菅澤 恵子 院長の独自取材記事
蒲田西口耳鼻咽喉科・めまいクリニック
(大田区/蒲田駅)
最終更新日:2025/05/12

2003年、蒲田駅西口から徒歩2分の場所に開業した「蒲田西口クリニック」は、2020年9月に「蒲田西口耳鼻咽喉科・めまいクリニック」と改称。菅澤恵子院長の専門性を生かしためまい診療をより充実させていくことを打ち出した。めまいは耳の平衡機能に原因がある場合が多いが、他にも脳神経系、循環器系、あるいは心に原因の場合もあるという。菅澤院長は耳だけでなく、その他の原因が由来のめまいについても豊富な診療経験を持つ。その経験・知識とともに、診断に必要な検査機器もそろえて、めまい診療に取り組んでいきたいと語る菅澤院長に、めまい治療にかける思いを語ってもらった。
(取材日2025年4月3日)
回転性のめまいなら、まず耳鼻咽喉科へ
めまい診療に取り組むようになったきっかけを教えてください。

大学を卒業後、大学病院に勤務していたのですが、結婚して子どもが2人生まれ、手術を担当することが難しくなってきました。そこで耳鼻咽喉科の中でも手術をする機会の少ない、めまいという分野を専門にしたいと考えたのがきっかけです。当時勤務していた東京大学医学部附属病院の耳鼻咽喉科にはめまいを専門に診る外来があり、さらに非常勤医として東京都立神経病院神経耳科の外来に勤務しました。ここでめまいの原因が脳神経にある患者さんを診る機会を得て、耳由来、脳神経由来、両方のめまいの診療の経験を積むことができました。クリニックでも自信を持って診察や診療ができるのは、この時の経験があるからだと思っています。
2020年からは、クリニックでもめまい診療を打ち出すようになりましたね。
めまいは耳鼻咽喉科が専門とする診療分野の一つです。私は以前からめまいの診療に力を入れてきましたが、クリニック名を変更したのは、耳石器の機能評価ができるVEMP(前庭誘発筋電位)検査を導入したのがきっかけでした。耳石器は平衡機能を司る内耳の器官の一つです。VEMPの検査機器の導入によりクリニックでも機能評価ができるようになったので、めまい専門を打ち出しても良いかなと思いました。もちろん、めまい以外の耳鼻咽喉科についてもできる限り機器をそろえ、新しい知識を取り入れて診療を続けています。
めまいを耳鼻咽喉科で診てもらえると知らない方も多いのでは?

そうですね。めまいの原因は耳にあることが多いのですが、吐き気や頭痛を伴うことも多いので、すぐに耳鼻咽喉科を受診せず、内科や脳神経外科を受診される方が多いようです。でも耳の中に原因がある場合は他の科では診断がつかず、「いくつかの科を受診したけれど、原因がわからない」「精神的なものではないかと言われた」と、最後に耳鼻咽喉科を受診する患者さんも少なくありません。もちろん、脳神経に何らかの問題があって起きるめまいもあります。手足がしびれる、歩けない、激しい頭痛などの症状があるときは、脳神経科を受診なさるのが良いでしょう。天井がぐるぐる回っているように感じる回転系の強いめまいの場合は、まずは耳鼻咽喉科の受診をお勧めします。
専門的な診療が可能な体制を整え、漢方も加えた治療を
めまいの診察はどのように行われますか?

まず問診を行います。患者さんの症状をお聞きすることで耳に問題があるのか、それ以外の原因から来ているのか、だいたい判断がつきますが、その後、必要と思われる各種検査を行って診断を確定させます。検査で一番大事にしているのは患者さんの目の動きです。例えば耳の平衡機能に異常があると、「眼振」という自分の意志とは関係なくけいれんしたような目の動きが現れます。それが脳の平衡機能に由来するものだと、眼振だけでなく他の眼球運動でも異常が起きます。最近導入したVOG(ビデオ眼振検査)と呼ばれる検査機器を使うことで、そういった眼球運動を解析し、内耳の三半規管の機能評価や脳の平衡機能評価などができるようになりました。検査はVOG以外にも先ほど申し上げたVEMPや聴力検査など、さまざまな可能性を考慮して行います。充実した検査機器と私の経験・知識で、大学病院と同レベルをめざした専門的な診断ができると自負しています。
めまいの症状はどのようなものが多いのでしょうか?
めまい症状で訪れる方に一番多いのが「良性発作性頭位めまい症」です。頭を動かした時にぐるぐると回転するようなめまいが1~2分続くのですが、原因は耳石器から何らかの原因で耳石と呼ばれる炭酸カルシウムの結晶が剥がれ落ちて三半規管に入り込み、感覚細胞・感覚神経を刺激して起こると考えられています。内耳にリンパ液が過剰に貯まった結果、難聴や耳鳴りを伴うめまいが起きる「メニエール病」は有名ですが、症例としてはそれほど多くありません。他にも、耳の神経に炎症が起きてひどい回転性めまいを起こす「前庭神経炎」などがあります。あとは、平衡機能や身体機能に異常はないのにフラフラするようなめまい感があるという、精神的なものから起こる心因性のめまいもあります。
治療はどのように行われますか?

良性発作性頭位めまい症だと、浮遊耳石置換法といって頭や体を動かして耳石を元の位置に戻す方法が一般的です。集中的な治療が必要なのはメニエール病と前庭神経炎です。メニエール病は主に薬物療法や、耳にポンポンポンと空気を送り込んで鼓膜をマッサージする中耳加圧療法を検討します。治療は短くて1年ほど、通常は2~3年はかかります。前庭神経炎も主に薬物療法となり、およそ1ヵ月ほど継続する必要があります。急性期のめまいには症状に応じて点滴や内服薬を処方しますが、薬は不安の緩和や、内耳の血流の増進、嘔気・嘔吐を抑えることを目的に症状の改善をめざす対症療法が中心になります。最近は、漢方による治療にも取り組んでいますね。他には、脳神経系や心因性、循環器系のめまいの場合は、他科による専門的な治療が必要になりますので、専門家を紹介します。
漢方はどういった患者さんに向いていますか?
漢方は慢性のめまいがある方に処方します。例えば、平衡機能に異常がないのにめまいが起きることがあります。原因は自律神経の乱れや心の問題、血圧の低下、肩凝りなどさまざまです。体質に起因するめまいは、治療が難しいため慢性化するんですね。そうした場合、心と体のバランスを整えるために体質に合わせた漢方を使い、めまいの予防が期待できます。
めまいに悩む患者の不安な気持ちを解消したい
診療ではどういったことを心がけていらっしゃいますか?

患者さんのお話をよく聞くこと、そして治療内容について丁寧に説明することを大切にしています。めまいの診察では、症状や発作が起きた状況や普段の生活習慣などを問診によって引き出すことが、精密な診断を下すためにとても大切です。薬を処方するときも、なぜこの薬なのか、どのような症状に対して使うのか、といったことをわかりやすく説明するよう心がけています。またマイクロスコープやファイバースコープを用いる検査を行ったときには、できるだけ患部の検査画像をお見せしながら説明を行うようにしています。患者さんが目で見て自分がどのような状態なのか確認することは、病気への不安を取り除くことにもつながると思っています。
先生が医師をめざされたきっかけは何ですか?
幼い頃、小児喘息で年中病院に通っていた時の経験が、根底にあるかもしれません。今では治療も進歩していますが、当時は吸入器を持ち歩いたり、夜中に病院に駆け込んだりということが度々ありました。ある時、救急科の外来で医師から受けた対応が印象に残っています。苦しい時にはほんの一声かけてもらうだけで安心するものですよね。そんなことから、自分は患者さんの不安な気持ちを解消する医師になりたいという気持ちが芽生えました。医師となった今、100%それが実現できているとはとても言えませんが、折にふれ、あの頃の体験を思い出して初心を忘れないようにしています。
最後にこれからの展望をお聞かせください。

耳鼻咽喉科一般の診療ももちろん続けますが、VOGも導入したので、めまいの診療をより充実させていきたいですね。私はこれまで、耳が原因のめまい以外にさまざまなめまいを多く診療してきました。こういったキャリアの医師は少ないと思います。貴重な経験を生かし、社会に還元していきたいです。原因がわからず悩んでいる方に対し、正しい診断で患者さんの不安を解消することも大切な役割だと思っています。めまいに悩んでいる方はぜひご相談ください。