山科 明彦 院長の独自取材記事
ホームケアクリニックもみじ
(広島市東区/矢賀駅)
最終更新日:2024/07/02

広島市東区を拠点に、24時間365日体制で在宅医療を提供する「ホームケアクリニックもみじ」。間所ICから車で5分、スーパーマーケットやドラッグストアが立ち並ぶエリアの一角にある。院長の山科明彦先生は、大学病院や中核病院で呼吸器外科の医師として長年にわたり研鑽。そんな中、近い将来多くの人が「看取り難民」になるという問題を知り、意を決して在宅医療の世界に飛び込んだ。診療時には、患者の普段の体調や生活状況をよく知り、こまやかにサポートすることを大切にする山科院長。「不安を抱える方々に『おかげで安心しました』と言ってもらえるような診療を提供することをめざしています」と優しく語る。やわらかな笑顔が印象的な山科院長に、在宅医療に対する思いや働きやすい環境づくりにこだわる理由など、さまざまな話を聞いた。
(取材日2024年5月17日)
生まれ育った広島で、地域の人々に安心感を与えたい
まずは医師をめざしたきっかけやこれまでのご経歴をお聞かせください。

外科の医師だった父の影響は大きいですね。父は多忙で家に帰ることができないことも多く、子どもの頃、父の職場に弁当を届けに行くこともあったんです。そんな時、患者さんやスタッフさんから感謝されている父の姿を見て、医師の職業に憧れるように。将来の夢を書く時も、幼稚園の頃は「パイロットかお医者さん」、小学生の頃は「外科の医師」と書いていました。医学部時代は、陸上部や軽音楽部で部活動に打ち込むとともに、学園祭の実行委員も務め、良い人間関係を築くことができたと思います。医学部卒業後は、大学病院や地域の中核病院に勤務。呼吸器外科の医師として、肺がんや左右の肺の間にできる縦隔腫瘍、肺に穴が開いて空気が漏れる気胸などの治療に携わりました。
外科を専門としていた先生が、なぜ在宅医療の世界に転身されたのですか?
外科の患者さんの中には、ご自宅で最期を過ごすことを望む方もいらっしゃいました。そうした方々の診療を通じて、在宅医療の存在を知り、魅力を感じました。そんなある日、団塊の世代が75歳以上になり、さまざまな問題が生じる「2025年問題」を知ったんです。医療面では、多くの「看取り難民」が出るといます。人の死に場所がなくなることは私にとって衝撃でした。外科の医師として肺移植など難易度の高い手術に携わる機会もあり、子どもの頃の夢はかないましたので、在宅医療という次のステージに進むことを決意し、倉敷市の在宅医療専門クリニックに転職しました。それまで呼吸器外科を専門としていて、他の診療科の患者さんを診る機会が少なかったので、そこで多くを学ばせていただきましたね。
その後、広島に戻って訪問診療をスタートしたのですね。

医学部に入学以来、広島県外で過ごしてきたため、生まれ育った広島で地域の方々に恩返ししたいという思いが強くなっていたんです。倉敷市のクリニックで経験を積んだ後、2017年、父が東区福田で開業していた山科循環器・外科医院に戻り、副院長に就任しました。訪問診療をメインにしたいという理想像があったので、父と相談の上、院名を「ホームケアクリニックもみじ」に変更し、24時間365日体制の訪問診療をスタートし、2022年に現在の場所に移転しました。患者さんの多くは「こんな状態で退院して自宅に帰って大丈夫だろうか?」「何かあった時に困らないだろうか?」と不安を抱えていらっしゃいます。不安を抱える方々に「おかげで安心しました」と言ってもらえるような医療を提供することをめざしています。
多職種と連携し、患者一人ひとりをこまやかにサポート
どんな患者さんが多くご利用されていますか?

現在、多くの患者さんのご自宅に伺っていますが、中でもがんの患者さんの割合が多いですね。当院としてはがん患者さんに限らず、「足腰が弱って通院が難しい」「家族が仕事を休んで通院に付き添っている」など、さまざまな理由でお困りの患者さんやご家族をお支えしたいと思っています。患者さんはもちろん、働く世代のご家族の負担を減らすためにも、気軽にご利用いただきたいですね。当院は24時間365日対応しますので、夜中のご連絡も受けつけています。患者さんから「不安でしょうがなかったけど、すぐに来てもらえて安心しました」と、ご家族からは「気軽に相談できて良かった」と言っていただけるような診療をめざして取り組んでいます。
診療の際にはどのようなことを大切にされていますか?
患者さんの普段の体調や生活状況をよく知ることを大切にしています。確かに検査体制などの面では、在宅診療より外来診療のほうが充実しているでしょう。一方、訪問診療の強みは、患者さんの日頃の状態を十分に把握できることです。そのため、普段との違いに早めに気づきやすいですし、気づいたらすぐにアドバイスして病状の悪化を防ぐなど、体調や状況の変化に合わせてこまやかにサポートできます。しっかりとしたサポートを行うことで、大きな病気を患っていたとしても、安定した状態で暮らすことも望めるのです。
多職種との連携も大切にされているようですね。

当院は、「地域と密に連携し、地域とともに成長する」という理念を掲げています。在宅医療で患者さんを支えるのは、医師だけではありません。看護師や訪問介護員など、さまざまな職種の方々と連携することが不可欠です。より緊密に連携するために、多職種間でリアルタイムに情報を共有できるコミュニケーションツールも活用しています。医師が気になった点を看護師やケアマネジャーに伝えることもできれば、逆に看護師から情報共有してもらうこともできます。加えて、広島市東区医師会が運用する多職種連携システムも活用。さまざまな職種の方々と力を合わせて、一人ひとりの患者さんをお支えするよう努めています。
より良い医療を提供するため、働きやすさも大切に
働きやすい環境づくりにも力を入れていると伺いました。

現在、私も含め、総勢14人のスタッフが在籍しています。医師の負担を軽減して診療のみに集中できる環境をめざし、チームとしていろいろ工夫していますね。例えば訪問診療日には、事前に看護師が電話で患者さんの病状やお悩みをヒアリングします。前もって聞くことで診療の準備ができますし、訪問時の負担軽減にもつながるからです。診療には必ず看護師が同行し、採血から車の運転に至るまで幅広く補助をします。電子カルテはクラウド型ですので、どこでも利用可能。加えて、院内コミュニケーションツールを導入し、困った時には経験豊富なスタッフにその場で相談できます。例えば、「この患者さんはこんな感じなのですが、どうしたらいいでしょうか?」と相談があれば、「こうしたらどうですか?」とすぐに返答できる体制を整えています。
山科院長が働きやすさにこだわるのはなぜですか?
誰かの犠牲の上に良い医療は成り立たないと思うからです。そこで当院では、必要とされる以上の人員を確保するよう努めています。「子どもの運動会に参加したい」「授業参観に行きたい」といった希望に応じられる体制を整えているんです。残業が少ないのも、当院ならではの特徴。オンコール対応はありますが、全員がほぼ定時に帰っています。スタッフたちも、「患者さんにじっくり向き合える」「育児や介護と両立しやすい」と喜んでくれていますね。
今後の展望をお聞かせください。

先ほど話した2025年問題の先には、2040年問題も。さらに少子高齢化が進み、「多死社会」を迎えるといわれています。「地域の方々の死に場所がない」といった事態を避けることが、私の切なる願いです。在宅医療専門クリニックとして、地域の皆さんを支える一助になれればと思っています。そのためにも、私も含めてスタッフが働きやすい環境づくりは大切。今後さらにスタッフを増員するなど、より働きやすい環境を整えていきたいですね。
最後に読者に向けたメッセージをお願いします。
終末期のがん患者さんなどの場合、多くは地域医療連携室などを通じて訪問診療を紹介され、ご利用をスタートされます。一方で、困っているのに訪問診療についてご存じない方も多いように感じます。当院では、訪問診療について気軽にご相談いただけるよう、相談員も配置しています。提供できる医療や費用などについて丁寧に説明いたします。「通院が大変なので、何とかならないだろうか」とお困りであれば、ご本人、ご家族を問わず、まずはお気軽にご相談ください。