岡崎 弘泰 院長の独自取材記事
泰山堂 岡崎医院
(箕面市/箕面駅)
最終更新日:2024/03/15
阪急箕面線・箕面駅から徒歩約7分、箕面5丁目交差点を東に進んだ場所に立つマンションの1階に「泰山堂 岡崎医院」がある。院長の岡崎弘泰先生は、日本東洋医学会漢方専門医の資格を持ち、主に漢方に基づいた診療を提供している。診療室には畳敷きのスペースもあり、患者が落ち着いて診察が受けられるよう配慮されている。岡崎院長は、勤務医時代に薬の副作用で苦しむ患者を見て、東洋医学に関心を持つようになった。さまざまな症状や悩みを抱えて来院する患者を、漢方の視点から丁寧に診察し、一人ひとりの患者に合わせた漢方薬を処方する。漢方の良さをもっと多くの人に知ってもらいたいと語る岡崎先生に、漢方の考え方にのっとった診療の特徴や診療姿勢などについて話を聞いた。
(取材日2024年2月16日)
薬の副作用に苦しむ患者を見て漢方に興味を持つ
漢方との出会いについて教えてください。
愛媛大学医学部に在籍中、病棟実習でさまざまな診療科を経験しました。ある診療科にステロイドを使用した薬による治療を受けている患者さんがいらっしゃったのですが、薬の副作用に悩まれていました。薬による副作用は、もともとの病気の症状よりも患者さんの苦痛になるケースもあり、患者さんにこのような負担をかけて良いものかと疑問を持ったのがそもそもの始まりです。抗がん剤の副作用や精密検査に伴う患者さんの負担は大きく、時には副作用で生命に危機が及んでしまうこともあり、このような医療が本当に患者さんのためになるのかと考えるようになりました。
いつ頃から漢方薬を使った治療を始めたのですか?
医師になって4年目に、高知県にある四万十市立市民病院に赴任しました。奨学金制度を利用して医師になったので、地域医療に従事する必要があったのです。漢方治療などを活用して地域を活性化に導くという方針を持った病院で、診察室には、私の前に勤務していた先生が使われていた漢方のエキス剤がたくさん残されていました。偶然の巡り合わせですが、そうした環境に置かれたことで、さまざまな患者さんに漢方薬を使った治療を提供するようになりました。その後は、私の漢方の恩師となった先生と出会い、東洋医学に関する勉強会などにも顔を出すようになり、本格的に漢方を専門とする医師への道を歩むようになりました。
箕面市で開業されたのはなぜですか?
私は高知県の出身で、開業前は徳島大学大学院での間質性肺炎の研究と、四万十市立市民病院での地域医療の診療という二足のわらじ状態を経験しました。両方を同時に進めることは難しいので、2年から3年半ごとに研究と診療に交互に取り組みました。その後は、漢方の恩師が関西と縁の深い方だったこともあり、自然に近い環境が良く高知から箕面市に越してきました。京都の高雄病院などで経験を積んで日本東洋医学会漢方専門医の資格を取得しました。高雄病院には常勤医師として2年間勤務していて、そのまま勤務を継続するという選択肢もありました。しかし、箕面市の自宅から片道1時間半かけて通い続けるのは大変で、近隣の医療機関で漢方の医師を募集しているところもなかったので、以前から一度はやってみたいと考えていた開業に向けて動くことにしたのです。
たとえ同じ病気でも、患者によって薬は異なる
どのような患者さんが来られますか?
大阪府の他、京都府や奈良県などから来院される30〜50代の方が中心です。現役世代で仕事をしなければいけない状況にありながら、睡眠障害や倦怠感、めまいなどのさまざまな不調で思うように仕事ができない、パフォーマンスが発揮できないといった方がご自身で漢方治療を受けたいと考えて来院されます。最近では、新型コロナウイルス感染症の感染後やワクチン接種後に長引く不調を訴えて受診される方も、たくさんいらっしゃいます。
患者さんはどのような理由で漢方の治療を希望されるのですか?
当院の患者さんは、さまざまな不調を訴えて医療機関で精密検査などを行っても特に問題がないと診断されたり不定愁訴と判断されたりして、期待する治療を受けられなかった方がほとんどです。そうした方々に対して、不調や悩みの原因をしっかりと見極めて対応していくのが東洋医学や漢方の特徴です。西洋医学では症状や検査結果から診断して病名をつけ、その病気に則した一定の治療を提供します。一方、東洋医学の場合は病名だけで判断するのではなく、患者さんごとの体質や病態などを考えて病気のタイプ分けを行い、そのタイプに合わせた薬を処方します。
もう少し詳しく教えてください。
例えば、漢方では一口にめまいといっても4〜5のタイプに分けて考えます。そうすることで、不調の原因によりアプローチできる治療の提供につながると考えるからです。病名で判断して均一的、汎用的な治療や薬を提供し、その治療や薬が患者さんに合っていれば何ら問題はありません。しかし、均一的、汎用的な治療から外れる病態や体質の患者さんの場合は、やはり期待するような効果につながらないのが実情です。このため、同じ病名がつけられる患者さんの場合も、まずタイプを判断して、そこからさらに患者さんに合わせてお薬を細かく調整していきます。
漢方薬は副作用が少ないといわれますね。
漢方薬を使う場合、現れている症状、患者さんの体質、体の中で弱っている部位や「巡り」が停滞している部位、さらに季節なども総合的に判断して、植物の葉や根、樹皮、鉱物などの生薬を使って体全体を良い方向やあるべき方向に導くことをめざします。生薬の選択や使い方を誤れば当然、多少なりとも副作用が現れることはあります。そうした場合も、症状の経過を見ながら薬の適合性を確認し患者さんと一緒になって細かく調整を行います。西洋医学は病気を診るのに対して、東洋医学は患者さんを診る医学といわれます。医師から一方的に治療を提供するのではなく、患者さんの体のサインを注意深く観察する漢方だからこそできるアプローチだと思います。
漢方医療の良さをもっと多くの人に知ってもらいたい
薬はどのような状態で提供されるのですか?
私の漢方の恩師はほとんど煎じ薬しか使わない主義で、私もできるだけ煎じ薬を使った治療を提供しています。すでに完成しているエキス剤より煎じ薬のほうが手間はかかりますが、数倍病態に合わせることが望めます。当院には約200種類以上の生薬を取りそろえており、治療の適応の幅がかなり広くなっています。通常煎じ薬は必要な生薬を混ぜ合わせた状態でお渡しします。その煎じ薬を土瓶などで煮出す、つまり煎じて飲んでいただきます。また、当院で煎じ薬を煮出し、パックにして提供できる煎じ機という機械も導入しています。少々割高にはなりますが、出張など外出の際にも携帯しやすく、何よりも薬を煎じる手間が省けるのが大きなメリットです。
これからの目標を教えてください。
一人ひとりの患者さんに時間をかけた「オーダーメイド漢方」の医療を提供して、人間に本来備わっている治癒力を高めることを図り、患者さんがQOLの高い生活が送れるようにサポートしていきたいと考えています。漢方治療には数千年の歴史があり、膨大な量の文献が残されています。中国、台湾、韓国などでは、街中に漢方を専門とする医師が常駐する薬局があり、調子が悪い時には気軽に立ち寄って薬を処方してもらえます。一方、日本で漢方医療を受けようと思うと、専門の医療機関などを受診する必要があり、自由診療が多いことも手伝って、ハードルが高いのが実情です。当院では、そうした負担を少しでも軽減すべく、身近なクリニックで保険診療による漢方医療を提供しています。来院が難しい方のためにオンラインでの診察も行っていますので、今後はより広い地域の方に漢方を提供したいと考えています。
読者にメッセージをお願いします。
東アジアの国々では歴史に培われたノウハウを大事にしながら大学の研究室などで先進的な漢方医療が展開されています。日本でも150年ほど前まで、漢方は日常的に診療で使用されていましたが現在ではごく一部で用いられているのみです。さまざまな利点のある漢方を、再びかつての地位に押し上げたいと考えて日々研鑽に励んでいます。現在のところ、当院を受診される患者さんは家族や知り合いが漢方医療を受けていたなどの理由で漢方に抵抗がない方や、漢方治療を受けたいとご本人が希望される方が中心です。しかし、漢方は一般的に知られているより幅広い疾患や不調に対応しています。病気ではなく患者さんを診ることを重要視する漢方を必要と考える方がもっと増えていってほしいですね。