松浦 良平 院長の独自取材記事
りょうハートクリニック
(吹田市/岸辺駅)
最終更新日:2024/01/23
大阪府吹田市。企業や学校が多く、大阪市のベッドタウンでもあるこの地に、2023年5月「りょうハートクリニック」がオープンした。院長の松浦良平先生は、大学病院で経験を積んだ心臓血管外科、特に補助人工心臓のエキスパートであり、現在は心臓血管外科と訪問診療の両輪で地域医療に貢献している。さらに「幅広く地域医療に貢献したい」と、クリニックの診療科は心臓血管外科や循環器内科にとどまらず、外科、内科、脳神経外科、精神科など多岐にわたる。なぜ手術のエキスパートが訪問診療なのか、地域医療では何を大切にしているのか。「来たら落ち着くような内装を心がけた」「病院ではなくカフェのような雰囲気にした」という、落ち着いた木目が印象的なこのクリニックで松浦院長に話を聞いた。
(取材日2023年12月28日)
「自分の腕で治療したい」と、薬剤師から医師へ
こちらに開業された経緯を教えてください。
大阪大学医学部を卒業後、大阪大学医学部附属病院や関連病院で心臓血管外科の医師としてやってきました。私の専門分野の1つに補助人工心臓(Ventricular Assist Device:VAD)があるのですが、大学病院でVADを埋め込む手術をした後の患者さんが自宅で何かあった時の受け皿がないことにもどかしさを感じていました。もちろん大学病院で定期的な外来フォローはしていますが、突発的に何かあった時に相談できるところがないと思ったのです。近くの医療機関に駆け込もうにも自分で外出するのが難しい患者さんも多く、徐々に在宅医療の必要性を強く感じるようになりました。そんな経緯から、この吹田市に開業しようと決めました。
吹田市はどんな土地ですか?
大阪大学出身の私にとって愛着のある土地というのはもちろんですが、企業の本社や大学もあり、また大阪市のベッドタウンでもあることから、比較的ファミリー層が多いと思います。しかしその分、お子さまが独立されて老老介護となっているご家庭も多くいらっしゃり、これはここ数年でさらに増えてきているように感じますね。「子どもは大阪府内にいるけれど、車で1時間以上かかってしまう」という独居の高齢者も多く、訪問診療、訪問介護の需要が特に大きい場所だと思います。さらに、吹田市には大阪大学医学部附属病院だけでなく国立循環器病研究センターもあり、同じくVADや心不全の在宅患者さんが多くいらっしゃるので、私の専門性が生かせると思いました。
医師を志したきっかけなどをお聞かせください。
もともと建築や宇宙工学に興味があり、東京大学の理I過程に入りました。最初の2年間は教養学部で学び、3年次に配属を決める際には、有機化学に興味があったこともあり薬学部に進みました。実は私は、薬剤師でもあるんです。そのまま研究を続け、新薬を開発して世界中の病気に苦しむ人を救いたいという思いもあったのですが「もっとダイレクトに患者さんと向き合いたい」「できることなら自分の腕で治療したい」と思い、医学部に入り直しました。異色の経歴と言われることもありますが、もっと患者さんとしっかり関わりたいと思っていわゆるコメディカルから医師を志す人は少なくないと思います。
時間をかけ、目線を合わせ、信頼関係を作っていく
なぜ心臓血管外科を選択し、その後在宅医療に進まれたのですか?
動いている臓器に興味があったのです。手術中は基本的にどの臓器も止まっていますが、心臓だけは、特殊なケースをのぞいて手術中も拍動を続けています。そんな状況下で処置することに医療の醍醐味を感じました。麻酔をかけても拍動を続ける心臓や、それを一旦止めてポンプを設置してまた動かすと動きが変わる、といった生理学的な現象にも興味がありましたし、手術そのものの繊細さとダイナミックさにも惹かれ、心臓血管外科を選びました。その後、手術や研究を一通り経験し、先ほどお伝えしたような理由もあって、興味の対象が「手術そのもの」から「患者さん」に移ったのだと思います。これまでのキャリアをどうするのかという迷いもありましたが「人と違うことをやりたい」と思い、この道を選びました。
クリニックには、ほかの診療科もありますね。
そうですね。VADは私のライフワークですが、循環器に限定せず吹田市の地域医療に幅広く貢献したいので、一般内科も広く診ていますし、外科的な処置にも対応できるよう設備も整えています。また、地域医療や在宅医療における精神科のフォローもまだまだ手薄なのでは?という思いから、脳神経外科、精神科の医師にも在籍してもらいました。例えば、VADや心不全などで私が診ている患者さんでも、ご家族から「認知症が気になる」「普段から頭が痛い」「あまり眠れない」「気分がすぐれない」と相談されれば彼に声をかけて診てもらえますし、彼がフォローしている精神科の患者さんで心不全が疑われる場合には自分が診に行くなど、お互いに協力し合えます。脳卒中後遺症や認知症の患者さんなど、脳機能や精神面でのケアを必要としている患者さんは潜在的にまだたくさんいると思います。
訪問診療する際、大切にしていることは?
「親身に」「目線を同じく」ということですかね。あまり「医師」という感じではなく「患者さんも自分も1人の人間」と思って向き合っています。大学病院に勤務していた頃は患者さんの生活が見えていなかったと、今になって感じますね。在宅医療を始めて患者さん一人ひとりに時間をかけていくと、患者さんって、本当は医師に話したいことがたくさんあるのだとわかります。困っていることや不安なことだけでなく、日常の些細なことまで。以前は「何歩歩きました?」だったのが「どこに行きました?」となり、そこから「そのお店で何を食べたんですか?」と、さらに話が広がります。こういった何でもない会話が、患者さんとの信頼関係を構築していくのにすごく役立つと感じます。じっくり話ができるのが訪問診療の良いところですね。
シームレスな連携が、より良い地域医療につながる
では、在宅医療の難しさを感じることはありますか?
在宅医療を知れば知るほど、ケースワーキングの重要さを痛感しています。患者さんの身体だけを見ていてもダメで、介護サービスや生活環境など、生活全体を考えていかなければなりません。また、在宅医療は、訪問診療だけで成り立つわけではなく、地域の主幹病院との連携や地域包括ケアセンターなどとのネットワークづくりも必要です。あとは、運転が大変ですね(笑)。この地域に医療機関が少なく、VADの訪問診療ができるのが現時点で私しかいないため、車で1時間くらいかかるところまで私がカバーしています。体力的にもちょっとキツいと感じることはありますし、何か連絡をもらったときにすぐには駆けつけてあげられないもどかしさもあります。ゆくゆくは看護師などと一緒に訪問できたら良いですね。
先生の今後の展望を教えてください。
ライフワークとしてVADの患者さんをサポートしていきたいのと、吹田市の地域医療にさらに貢献していきたいですね。特に、心不全をはじめとした循環器疾患の在宅医療をもっと普及させていきたいと思っています。繰り返しになりますが地域医療は他施設との連携が大切なので、地域でシームレスに連携できるよう、そういった支援ツールやサービスも活用していき、患者さんにより良い医療・介護サービスを提供していきたいですね。
最後に、読者にメッセージをお願いします。
在宅医療は「じっくり診られること」が強みだと思っています。例えば救急の外来などで「加齢によるものでしょう」と言われても、投薬状況などを一つ一つ見直すことで、患者さんを一見しただけではわからなかったことが見えてきて、適切な対応が可能となることもあります。VADの方はもちろんのこと、心不全や末期がん、認知症・精神疾患などで在宅での医療を検討されている方や、在宅医療・介護に困りごとを抱えている患者さんやご家族の方は、ぜひ一度、当クリニックにご相談ください。診療は予約制ですが、まずはお電話いただければ、お話をうかがい、訪問診療など必要な対応を取らせていただきます。