北村 かおる 院長の独自取材記事
小児・障がい児 かぜかおるこども歯科
(札幌市中央区/円山公園駅)
最終更新日:2022/09/20

札幌市営地下鉄東西線・円山公園駅2番出口から、北1条・宮の沢通に向かって徒歩3分。左手に見えてくるのが「小児・障がい児 かぜかおるこども歯科」だ。視線を上げてビルの高いところを見れば、愛らしい青いツバメのロゴが導いてくれる。院長の北村かおる先生は、札幌生まれで札幌育ち。子育て中だった駆け出し歯科医師時代「お母さんだから小児は診られるよね?」と仕事を任せられたことをきっかけに、この道を専門に選んだ。もちろん、同じ親だからわかる気持ちや生活のあれこれがある。けれど診療においては、しっかりとしたエビデンスや学術に基づいて治療を進める。小児歯科についての幅広い知見と専門性の高い技術をやわらかい笑顔に包んで、一人ひとりに丁寧に向き合う北村院長だ。
(取材日2022年5月11日)
勉強することで「怖さ」を乗り越え、専門性を高めた
歯科医師を志した理由を教えてください。

昔から勉強が好きでしたので、一生できる資格が取りたくて、医師をめざしました。細かい作業が得意だったので歯科医師を選び、大学は道内がいいという理由で北海道大学歯学部に進みました。医療・医学には独特の理屈っぽさがありますが、それが自分には受け入れやすかったので、疑問を感じることなく学び続けることができました。実は私、学生結婚だったんです。卒業後はすぐに勤めることなく、夫の留学先に同行してアメリカで3年間暮らしました。
小児歯科を専門に選んだのはどうしてですか?
私には子どもが2人いて、アメリカで上の子を出産し、帰国後に初めて歯科医院で働き始めました。駆け出しの歯科医師だったのに、そこで「子育て中なら、子どもの扱いは大丈夫だよね」と言われてしまって。当時は上の子1人だけでしたから、ほかのお子さんを診るには力が足りないと日々感じていました。だったら、小児歯科を専門にしようかなと考えて、大学院に進むことにしました。あらためて学び直す前は、小児に対しても障がい者に対しても怖いという感情がありました。わからないものに対する怖さを埋めるために、勉強したかったんです。夫からも「技術は後からついてくるから焦ることはない、今は勉強に集中したらいいよ」と励ましてもらい、博士号を取ることができました。
開業のいきさつを教えてください。

北海道大学病院の小児歯科で働いていた頃、障がいのある子どもや医療的ケア児も担当していました。子どもが学校に通い出してお母さんが仕事に復帰されると、時間的な制限で大きな病院には通院しづらくなります。障がいや疾患が特に重くなければ、普段の医療は当院で、何かあったときに大きな病院へとしていただければ、親御さんの負担も減りますし、治療を中断しなくて済むと考えました。当院では、発達障害の疑いなどで他院では治療が難しい子も受け入れていますし、当院をわざわざ探してくれて通院中の方もいます。一人ひとりのお子さんについて何が原因で、この先何が起こり得るかを考え、学術的に対応しています。そして、小児歯科を「卒業」して一般歯科に移る16歳くらいまでに、自分で管理できるようにと思って取り組んでいます。
子ども自身が口腔内を管理できるよう、治療を進める
優しさと爽やかさを感じる院名ですね。

俳句や短歌に「風薫る」って季語があるのを高校生の時に知り、覚えやすいし、自分の名前にも入っているので採用しました。看板やホームページに使っているイラストロゴは、ツバメをイメージしています。ツバメは幸せの鳥で、賢い鳥としても知られていますよね。過酷な環境にも適応して、ひなを育てます。当院も同じように、歯科医師やスタッフ、親御さんと、周りの大人たちが力を合わせて、子どもたちが自立できるようサポートしていきます。それがこのクリニックのコンセプトです。院内には子どもの目線でしか気づかない場所にツバメのロゴが隠されています。私自身の、子どもを連れていると玄関で靴が脱げないなどの子育ての経験から、診察室まで靴のまま入れるようにもしました。
診療台には、親御さんが付き添いできるのですか?
親御さん自身の意思で離れるのは構いませんが、当院が親御さんを出て行かせることはありません。治療内容によっては「今日は泣いちゃうかもしれませんが、お子さん頑張るから、そばにいてくださいね」とお伝えすることもします。ただ、親御さんにも配慮が必要で、子どもよりも親のほうが参っちゃうこともあるんです。逆に、力が入りすぎている親御さんには、肩の力が抜けるように接しています。また、子どもは視覚情報を優先して理解するので、絵などを使ってわかりやすく説明してから治療を進めます。何をされているかわからないと不安になることも多いため、鏡を使って治療中の様子を見せるようにしています。見たくない場合は鏡に紙を張ってカバーしますし、注射や抜歯は見せないようにしています。
診療のための工夫や心がけているのはどんなことですか?

鏡で治療を見せるのは私のオリジナルではなく、学術的な裏づけがあります。同様に視覚支援として、絵を見せてコミュニケーションを図ることもあります。「知ってるのどーれ?」「この中でやりたくないのどーれ?」と、子どもの気持ちを確認しながら進めますが、そうした中で発達障害の可能性を感じるときは、親御さんにも伝えます。障がいをアンタッチャブルなこととするのではなく、その子がより良い生活ができるよう、お母さん、お父さんに寄り添う覚悟でお伝えしています。お伝えするからには関わっていくつもりですが、過剰に関わりすぎないようにしつつ、将来はお子さんが自分で健康管理できるよう、親御さんと一緒に育てていきたい、ただその想いでやっています。
治療を通じて、子どもには自信を、親には安心を
印象に残っているご経験を教えてください。

歯並びの相談をきっかけに3歳くらいから通ってくれている子がいるのですが、初診から10年近くたった今では、定期検診にも一人で来られるようになり、妹さんたちにも歯磨き指導するくらい立派なお兄ちゃんになりました。最初にお話ししたように、子どもたちが自立できるようサポートをするのが当院のコンセプトですから、自分でしっかりお口のケアを管理できている子を見るのはとてもうれしいことです。これからも子どもたちの成長を楽しみに、歯科医師として何か問題になりそうな予兆があれば素早く察知して適切に対処し、お口の健康を守っていきたいと思います。
お休みの日はどんなふうに過ごされていますか?
母が40代からスポーツジムに通っていて、70代の今でもすごく若々しくて健康なので、母を見習って私たち夫婦もジムに入会したのですが……、実はあまり通えていません。毎日が多忙なので、食生活を整えて、よく寝るようにしています。子どもたちもまだ小さいですし、母親として構ってあげたいのですが、疲れている時は寝かせてねと。家に帰っても患者さんのことを考えてしまう日もあるので、オン&オフをしっかりしないといけないなと思っているところです。子どもの頃から茶道を続けてきましたが、私にとって茶道は趣味というには重いもので、自分を律することができる大事なひとときでもあります。作法を粛々と進めるだけの時間ですが、これからも自分を支える部分として続けていきたいです。
今後について課題や目標などがあれば教えてください。

障がいのある子は集中力が続かない場合も多く、私一人で頑張っても絶対に治療できません。少なくとも手が4つ必要で、不意の動きに対応して安全を重視しながら、早く治療を終わらせるためには、チーム医療を徹底する必要があります。情熱を持ちながら重責に潰されないよう、専門性の高いスタッフを育てるのはとても大変なことで、当面の課題と思っています。特殊なことは好きじゃないので、当院オリジナルの治療などはありませんが、私自身も勉強を続けながら、より多くの知見を身につけて生かしていきたいですね。治療を通じてお子さんが自信を持つことができて、お母さんお父さんにも安心してもらえるよう、これからも努力していきたいと思っています。