岡崎 弘泰 院長の独自取材記事
泰山堂 岡崎医院
(箕面市/箕面駅)
最終更新日:2025/06/30

阪急箕面線・箕面駅から徒歩約7分、箕面5丁目交差点を東に進んだ場所に立つマンションの1階に「泰山堂 岡崎医院」はある。岡崎弘泰院長は、日本東洋医学会漢方専門医の資格を持ち、主に漢方に基づいた診療を提供している。診療室には畳敷きのスペースもあり、患者が落ち着いて診察が受けられるよう配慮されているのが特徴だ。勤務医時代に薬の副作用で苦しむ患者を見て、東洋医学に関心を持つようになったという岡崎院長。同院では、さまざまな症状や悩みを抱えて来院する患者を、漢方の視点から丁寧に診察し、一人ひとりの患者に合わせた漢方薬を処方する。漢方の良さをもっと多くの人に知ってもらいたいと語る岡崎院長に、漢方の考え方にのっとった診療の特色や診療姿勢などについて話を聞いた。
(取材日2024年2月16日)
薬の副作用に苦しむ患者を見て漢方に興味を持つ
漢方との出会いについて教えてください。

愛媛大学医学部に在籍中、病棟実習でさまざまな診療科を経験しました。ある診療科にステロイドを使用した薬による治療を受けている患者さんがいらっしゃったのですが、薬の副作用に悩まれていました。薬による副作用は、もともとの病気の症状よりも患者さんの苦痛になるケースもあり、患者さんにこのような負担をかけて良いものかと疑問を持ったのがそもそもの始まりです。抗がん剤の副作用や精密検査に伴う患者さんの負担は大きく、時には副作用で生命に危機が及んでしまうこともあり、このような医療が本当に患者さんのためになるのかと考えるようになりました。
いつ頃から漢方薬を使った治療を始めたのですか?
医師になって4年目に、高知県にある四万十市立市民病院に赴任しました。奨学金制度を利用して医師になったので、地域医療に従事する必要があったのです。漢方治療などを活用して地域を活性化に導くという方針を持った病院で、診察室には、私の前に勤務していた先生が使われていた漢方のエキス剤がたくさん残されていました。偶然の巡り合わせですが、そうした環境に置かれたことで、さまざまな患者さんに漢方薬を使った治療を提供するようになりました。その後は、私の漢方の恩師となった先生と出会い、東洋医学に関する勉強会などにも顔を出すようになり、本格的に漢方を専門とする医師への道を歩むようになりました。
箕面市で開業されたのはなぜですか?

私は高知県の出身で、開業前は徳島大学大学院での間質性肺炎の研究と、四万十市立市民病院での地域医療の診療という二足のわらじ状態を経験しました。両方を同時に進めることは難しいので、2年から3年半ごとに研究と診療に交互に取り組みました。その後は、自然に近い環境が良かったのと、漢方の恩師が関西と縁の深い方だったこともあり、高知から箕面市に越してきました。京都の高雄病院などで経験を積んで日本東洋医学会漢方専門医の資格を取得しました。高雄病院には常勤医師として2年間勤務していて、そのまま勤務を継続するという選択肢もありました。しかし、箕面市の自宅から通い続けるのは大変で、近隣の医療機関で漢方の医師を募集している所もなかったので、以前から考えていた開業に向けて動くことにしたのです。
たとえ同じ病気でも、患者によって薬は異なる
どのような患者さんが来られますか?

大阪府の他、京都府や奈良県などから来院される30〜50代の方が中心です。現役世代で仕事をしなければいけない状況にありながら、睡眠障害や倦怠感、めまいなどのさまざまな不調で思うように仕事ができない、パフォーマンスが発揮できないといった方がご自身で漢方治療を受けたいと考えて来院されます。最近では、新型コロナウイルス感染症の感染後やワクチン接種後に長引く不調を訴えて受診される方もたくさんいらっしゃいます。そうした方々に対して、不調や悩みの原因をしっかりと見極めて、東洋医学や漢方を用いて診療を行うのが当院の特色です。
漢方について教えてください。
漢方は、紀元前の中国で確立しました。長い歴史の中で、インフルエンザやチフスといった疫病の治療にも用いられていたという記録があります。日本に伝わったのは約1500年前です。漢方の考え方では、風邪一つとっても、体がだるくなる新型コロナウイルス感染症は「湿邪」、日射病は「暑邪」などというように、何種類にも分類して考えるのが特徴です。そうした病態と、急性期か慢性期か、患者さんの体質や季節などを鑑みて、数百種類もある生薬を組み合わせ、オーダーメイドで漢方薬を処方して治癒をめざします。
漢方の強みはどんなところにあるのでしょうか?

患者さんの状態に合わせてお薬を細かく調整するなど、一人ひとりに応じたアプローチができるのが漢方の強みです。一般的に、漢方は慢性期に使用するというイメージがあると思います。しかし漢方では、免疫向上を図り、病原物質の排出を促すことをめざす役割もありますので、きちんとその方に合った処方を行えば、急性期にも利用できるのです。急性期には、病気の原因を取り除くことに重点を置いた処方を行い、慢性期には患者さんの体力を補うことを重視して処方するといった具合に、状況に応じて薬の配合を変えることができます。オーダーメイドの処方で急性期と慢性期のどちらにも対応できますので、ぜひ早い段階で相談にお越しいただけたらと思っています。
漢方薬は副作用が少ないと聞きました。
漢方薬を使う場合、現れている症状、患者さんの体質、体の中で弱っている部位や「巡り」が停滞している部位、さらに季節などから総合的に判断して、植物の葉や根、樹皮、鉱物などの生薬を使って体全体を良い方向やあるべき方向に導くことをめざします。生薬の選択や使い方を誤れば当然、多少なりとも副作用が現れることはあります。そうした場合も、症状の経過を見ながら薬の適合性を確認し患者さんと一緒になって細かく調整を行います。西洋医学は病気を診るのに対して、東洋医学は患者さんを診る医学といわれます。医師から一方的に治療を提供するのではなく、患者さんの体のサインを注意深く観察する漢方だからこそできるアプローチだと思います。
漢方医療の良さをもっと多くの人に知ってもらいたい
薬はどのような状態で提供されるのですか?

私の漢方の恩師はほとんど煎じ薬しか使わない主義で、私もできるだけ煎じ薬を使った治療を提供しています。すでに完成しているエキス剤より煎じ薬のほうが手間はかかりますが、数倍病態に合わせることが望めます。当院には約200種類以上の生薬を取りそろえており、治療の適応の幅がかなり広くなっています。通常煎じ薬は必要な生薬を混ぜ合わせた状態でお渡しします。その煎じ薬を土瓶などで煮出す、つまり煎じて飲んでいただきます。また、当院で煎じ薬を煮出し、パックにして提供できる煎じ機という機械も導入しています。少々割高にはなりますが、出張など外出の際にも携帯しやすく、何よりも薬を煎じる手間が省けるのが大きなメリットです。
読者に伝えたいことはありますか?
日本で漢方医療を受けようと思うと、専門の医療機関などを受診する必要があり、自由診療が多いことも手伝って、ハードルが高いのが実情です。当院ではそうした負担を少しでも軽減すべく、保険診療による漢方医療を提供しており、オンライン診療にも対応しています。これまでお話ししたとおり、漢方は一般的に知られているよりも幅広い疾患や不調に対応しています。今まで漢方が身近でなかった方にも、病気よりも患者さんを診ることを重視する漢方の良さを実感していただきたいですね。オンライン診療も活用しながら、近隣の方々だけでなく、より広い地域の方に漢方を提供できればと思います。
今後の目標についてお聞かせください。

東アジアの国々では、歴史に培われたノウハウを大事にしながら、大学の研究室などで先進的な漢方医療が展開されています。日本でも150年ほど前まで、日常的に診療で漢方が使用されていましたが、現在ではごく一部で用いられているのみです。さまざまな利点のある漢方を、再びかつての地位に押し上げたいと考えて日々研鑽に励んでいます。自然が遠くなってしまった現代社会だからこそ、人体も自然の一部と考える東洋医学は必要だと考えます。今後もその使命感を持って、一人ひとりの患者さんに時間をかけた「オーダーメイド漢方」の医療を提供していきたいです。人間に本来備わっている治癒力を高めることをめざし、患者さんがQOLを高められるようにサポートしていきたいと考えています。