下山 忠明 院長の独自取材記事
平和島駅前歯科医院
(大田区/平和島駅)
最終更新日:2025/04/09

京急本線平和島駅前にある「平和島駅前歯科医院」は、肉眼では識別できない高い精度の治療を、拡大鏡を使用して可能にしている。また院長の下山忠明先生は、医師会、総合病院との連携を保ち、さまざまなネットワークを駆使して、患者のニーズにきめ細かく応えている。「昔と違って、歯科医師に求められる範囲は広がっています。歯はもちろんですが、それだけではなく、食べること、飲み込むことを通して、高齢者の健康をケアしていくことも、重要な役割なのでは」と話す。35年以上にわたり地域医療を支えてきた同院を訪れ、歯科医師が果たすべき役割とその現状を取材した。
(取材日2014年7月15日/更新日2025年2月25日)
長寿社会によって改めて顕在化した治療ニーズとは
ご職業柄、やはり細かい作業はお好きなんですか?

物をカチッと仕上げていくのが好きですね。子どもの頃から、いろんな物を作るのが好きでした。いわゆるDIYが好きで、院内のバックヤードに備えつけてある棚は、全部自分で作ったんですよ。なかなかこれといったものがなかったので、自分で作ったほうが早いかなと思いまして。また、わりと道具に凝る方ですね。当院では、ドイツ製の拡大鏡を使用した施術をしているのですが、非常にレンズが明るく、自分の目で確認して精密に仕上げていく。そういった職人気質のようなところがありますね。
歯科医師という職業を選ばれた理由も、その延長線上にあるのでしょうか?
それもありますが、物を作って終わりではなく、患者さんとの、人のつながりを直接持てるところに魅力を感じました。また、日々の自己研鑽で技術向上が望める、また、その結果が比較的早く出る。極端な言い方をすると「昨日の発見が今日の治療に生かせる」ところも面白いですよね。ですから、いろんな講演会、デンタルショーや見本市などに出かけると、いつも刺激を受けるんです。拡大鏡もその一例で、自分が興味を持って取り組んだ結果が患者さんの治療に、少しでもお役に立てればと思っています。わがままを、たくさん言っていただき、それにどこまで答えられるか、また、患者さんの“わがまま”が、医療技術の向上に結びつくものだと、思っています。
歯科医師会での活動にも精力的に取り組まれてきたそうですね。

一般の医師と歯科医師が連携して、地域に貢献できるような活動を続けています。というのも、歯科医師が扱う分野が年々広がっていく傾向にあり、もはや歯だけを診ていればいい時代ではなくなってきたからです。例えば、誤嚥(ごえん)性肺炎。喉には弁があり、健康な人であれば、意識しないでも食べ物を食道へ通すことができますが、老化などが原因で喉の筋肉が衰えてくると、気管のほうに入ってしまうことがあるのです。こうした疾患は以前からあったものなのでしょうが、平均寿命が延びたことにより、より顕在化してきました。名は実を表すではないですが、かつては「むし歯予防DAY」だったものが、最近では「歯と口の健康週間」になったことにも象徴されていると思います。
状況に応じた、治療方法の選択が大切
開業までの経緯を教えてください。

一般に何にでも言えることですが、教科書がすべてを網羅しているのではなく、現場に合わせた対応が大切になってきます。時間はかかりますが、患者さんの、要求をよく聞いて、その患者さんに最良の方法を選び、ゴールを見定めていくことが大切だと思います。わりと、何でも自分でやるほうでして、「自分の歯科医院を持ち、一貫した治療方針で治療に臨みたい」というのが開業のきっかけですね。
どのような患者さんが多いのでしょう?
年代や男女の割合、予防で来られる方もいれば、症状が出てから、いらっしゃる方もいます。さまざまなタイプの患者さんを通して気づいたのは、患者さんの「はい」を盲信しないことですね。歯科医院のあの診療台に座ると、皆さんどうしても緊張されますから、何を聞いても「はい」と答えることが多いのです。また以前、鉄棒から落ちて、永久歯が破折、脱離、つまり歯根破折したお子さんが来院されたことがあるのですが、これは、抜かなければならない、また永久歯なので抜歯したところは、急性症状が治まってから相談しましょうと、懇切丁寧に説明したつもりでいました。ところが説明後に、「いつになれば、新しい歯が生えてきますか?」と質問を受けた時は、やはり自分の説明不足を実感しました。こういったことからも、わかりやすい説明を心がけるとともに、ちゃんと理解してくれているかを確認しながらコミュニケーションをしていく必要を、特に感じます。
具体的にはどのように確認されるのですか?

緊張をほぐすことから始めます。そして、一度に多くのことを説明しないよう、気を配っています。まずは、現状の把握に努め、主訴の解決に絞り込むことが大切ですね。急性症状があり、痛いと言っている患者さんに予防の必要性を説いても、頭に入らないでしょうから、一通りの治療が終わり、気持ちも落ち着いてから、今後のことについて相談していきます。また、「はい」「いいえ」にならないような質問を投げかけ、患者さんのリアクションを待つこともあります。いろんな手法を講じて、理解度を確認するように心がけています。
良い歯科治療には、コミュニケーションが不可欠
特に力を入れている治療はありますか?

個人開業医ですので、あらゆる疾患に対応できるよう、一般歯科全般に力を入れています。まずは主訴をよく聞き、保険診療を中心に症状に即した治療プランをご提案します。保険外の治療に関しては、メリットとデメリットの説明もしっかりいたします。大きくは、補綴物になるかと思いますが、保険外の場合は扱える素材が幅広くなりますので、患者さんにとってもメリットが大きいと思います。
得意な補綴について、詳しくお願いします。
最近は、歯と同じような色合いで仕上げることができるセラミック系の材質が豊富に開発されています、いずれも一長一短ありますが、エイジングケアの観点からも、今後ますますニーズが高まってくると思います。金属と比べると審美性に優れており、生体親和性も高いです。選択する基準は、色合いや硬さなど、年齢や対合歯の状態によって人それぞれだと思います。必ずしも高価な物が優れているとは限りません。補綴物の選択だけではなく、最終的には患者さんが何を望まれるか、その人に最も合うのは何かという視点も大切です。医学的な知見を押しつけるのではなく、患者さんと一緒にゴールを見つけて、ベストな方法を提案していくことができればと考えております。時には、ブラッシングの指導や筋肉の回復を促すトレーニングも、その中に含まれます。ゴールまでの答えが一つではないとろが歯科医師として一番やりがいを感じるところです。
最後に、読者に向けてアドバイスをいただけますか?

良い歯科治療には患者さんと歯科医師とのコミュニケーションが一番大切だと思います。あまり受け身になりすぎず、積極的に自分の希望を述べることも大切です。できることに限界はあると思いますが、それに沿えるように努力してもらえると思います。あとは、信頼関係を築ける歯科医師との出会いが欠かせません。ぜひ良いパートナーを見つけていただきたいと思います。