冨永 陽介 院長の独自取材記事
金沢八景痛みのクリニック まどかに
(横浜市金沢区/金沢八景駅)
最終更新日:2025/11/14
金沢八景駅から徒歩5分の「金沢八景痛みのクリニック まどかに」は、慢性痛治療に新たな光を当てるクリニックだ。冨永陽介院長は、麻酔科で培った横断的視点と精神科で得た心理的アプローチを融合し、独自の診療体制を築いている。「痛みを抱える人の裏にある、その人が抱える生活に目を向けたい」と語る院長。院名「まどかに」には、患者本来の回復力を信じ、花を咲かせ実を結ぶまでの力を引き出したいという願いが込められている。ペインクリニックとは何か、痛みと精神の関係性、そして痛みの向こうにある患者の生活をどう支えるか。冨永陽介院長に診療への思いや治療の特徴について話を聞いた。
(取材日2025年10月14日)
痛みの向こうにある生活を見つめて
開業に至った経緯を教えてください。

麻酔科の医師として長年勤務してきましたが、病院では各診療科が縦割りになっていて、痛みという横断的な問題に対して包括的なアプローチが難しかったんです。慢性痛の患者さんは急性期病院の対象ではないことも多く、じっくり向き合える環境がありませんでした。理想は痛みの治療に専念する部門をつくることでしたが、海外では各拠点に設置されているような部門が日本では機能していない現状がありました。そこで、少しでも理想に近い形で、痛みで苦しむ人々に寄り添える場所をつくりたいと考え、開業を決意しました。「元気なうちにやりたいことをやらないと」という思いもありましたね。麻酔科の医師の開業は珍しいですが、自分の理想とする医療を実現するため、思いきって踏み出しました。
どのような経歴をお持ちですか?
宮崎医科大学を卒業後、帝京大学医学部附属市原病院の麻酔科に入局しました。オーストラリアへの留学も経験し、2010年からペインクリニック領域に本格的に取り組み始めました。横浜市立大学病院、市民総合医療センター両病院のペインクリニックの改善整備に携わり、東京慈恵会医科大学への国内留学もいたしました。そこで多くの難治性疼痛の患者さんと出会い、痛みの評価診療には精神医療の視点が不可欠だと実感したんです。それもあって昭和大学附属烏山病院で精神科に赴任し、知的障害専門病院での診療にも携わりました。麻酔科の医師としてさまざまな診療科を横断的に見る視点と、精神科の知識を併せ持つことで、痛みを多面的に評価できるようになりました。
院名「まどかに」にはどんな思いが込められていますか?

ある禅僧の「種智をまどかにせんことを」という言葉から取りました。蓮の花が種から芽を出し、花を咲かせ実を結ぶ力がもともと備わっているように、人間にも生まれながらにして花を咲かせ実を結ぶまでの力があるはずなんです。でも、ここに来る人は「自分の力ではもう何もできない」と絶望を抱えてやってきます。そういう方々に適切な環境を与えてあげれば、必ず花を咲かせて実を結べるようになると信じています。「まどか」は円と書いて、花が咲いて実を結ぶことを表します。患者さん本来の力を信じて、その方向へ導いていきたい。決して私が治療するのではなく、もともと備わっている回復力を引き出すお手伝いをする、そんな思いを込めています。
包括的な視点で痛みに向き合う
ペインクリニックとはどのような領域ですか?

通常の治療で改善しない痛みを専門的に扱う領域です。骨折は治ったのに痛みが残る、インフルエンザは治ったけれど喉の痛みが続くといった、3ヵ月以上続く慢性痛が主な対象です。実は国民の2割が慢性痛を抱えているとされ、高齢化でさらなる増加が予想されています。当院には、他院でいろいろ言われて迷ってしまった方、お尻の痛みや舌の痛みなど、どこに相談していいかわからない痛みを抱えた方が多く来院されます。40代後半から60代の女性が多く、全身が痛い、朝起きて洗濯物を干すのも腕が上がらないといった、生活に支障を来す症状などに悩まれているようです。痛みそのものにアプローチして、生活の質の改善を図ることが私たちの役割です。
痛みと精神の関係性について教えてください。
痛みは実は脳の病気と言われています。腰が痛いと感じても、それは腰で感じているのではなく脳が感じているわけです。慢性痛では、痛みの原因がなくなっても脳の神経の可塑性変化により痛みが続くことがあります。そこで重要になるのが、身体的な痛み、心理的な痛み、社会的な痛み、スピリチュアルペインという4つの側面から評価することです。日本のペインクリニックは注射治療のイメージが強いですが、世界的には心理や運動、東洋医学的なアプローチなどさまざまな選択肢があります。私も若い頃は注射ばかりを担っていましたが、それだけでは改善しない患者さんが多いことに気づきました。痛みで困っている人の多くは、実は注射の適応ではないケースも多いんです。
診療で大切にしていることは何ですか?

まず患者さんの苦しみをしっかり聞くことです。「どんなところで苦しいんですか? 痛みの何が苦しいんですか? 痛みがあることで何が困っているんですか?」と問いかけ、じっくり話してもらいます。仕事ができないことがつらいのか、家事ができないのが困るのか、家族に何もできないことが苦しいのか。痛みを取るだけでなく、その痛みを抱えた患者さんの苦しみやつらさに光を当て、いかに良くしてあげるかを考えます。そして、身体所見も重視しています。触診によって筋肉の張りや関節の拘縮など、細かいことがわかることも多いんです。医師にしかできない身体診察をしっかり行い、病気だけでなくその人が苦しんでいる原因を総合的に評価します。痛みを抱える人の裏にある生活に目を向ける、それが私の診療の核心です。
チーム医療で回復への道筋を支える
カウンセラーとの連携について教えてください。

今年4月から心理カウンセラー2人が加わり、より包括的な体制が整いました。初診は私が担当し、心の問題が強い影響を与えている患者さんにはカウンセリングを提案します。意欲が湧かない、つらい気持ちを抱えている、家族にも話せない悩みがあるといった方々です。初回は50分のインテーク面接を行い、その後は月1回以上の継続的なカウンセリングを行います。「話せる機会があって良かった」「聞いてもらって安心を得られた」とほっとしていただけるとうれしいです。痛みの治療には身体的アプローチだけでなく、心の安全をつくることも重要です。医師の診察とカウンセリングを組み合わせることで、より患者さんに寄り添える体制を整えることができました。
今後の展望をお聞かせください。
理学療法士や作業療法士の採用を検討しています。痛みがある人は怖くて体を動かせないことが多いのですが、トレーナーが「ここまでなら大丈夫」と伴走することで、驚くほどの改善が見込めるケースがあります。運動療法は体に働きかけるだけでなく、患者さんのマインドにもつながる重要な治療です。また、地域ケアプラザとの連携も強化していきます。痛みで外に出られない、社会的に孤立してしまった方々への訪問も行っています。医療だけでなく、介護や福祉につなぐことも大切です。その人にとって何が必要か、医療の枠を超えてサポートすることが、健康価値観の向上につながると考えています。
読者へのメッセージをお願いします。

体のつらい痛みで困っていて、もう希望もなくなってしまった方、家族にそういう方がいる場合は、ぜひ相談してください。何かできることがあるかもしれません。皆さん自信をなくして来られますが、あなたにはもともとたくましく生きる力があるんです。その力を信じて、一緒に立ち直る道を探しましょう。痛みは決して一人で立ち向かうべきものではありません。目の前の痛みを取り除くだけでなく、長期にわたって痛みのある生活から回復することをめざします。私たちは痛みの評価をさまざまな視点で行い、全体的に網羅した視点で「あなたの問題はこういうことですよ」と整理します。ここに来て少しでも気持ちが楽になった、まどかの方向に向かえたと思っていただけるよう、全力でサポートします。
自由診療費用の目安
自由診療とはカウンセリング/25分:3300円、50分:5500円

