齋賀 真言 理事長の独自取材記事
新城テラスクリニック
(川崎市中原区/武蔵新城駅)
最終更新日:2022/07/13
JR南武線・武蔵新城駅南口から歩いて5分ほどの「新城テラスクリニック」は、同じ中原区内にある「在宅テラス診療所なかはら」で訪問診療を提供している齋賀真言(さいか・まこと)理事長が、2022年4月に開業したクリニックだ。「地域医療に関わる以上、誰もが自由にアクセスできて安心できるクリニックは必須と考え開業しました。風邪などの身近な症状から専門性が必要となる疾患まで、気軽にご相談いただけます」と齋賀理事長が語るとおり、異なる専門性を持つ複数医師が診療にあたり、それぞれの専門性を持ち寄って問題解決をめざすのが特徴だ。同クリニックを開業した想いやめざす医療、今後の展望などを齋賀理事長に聞いた。
(取材日2022年4月21日)
専門的かつ幅広い診療で、地域病診連携の一端を担う
まずは開業に至った経緯から伺います。
血液内科の医師として急性期病院での勤務を経験後、2015年に「在宅テラス診療所なかはら」を立ち上げ、川崎市中原区、高津区、幸区を中心に訪問診療を展開してきました。そんな中、都内の拠点病院などでがん治療を受けて体力低下が著しい中、地域にフォローアップの受け皿がないために、遠くにあるかかりつけ病院まで患者さん本人もご家族も必死に通っているケースが多く見られることに気がつきました。そうした方を含め、誰もが困ったときにより簡単にアクセスできるクリニックの必要性を強く感じるようになったのです。さらには、新型コロナウイルスが感染拡大し、ご存じのとおり急性期病院が通常の医療を行えない状態に。あらためて、急性期病院が有事の際でも本来の急性期治療を行い続けることができるように、地域のクリニックがそれを下支えしつつ急性期病院と病診連携をしっかりとることが必要との思いを強めたことも、開業の後押しになりました。
複数の先生が診療を担当されるのですね。
私を含めて8人の医師が在籍し、診療にあたっています。循環器内科、呼吸器内科、腎臓内科、糖尿病内科、内分泌内科、血液内科など、各分野のドクターが診療に入っており、気軽に通える町のクリニックでありながら、一般的な風邪や慢性疾患から専門的な疾患の診療まで受けられるのが特徴です。腫瘍内科の外来では「在宅テラス診療所なかはら」での訪問診療のノウハウを生かし、がんや難病における緩和ケア治療や、がん治療中・治療後の方の体調管理目的の外来診療を行っています。がんなどに対する強い治療を頑張ってこられた方々が、へとへとになりながらも遠方にあるかかりつけ病院まで通院するのを目の当たりにしてきたことで、そのような方々がご自身の地域で安心して医療を受けて余生を送れるサポートをしていきたいと考えており、そのような役割を適切に果たせるクリニックでありたいと思います。
CTを導入するなど、検査環境も充実していますね。
専門的で正確な診療を行うためには、医師の診察に加えてより精密検査が欠かせません。例えば、発熱と咳症状が強い方が来院された際に、もし免疫力低下状態や高齢であれば肺炎に罹患していないか確かめる必要があります。肺炎も軽度か重度かの判断が正確な治療薬選択には必要です。やむを得ない理由で総合病院へご紹介せざるを得ない場合を除き、できる限りこの地域・このクリニックで安心・正確を追求した治療を受けていただきたいと考えています。同様の理由により、当院では呼吸機能を測定するスパイロメーター、心機能や不整脈の有無を調べるための心エコー、ホルター心電図、そのほかさまざまな検査装置や検査キットを導入しています。
つらい状況にある患者に寄り添い、必要な対応を提供
診療の際に心がけていらっしゃることはありますか?
患者さんが何を求めて当院にいらしたのかを、できる限り拾って差し上げたいと考えています。診療後に「こうしてあげれば良かった」と思うことがないよう、しっかりとお話を聞くことを大切にしています。こうした姿勢は訪問診療でも外来診療でも変わることはありません。患者さんにとって何がつらいのか、そして何を求めていらっしゃるのか、そういったことをよく理解して、寄り添う診療を心がけています。
今後、人工透析にも対応される予定と伺いました。
開始時期は未定ですが、4〜7床程度の規模で人工透析を行う予定です。人工透析治療では、病院を週3回受診し、1回の治療で4時間ほど時間がかかりますので、高齢者や体力低下している方には透析治療の継続自体が難しいケースが多々あります。現在では、通院できなくなった透析患者さんも腹膜透析という方法に切り替えることで在宅で透析を継続できるようになってきています。ただし、腹膜透析がうまくいかない時に急きょクリニックを受診して人工透析治療を行うこともあり、そのような時に在宅腹膜透析患者さんをスムーズに受け入れられる場所としても機能させたいと考えています。
先生が医師を志した動機、血液内科を専門に選んだ理由は何だったのでしょう。
小学生の頃、テレビでマザー・テレサの特集を観たのが最初のきっかけです。世界で最も貧しい地域に飛び込み、人々の体と心をケアする姿に心揺さぶられ、彼女の活動を手助けしたいと思うようになりました。彼女の活動が医療行為ではなかったため、子ども心に「自分が医者になって彼女をサポートしたい」と思ったわけです。紆余曲折あり日本で医師として生きていく道を選んだわけですが、頭のてっぺんからつま先まで一通りの診察と、血液がん患者における診断から治療までを自分たちで行うことが要求される一風変わった血液内科という領域が、自分の抱いた医師像に合っていたのだと思います。急性期病院の血液内科病棟・外来で白血病やリンパ腫など血液疾患を抱える患者さんたちと時間をともにすることで、今こうして訪問診療や地域の外来診療を行っていく中でも大切にするべきことを多く学ばせていただいたと、最近特に強く感じています。
見て見ぬふりはできない。認知症への取り組みも視野に
今回の外来の医院を始める前、最初に訪問診療メインの医院を開業されたのには何か理由があるのでしょうか。
大学院時代に非常勤医師として訪問診療に出る機会があり、患者さんたちが自宅退院した後の様子や、抗がん剤治療を切り上げて自宅で自分らしい生活を送っている様子に触れたことがきっかけです。私の専門は血液内科なのですが、血液内科では終末期の患者さんも輸血のために病院へいらっしゃいます。自宅などの慣れ親しんだ環境で自分らしい静かな最期を望みながらも、つらい状態を押して病院へ向かわなくてはならない姿を目の当たりにし、なんとか自宅で輸血をできないかと、対応してくれるドクターを探したこともあります。ちょうど同じ時期、私自身も親の介護を経験し、患者さんを見る視点が変わってきたのですね。人間であれば誰もが迎える老病死にあたり、できる限り安心できる環境で前向きにそれらを受け入れられる社会・地域をつくりたいという思いから、訪問診療をメインとしたクリニックでスタートしたのです。
気分転換やリフレッシュのためにしていることはありますか?
インドア派なので、家で映画を見たり、おいしいものを食べたりすることでしょうか。インドアではありますが、緑の植物や自然は大好きで、近くの公園に足を運び、休日を過ごすこともあります。大自然を体感できるような旅行も好きで、以前は海外旅行にも行っていましたが、現在は難しくなってしまいました。これまで訪れた旅行先で一番心に残っているのは、オーストラリアのエアーズロックです。風の音がとても美しく、そもそも風の音を耳にしたこと自体その時が初めてで、感動したことをよく覚えています。
今後の展望について教えてください。
認知症の患者さんを専門の先生に診てもらえるように準備していきたいと考えています。今は3〜4人に1人が認知症になるという時代であり、地域医療を担う医師の一人として認知症を見て見ぬふりはできないと思っています。訪問診療では、介護に疲れきったご家族も、逆に介護を楽しんでいらっしゃるご家族もたくさん目にしてきました。そんな訪問診療で育んだノウハウも生かしながら、患者さんはもちろん、ご家族も支えられる診療を行っていきたいです。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
訪問診療をバックボーンに、地域に広く門戸を開いたクリニックをめざしています。皆さんから「何を相談してもちゃんと応えてくれる」と思っていただける医療を展開できればと思います。お困りのことがあれば、お電話でも、ご来院でも、気軽にお声がけいただけたらと思います。