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押淵 英弘 先生の独自取材記事

にじいろメンタルクリニック

(千葉市中央区/千葉中央駅)

最終更新日:2023/05/17

押淵英弘先生 にじいろメンタルクリニック main

他人に言いにくい悩みを抱え、日常生活で生きにくさを感じている患者を優しく迎え入れる「にじいろメンタルクリニック」は、2022年12月に開業した「心」のかかりつけクリニック。18歳以下の患者は児童思春期が専門の押淵英弘先生が、成人患者は院長と非常勤医師の2人体制で診療している。国内外で研鑽し、精神科医療ならではの知見を深めてきた押淵先生が重視するのは、病気そのものではなく症状化のトリガー。きっかけは人それぞれ異なるからこそ、丁寧な対話の中から療育のヒントを探り、その人らしい人生を全力でサポートする。「解決すべきは親の心配事だけではなく子ども本人の困り事」と語る押淵先生に、同院の方針や児童思春期における診療の特徴、そして精神科医療にかける思いを聞いた。

(取材日2023年4月19日)

多様な人間・生き方を尊重し、万人を受け入れる

クリニック名とロゴが印象的ですね。

押淵英弘先生 にじいろメンタルクリニック1

ありがとうございます。クリニック名は「いろんな人がいてそれぞれの生き方があるから、誰もが自分らしく生きられるように支援したい」という意味を込めて名づけました。ロゴマークは虹色ではあるけれど七色ではなく、形も少しいびつです。こちらもいろんな色の人たちが手をつないでいるイメージでデザインし、「みんな違っていいじゃないか」という当院のスタンスを表現しました。また、内装は居心地が良くぬくもりのあるウッドベースで、名前に「にじいろ」が入っているクリニックらしく、診療室の壁には部屋ごとに異なるパステルカラーを採用しています。あとは感覚過敏の方に配慮し、院内の光は蛍光灯ではなく電球色を選び、落ち着いた明るさにしているのもポイントです。

患者さんの特徴や、診療における役割分担を教えてください。

院長と、東京女子医科大学の後輩である非常勤医師は成人の患者さん、私は専門である児童思春期の患者さんを診療しています。患者さんは全体的に比較的若い方が多く、自律神経失調症や気分障害のほか、統合失調症や躁うつ病といった重度の精神疾患の方もいらっしゃいますね。院長も非常勤医師も目線を合わせた対話を大切にしているため、心理的に追い詰められている方にとって非常に話しやすい存在だと思います。メッセージは言葉だけでなく態度でも伝わるもので、仮に医師が上から目線で接した場合、患者さんは「上から見られるような病気に罹患している」と自身を卑下してしまいます。その点、院長たちは「相手のため」という気持ちで正面から向き合い、話を聞く医師です。

児童思春期の患者さんにはどのような方が多いですか?

押淵英弘先生 にじいろメンタルクリニック2

自分の子どもが発達障害ではないかと親御さんからご相談を受けるケースと、発達障害の有無にかかわらず、学校生活の中で何かしらのきっかけがあり不登校になった子が割合としては高いですね。発達障害のほかに気分の問題など、さまざまな理由で「学校が大変」という患者さんは多いんです。それはきっと昔も同じで表面化しなかっただけ。今は自分に合う環境を探して「学校に行かない」ことへのハードルが下がり、特別支援学級や別室登校など選択肢も増え、時代が変わりましたね。加えて、何度も手を洗ったり何かを触って確認しないと気が済まなくなったりする、不安・強迫の症状がある小学生も受診しています。こうした不安障害は、「本来の特性と環境要因のかけ算によって症状が現れる」と考えられています。

より良い療育環境を整えるため、親への説明にも尽力

児童思春期の診療はどのように進めていくのですか?

押淵英弘先生 にじいろメンタルクリニック3

まずは症状化に至るプロセスを探ります。例えば発達障害があるとわかっている子の場合、周囲の大人はあらゆる症状が発達障害によるものだと考えがちです。しかし発達障害の症状は限定的で、ベースにある「生きにくさ」が家や学校という「場所」の刺激を受けて症状化します。そのため、環境が変わるとかんしゃくがまったく出ないこともあり得るのです。だからこそ診療では、その子にとっての症状化のトリガーがどこにあるのかを細かくヒアリングします。そしてできる限りの環境調整を行い、親御さんにも日常生活で自主的に工夫していただけるよう、心理教育として病気についてのご説明を実施します。また個人の方針として、薬は生活のしやすさが得られると判断した場合など、必要に応じて適切に使用するスタイルです。

お子さんと接する際に心がけていることは何ですか?

どんなに小さな子でも敬語で話し、基本的に否定はしません。お子さんが大きな声を出したり椅子に座らなかったり、あちこち歩き回ったりしていても、それ自体が診療の対象であり患者さんの表現なので受け入れます。本人の発言を促す際は、回答の範囲に制約を設けないオープン・クエスチョンで質問。答えたくない場合は「そこに問題があるかどうか」だけ教えてもらいます。加えて大事にしているのが、患者さんの言葉を親御さんと共有しても良いか必ず確認すること。「親のこんな言葉に傷ついている」という子もいますので、本人の要望があれば一旦は共有しません。そして患者さんとの信頼関係が築けた段階で、「やっぱり大事なことだから共有していこう」と促していきます。

親御さんとの接し方についても伺います。

押淵英弘先生 にじいろメンタルクリニック4

親御さんは「学校に行かないから、友達と仲良くしないから困る」と受診されますが、本人の困り事が別の場所にあるケースも少なくありません。怖い、不安、やる気が出ない、友人関係がつらいなどの悩みが、何かをしない、かんしゃくを起こすといった症状を引き起こすのです。これらを踏まえ、私たちが親御さんに対して最初に行う仕事は、お子さんの見方を180度変えていただくこと。世間の規範に沿って良くなればいいわけではなく、本人が困っていることを支援するのが大切なのだとお話しします。当院が重視するのは、みんなと同じように行動することを求める教育ではなく、本人があるがままにすくすくと育つのをサポートする療育です。療育によって成長したほうが、後に主体的に生きていけるようになると考えているので、少しずつ理解を深めていただければと思います。

主体性を持ち、その人らしく生きていく支援をしたい

ご経歴や、今に生かされているご経験も伺います。

押淵英弘先生 にじいろメンタルクリニック5

私は初め循環器内科の道に進みましたが、「心臓」ではなく「心」を診たいという思いが強くなり、医者3年目からは好きなことをやろうと精神科で勉強を始めました。その後は東京女子医科大学に籍を置きつつ、米カリフォルニア大学に留学して基礎研究に携わったり、児童思春期の病棟がある神奈川県立こども医療センターで一から勉強したりと幅広く研鑽しました。こども医療センターは強い希望を出して行ったのですが、まさに目からうろこの毎日でしたね。私はそれまで薬理学や科学に関心があるロジカルタイプの人間で、「人の心がどんなふうに育つのか」という発想すらありませんでした。現在の診療は当時の経験が礎になっており、入院していた子どもたちと一緒に私も育てられた感覚があります。

今後の展望をお聞かせください。

大学で児童精神科医療を教えてもらえる教室は少なく、学べる場所も限られています。さらに精神科の中でも専門性が分かれており、古典的な医療の知恵が薄まっているように感じます。しかし患者さんから「もう少し話を聞いてほしい」という声があるのは事実です。精神科医療は遺伝子などの生物学のみで語れるものではなく、もっと現象的なもの。「精神科医師として話を聞くこと」の意味を、いかに次世代に伝えていくかが課題ですね。あと、当院には多くの患者さまがいらっしゃいますが、最近は非常に混雑しており予約をとるにも苦労をかけてしまっております。ニーズに応えきれず申し訳ない気持ちがあり、今後は対応を工夫したいと考えています。

読者へメッセージをお願いします。

押淵英弘先生 にじいろメンタルクリニック6

人生は、その人の良さや主体性が発露されたものであるべきだと思っています。そのための支援をしたいという思いが一番にありますね。ある程度の特性があっても社会に親和し、困り事なく生きていければ、その特性は治さなくても良いものでしょう。ただ困っているのなら、ぜひ得意な部分を伸ばし「やりたい」という主体性を回復するための体験をしてほしいと考えています。「やって大丈夫だった」という体験を重ねることでしか主体性は回復せず、体験には周囲のサポートや考え方の変化が不可欠だと考えます。親御さんへのアドバイスや薬物療法も、より良い体験のためのサポーター。当院はそうした観点から診療にあたっていますので、患者さんとそのご家族、そして地域の医療者と協働していけることを願っています。

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