一般内科から緩和ケア科まで広く対応します。訪問先でも外来とある程度同じレベルの診察を行えるよう、持ち歩き式のポータブルエコーを用意しました。あとは、経鼻内視鏡を用いた、自宅での嚥下機能評価も積極的に行っていきたいと考えています。一般内科と同じく発熱や腹痛、便秘などの不調、体のさまざまな悩みをご相談くださいね。また、枠は限られますが、完全予約制で外来診療も行えるよう設備を整えています。
これまでの先生の経験から訪問診療における強みはありますか?
僕はこれまで、神経内科専門の医師としてさまざまな神経難病の患者さんを担当してきました。こうした患者さんたちにとって、専門の病院での定期的な外来受診や検査は病状を把握するために大切です。何より入院して治療できることはメリットだと考えています。一方で、病気に関わらず年齢を重ねると通院というのは身体的にも精神的にも大きな負担になるのも事実。通院にはご家族のサポートも必要になりますので、本人はもちろんご家族の負担も考えなくてはなりません。訪問診療を行う最大のメリットは、医師が患者さんの自宅に赴くことで通院の必要がなくなり、患者さんやそのご家族の負担を大幅に減らすことができることだと思います。僕はフットワークは軽いほうだと自負していますので、平日夜間・土日でも対応できますし、がん性疼痛や非がん性疼痛の疼痛管理や自宅でのお看取りにも対応します。
診察する上で、大切にしていきたいことを教えてください。

訪問診療と通常の外来の大きな違いは、相手の生活に入り込むというところだと思います。患者さんもいろいろな方がいて、ご家族もそれぞれの考え方があり、人生観や価値観は異なります。自宅に伺った時に、僕たち医療従事者側からすると「もっとこうしたほうがいい」と言いたくなってしまうことがあっても、本人やご家族からすればすでに満足できる状況ということも。そのため、こちらの価値観を一方的に押しつけたりせずに、個々の価値観を尊重し、本人が望む医療を提供していきたいと思います。患者さんだけでなく、支えるご家族の方々にも寄り添っていきたいですね。ご家族が疲れている時には、患者さんに1週間程度入院してもらうレスパイトという選択肢を提案するなど、その時々で「頑張りすぎなくていいんだよ」と伝えられたらと考えています。
めざすのは、患者と信頼関係で結ばれたクリニック
忙しい日々を過ごされていると思いますが、ご自身のリフレッシュ方法はありますか?

もともと疲れを感じにくいタイプではありますが、家に帰って子どもたちの顔を見ると、どんな疲れも吹き飛びます。子どもは長女と次女の2人です。何をしてもかわいいので自分で言うのもなんですけど本当に親ばかという感じですね(笑)。普段は忙しくしているので、土日など休みの日には、一緒に出かけたり公園で自転車に乗ったり、子どもと過ごすと決めています。一緒に遊ぶと自然といい運動になるので、それがストレス解消にもなっているのかもしれません。
地域にとってどのようなクリニックになりたいとお考えですか?
地域の方々にとってのいいクリニックと、医療従事者側が考えるいいクリニックというのは少し差があると思います。僕が一番理想としているのは、患者さんやご家族にとって「使い勝手のいいクリニック」です。夜中や休日関係なく、患者さんが必要としていればいつでも駆けつける、そんな存在でありたいと思っています。父がまさにそうした医師でした。幼い頃から憧れた父のように、自分自身も患者さんと信頼関係で結ばれた医師になり、地域に貢献できるクリニックをめざしていきたいです。
最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

当院は、内科と脳神経内科、そして緩和ケア内科の3つを標榜する、訪問診療メインのクリニックです。高齢化や人口減少が進む中で、訪問診療を望む方々にとってのかかりつけ医になりたいと考え、南郡元町で開業しました。鹿児島市内では、訪問診療を行っている脳神経内科のクリニックはまだまだ少ない状況です。一般内科の方はもちろんですが、神経難病と闘っている方や、がんの緩和ケアを希望される方がいましたら、まずはお気軽にご相談ください。これまでの経験や知識、技術を生かして、患者さんやご家族に寄り添った医療を提供していきたいと考えております。