高橋 慶一 院長の独自取材記事
グレースホームケアクリニック 伊東
(伊東市/南伊東駅)
最終更新日:2025/01/15

伊東市を中心に訪問診療を提供しているのが、「グレースホームケアクリニック伊東」だ。 市内に基幹病院が少なく、決して医療提供体制が充実しているとは言えない伊東市。同院では、そんな地域で基幹病院や地域のクリニックに通院が難しくなってきた患者の自宅などへ訪問し、必要な医療やケアを提供することに努めている。そんな同院の高橋慶一院長は、これまで都内の基幹病院で約40年にわたって大腸がんの診療に専門的に取り組んできたベテラン医師。同院でも、その豊富な経験や知識を生かしながら、患者やその家族を健康や生活をサポートすることをめざしている。「当院は本当にオープンですから、健康のことでお困りであれば何でも気軽に相談してほしいですね」と話す高橋院長に、同院のことや地域医療にかける思いなどを聞いた。
(取材日2024年12月18日)
40年の外科の経験も生かした訪問診療を実践する
最初にクリニックを紹介していただけますか?

当院は、訪問診療を中心に行っているクリニックです。ほとんどが訪問診療で、老人ホームなどの施設や患者さんの自宅に伺って、診療を行っています。私自身は、これまで東京のがん・感染症センター東京都立駒込病院で30年以上、外科の医師として診療を行ってきましたが、まだ訪問診療や在宅医療という言葉もないような1990年頃から、その必要性を感じていました。病院ではがんの手術をしますが、その患者さんのその後も診ていきたい。手術をしたからには最後まで責任を持って、終末期になってもちゃんと看取ってあげたい。そういう気持ちがすごく強かったんです。ただ、それを基幹病院のような所でするのは限界があって、患者さんが最後は家で過ごしたいと言っても、それをサポートできるかというと難しいというのが当時でした。
以前から訪問診療の必要性を考えていたのですね。
訪問診療は、患者さんは喜んでくれるし、安心してくれる。できるだけ不安を少なくして最期を迎えることも望めます。そういう体制が医療には必要だと考えていましたが、現実としては専門だった大腸がんの手術に忙殺されるような毎日でした。その中でも、外来で抗がん剤治療をしたり、病院で患者さんを看取ったりはしていました。ですが、手術もバリバリとできるような年齢でもなくなり、勤務していた病院も定年になるということで、以前から考えていた訪問診療に取り組もうと決意したんです。医師になって40年近くになり、外科のことは結構知っているつもりですが、それ以外は知らないことも多いと実感しています。自分の医師人生の集大成として、これまであまり経験してこなかった領域についても幅広く診ることができる医師になりたいと思っています。
こちらに来て印象的だったことはありますか?

伊東に来て少し驚いたのは、東京には病院がたくさんありますが、こちらはそうではなかったことですね。市内の基幹となる病院は伊東市民病院だけで、少し離れた所に順天堂大学医学部附属静岡病院や国際医療福祉大学熱海病院があるくらいです。伊東市は東京からも2時間程度の有名な観光地で、温泉もあって、風光明媚な所ですが、医療提供体制は良くありません。高齢者が病院に行こうと思っても、山や海があって、交通の便も悪くて、すごく大変です。そのような中での訪問診療というのは、重要性が高いと思っていますし、私自身は来て良かったなと感じています。
在宅での緩和ケアや褥瘡のケアにも力を入れる
診療の特徴はありますか?

がんの患者さんの緩和ケアは在宅でも十分にできます。例えば、静岡県には静岡県立静岡がんセンターがありますが、そこに通院していたけれど通えなくなった患者さんを、当院が引き継いで診ることが可能です。私自身も東京都のがんセンターのような病院に勤務していましたのでがん治療には精通しています。最近ではがん治療も分子標的治療薬とか免疫チェックポイント阻害薬など複雑な薬を使うようになって、がん治療の効果の高さが期待できますが、そのような患者さんがこのような積極的な治療が困難になって、症状緩和の治療が中心となった段階でどのようにケアをしていくかはとても重要です。これまでの治療の経過を知った上で、症状がつらい時の緩和のための処置や、状態が悪くなってきた時にはどのように対処するのが良いのかということは、これまでの経験を生かせるところだと思います。伊東市のがん終末期患者さん全員を診るくらいの気持ちでいます。
ほかに得意なことはありますか?
褥瘡については、特に訪問看護師さんたちはテクニックを持っていますので、どういう薬を使いましょうなどのアドバイスをしながら、一緒に対処しています。褥瘡の管理も在宅医療では重要なことですが、私は大腸外科を専門とし、ストーマ(人工肛門)の患者さんのスキンケアも実際に行ってきました。ストーマの患者さんは、皮膚がただれてしまうと排泄物が入る袋が貼れなくなってしまいますので、皮膚を適切にケアすることが、とても大切になります。それに、スキンケアも一人ひとりの体型や生活環境なども考慮しながら、この人にはこうするのが良さそうだというのを試行錯誤しながらしていくような部分もあるんです。そういう経験が、褥瘡の治療やケアでも生かせていると思います。
診療の際には、どのようなことを心がけていますか?

患者さんは弱い立場にあります。その弱い立場の人を救うというよりは、相談に乗りますという姿勢ですね。患者さんが困っていることに対して、同じ目線で相談に乗る。困っていることや希望を聞いて、医師にだって専門や得意、不得意、できることとできないことが当然ありますから、それをはっきりと申し上げることはあります。ですが、その中でより良い解決方法を患者さんと一緒に考えながら、最大限できることをしていくこと。ただ、悩んでいるだけではしょうがありませんから、まずは始めましょうというスタンスを心がけています。
地域の高齢者に必要な医療が提供できるようにしたい
話は変わりますが、先生はなぜ医師を志したのですか?

私が高校生の頃に家族が大量に吐血して、地域で一番大きな病院に緊急搬送されて手術を受けたんです。手術後のつらそうな家族の姿は今でも覚えていますが、その頃はちょうど将来の進路を現実的に考える時期だったんですね。もともと人を相手にして、何かの役に立つ仕事をしたいと思っていて、家族のこともあってそれにぴったり当てはまる仕事だと思って、医師を志すようになりました。専門に外科を選んだのは、自分の手を動かして治療するところに興味があったからです。そういうスキルを職業として持っているっていうのは、すごく魅力的だと思いましたね。
今後の展望はありますか?
伊東に来て思うのは、先ほども少し話しましたが本当に医療過疎なんです。ですから、伊東市はもちろん伊豆半島の隅々までの高齢者に、少しでも適切な医療をちゃんと提供できるようにできたら良いなと考えています。ただ、これは一人ではできませんから、訪問診療に興味がある若い先生に来てもらって、一緒にやっていきたい。患者さんの生活へ実際に入り込んでいって、病気だけじゃなくて、家庭や生活の環境も含めて垣間見えるような中で医療を行っていくことは、かけがえのない経験になると思います。そういうことを若い先生たちにも普及できたら良いなと考えています。実際に、身近な医療を必要としている患者さんはたくさんいて、現場に出たら、それが本当に必要なことだと実感します。訪問診療を行う地域をなんとか広げていきたいですね。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

高齢化も進んでいる中で、自分は健康だと思っていても、いつ何が起こるかわかりません。そして、健康に不安があったり、体調がちょっとおかしいなと思ったりしたら、相談できる場所がある。患者さんの自宅に先生が来て、治療やケアを受けられる。そういう方法があるということを、まずは知っていただきたい。そして、困ったら何でも相談に来てほしいですね。それは、本人やご家族かもしれませんが、ケアマネジャーさんを通じてでも結構ですし、直接声をかけていただいても構いません。困ってることについては何でも相談に乗りますし、全部が全部自分たちで対処できないかもしれませんが、その場合にはこの病院に行ってちゃんと診てもらってくださいといったアドバイスはできます。そういうことができることに、私たちの存在意義があるのかなとも思います。当院は本当にオープンなスタンスですので、遠慮なく相談してほしいですね。