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小山田 真裕子 院長の独自取材記事

くす乃歯科オーラルケアクリニック

(福岡市博多区/雑餉隈駅)

最終更新日:2025/03/10

小山田真裕子院長 くす乃歯科オーラルケアクリニック main

雑餉隈駅から徒歩5分。駅前のアーケード街の中にある「くす乃歯科オーラルケアクリニック」は、小山田真裕子先生が院長を務める小さなクリニックだ。院長は勤務医時代に偶然訪問歯科診療と出会い、そこで患者の生活や人生にじかにふれることができることを知り、通常の外来診療にはない大きなやりがいや魅力、そして自分より上の世代への恩返しができると感じ、自らが院長となり訪問歯科診療を行うことを決意した。現在は摂食嚥下に力を入れ、特別養護老人ホームなどの施設や個人宅での訪問歯科診療を行っている。歯科衛生士とともに毎日移動を重ねて忙しく動き回る院長に、その原動力となっている訪問歯科診療への熱意や、クリニック名に秘められた祖母への思い、そして今後めざしたい協力体制などについて話を聞いた。

(取材日2024年11月13日)

安心しておいしい食事を取り、誤嚥性肺炎を防ぐために

訪問歯科診療をメインとされているそうですね。

小山田真裕子院長 くす乃歯科オーラルケアクリニック1

はい。訪問先は特別養護老人ホームなどの施設、ご自宅への訪問を行っています。訪問歯科というと歯磨きをして、入れ歯の調整をして、というような口腔ケアのイメージが強いかと思うのですが、それだけだともったいないと私は考えています。当院では、患者さんの嚥下機能をきちんと診て、その上で安心しておいしく食事を取っていただくことを第一に考えています。体の機能は年齢を重ねると落ちてくるもので、嚥下機能もそれは同じ。そしてその嚥下機能の低下によって、誤嚥性肺炎が起きます。ある年のデータによると、誤嚥性肺炎は日本人の死因の第6位だそうです。びっくりしますよね。だからこそ歯科医師がしっかりと診ていく必要があると考えています。

どのように誤嚥を防いでいくのでしょうか?

皆さんもご存じのように介護の現場は人手不足です。本来であれば言語聴覚士さんなどに食事の際の様子などをしっかりと見ていただくのが良いのですが、そこまでできない現状があります。私たち嚥下を学んだ歯科医師と歯科衛生士は、患者さんの食事の飲み込みの様子、お食事の姿勢などを見ながら、お一人お一人の嚥下機能を確認していきます。その嚥下機能に応じた食形態や食事介助のスピード、食事に使うスプーンの大きさ、脳梗塞後遺症のある方が食事をする際の姿勢の取り方などのアドバイスなどを行っています。もちろん誤嚥性肺炎の予防のためにも口腔ケアは大切ですが、当院では歯磨きなどをした後の唾液や食渣(口の中に残った食べ物かす)を極力患者さんが飲み込まないよう、必ず吸引をしながら口腔ケアを行います。

訪問歯科を行う際、どんなことを心がけていらっしゃいますか?

小山田真裕子院長 くす乃歯科オーラルケアクリニック2

先ほどお伝えしたことと重複しますが、安心しておいしく食べていただく環境を整えることです。「食べさせられている」状態はとても悲しいことだと思います。患者さんが楽しい、うれしいといったポジティブでハッピーな気持ちで、かつ安心して食べていただくことが私たちが訪問歯科に入る意味だと考えています。勤務医時代に、脳梗塞を経験された在宅の患者さんのご家族から、「母が栗を食べたいと言っている」とご相談がありました。もちろんそのままの栗を食べるのは危険ですから、訪問診療に入られている内科の先生とも相談した上で、栗を裏ごししてペースト状にしたものを食べていただきました。といってもその方はご自分の唾液ですら嚥下できません。だからほんの少し、爪の先程度の量を舌に乗せただけですが、それでも「栗だ」とびっくりして、感激されたんです。

歯科医師として「訪問歯科診療」の恩返しを届けたい

それはうれしい出来事ですね。

小山田真裕子院長 くす乃歯科オーラルケアクリニック3

その喜んでくださる姿を見るのが、訪問歯科診療の醍醐味(だいごみ)だと思います。その量であっても飲み込めないので最終的にはティッシュで拭き取りましたが、味は感じられます。何よりご家族も一緒に喜んでくださったんです。写真に収めて思い出として残されていたほどに。本当は皆さんご家族そろって同じものを食べたいはずなんです。でもそれだと誤嚥のリスクがある。だからどこまでご希望に近づけたものを提案できるかが大切です。それによってご家族もご本人も、そして私たちもうれしくなるんですね。この件は当院がめざす「安全においしく食べる」の在り様の一つなのだと感じました。

先生が訪問歯科に興味を持ったきっかけは何だったのでしょう?

思い返せば、ではあるんですが、私の祖母は、訪問歯科が必要な人だったのだと思います。私が大学を卒業して数年後に亡くなったのですが、親戚なども交代で様子を見に来ていたんですね。新米とはいえ歯科医師の私もその中にいたのに、歯科医院へ行けないからと歯科医療へつなげることができませんでした。今でこそ歯学部のカリキュラムにもありますが、当時はそのような授業はありませんでしたし、かなりのおばあちゃん子であった私ですら、そういった点に思い至らなかったことを後悔しているんです。実は当院の「くす乃」という名前は祖母の「クスノ」から頂いたものなんです。それくらいに私の心残りとして残っているのですね。ただ、直接的なきっかけは、歯科医師として働いていた時の訪問歯科診療にあります。

勤務医時代の訪問歯科診療のご経験はどのようなものでしたか?

小山田真裕子院長 くす乃歯科オーラルケアクリニック4

ある時、お年を召されて外来に通院するのが難しくなった患者さんのための訪問診療を担当しました。いろんな方がいらっしゃいましたね。おかゆなど少しやわらかいものをご自分で、お箸を使ってお食事ができる方もいましたが、一番ショックだったのは、ちゃんぽんを手で口に入れている方を見た時です。どなたかご家族がちゃんぽんを買ってこられたのか、それをお一人で召し上がっていたのですが、お箸ではうまく口に入れられず、手で麺をわしづかみにされていたんです。働きながら一人前の歯科医師になろうと、外来診療をひたすら頑張っていたのですが、この歯科医師という国家資格は、訪問歯科診療、つまり介護にも貢献する手段にもなるのだと、そこでやっと気づきました。

思いを同じくする仲間をもっと増やしていきたい

そこから摂食や嚥下の勉強を始められたんですね。

小山田真裕子院長 くす乃歯科オーラルケアクリニック5

大学はとうに卒業していましたから、主に研究会やセミナー、勉強会などに参加する方法で学びました。一緒に働く歯科衛生士のスタッフたちと摂食嚥下やそのリハビリテーションについての研究会に毎年参加しています。当院の歯科衛生士もやはり摂食嚥下に力を入れたいという思いが強く、それでいて熱心な人ばかりです。施設に行く際には5人の歯科衛生士とチームで回るのですが、一度に何十人という患者さんを診ますから、それぞれ手分けして行うんです。そんな忙しい中でも必要に応じてすぐに携帯電話で「先生、こっちに来てください」とスピーディーに連携をとれる、非常に心強い存在ですね。

今後、どのような診療をめざしていくのでしょうか?

理学療法士さんや言語聴覚士さんなどが十分にいらっしゃらない環境であっても、介護士さんに「こういうふうな食べ方、姿勢、量、口に運ぶタイミングが適切だ」という共通認識を持っていただくことがまずは大切だと考えています。食事介助はその日の一つのルーティンで、つい急いでしまうこともあると思うのですが、安全な食べ方を知らないスタッフがいるのはとても危険なこと。だからより良い食べ方を施設の皆さんで共有していくことが重要で、今行っているこのようなサポートは、今後もしっかりと続けていきたいですね。ただそれを十分に行うためには、私や当院の歯科衛生士だけでは足りない点も多いと感じています。もっとたくさんの方との協力体制を築いていきたいというのが、当院の今の大きな願いです。

特にどんな方と連携・協力していきたいとお考えでしょうか?

小山田真裕子院長 くす乃歯科オーラルケアクリニック6

まずは摂食嚥下とそのリハビリテーションについて専門的に学んだ方が施設にいてくださると、オーラルフレイルを防ぐ点からしっかりとケアしていけるのではないかと思います。当院の立場からいえば、単なる口腔ケアだけではなく、摂食嚥下までしっかりと診て、患者さんが安心して食事を楽しむためのお手伝いをしたいと考えてくださる歯科医師がいれば、もっと多くの患者さんのお役に立てると思います。もし当院の思いに共感してくださる方とたくさんの出会いがあれば、本当にうれしく思います。

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