小島 武文 院長の独自取材記事
ハート歯科クリニック
(八千代市/八千代緑が丘駅)
最終更新日:2025/01/15

訪問歯科を専門とする「ハート歯科クリニック」を開業した小島武文院長は、大学病院の歯科口腔外科で研鑽を積んでいたが、通院が難しい高齢者が多いことを知り、訪問歯科診療の道へ進んだ。もともと人に感謝される仕事に就きたいと歯科医師をめざした小島院長は、患者や家族から喜ばれる訪問診療に惹かれたという。「高齢化が加速度的に進む中、訪問歯科診療はさらにニーズが高まると考えられます」と話し、八千代市歯科医師会の役員として地域貢献にも取り組む小島院長に、訪問歯科診療に取り組んだきっかけや診療の特徴、患者や家族と接する際に心がけていることなどを詳しく聞いた。
(取材日2024年12月18日)
千葉県八千代市を中心に訪問歯科診療を行う
こちらは、訪問歯科診療に特化した歯科クリニックとのことですね。

そうです。八千代市内が中心ですが、それだけでなく半径16km圏内の船橋市や習志野市、四街道市、印西市、千葉市の花見川区、稲毛区、美浜区などにお住まいの方でも利用することができます。私と歯科衛生士、歯科助手でもあるコーディネーターの3人体制で、車にポータブルの診療機器を積み込んで訪問します。できるだけ一般的な外来診療と同じように診療を行いたいので、院内で使うような器具や材料をそろえて、多様な治療に対応できるようにしています。
先生が訪問診療に携わられるまでの経緯や、印象的なエピソードを教えてください。
大学の歯学部を卒業後、大学病院などで口腔外科の研鑽を積んでいました。勤務医として従事していた折、施設に入居している認知症の患者さんが食事を取れなくなったというので訪問して診察したところ、部分入れ歯が歯茎に食い込んでいたことがありました。入れ歯を使われていることをご家族も施設でも把握できていなかったようで、治療して入れ歯を作り直して差し上げました。ご高齢の方の場合、しっかり食べられるかどうかが健康に深く関連します。また、茨城県日立市の病院で歯科診療に携わった際、ご高齢の患者さんに入れ歯治療を行ったのですが、「ずっと入れ歯に不具合があったが家族の都合がつかず、なかなか来られなかった」と言われたことがありました。高齢になると、一人で通院できなくなることも多いと痛感しました。高齢化が進む社会では訪問歯科診療が必要になってくるだろうと考え、大学病院に戻ってから非常勤で訪問診療に取り組み始めたのです。
そして、訪問歯科診療専門クリニックとして開業されたわけですね。

そうですね。開業した2011年当時は今ほど訪問歯科診療が普及していなかったこともあり、訪問すると患者さんやご家族にとても喜ばれて手応えを感じたのです。オーソドックスに診療所を構えた上で訪問診療を手がけることも考えたのですが、現実的には、外来診療を行いながら訪問診療を行うことは難しくなるのではないかと考えて、とにかくまず訪問歯科診療に特化した歯科クリニックを立ち上げようと考えました。八千代市を選んだのは、妻の出身地でもあり、土地になじみもあったからです。訪問診療が軌道に乗ったら一般歯科診療を立ち上げることも考えていましたが、ニーズが高いので今は訪問診療に絞っています。
幅広い歯科診療を保険適用で提供
診療面での特徴を教えてください。

訪問歯科診療として、オーソドックスに一通りの診療を行えることが特徴です。入れ歯の作製・修理・調整、虫歯の治療、根管治療、歯周病の管理、かぶせ物の治療、また必要に応じて抜歯や、食べ物を飲み込むのが難しくなっている方に対しての内視鏡を用いた嚥下(えんげ)検査、嚥下トレーニングといった診療に対応しています。訪問料を含めて、これらの診療は患者さんの自己負担割合に応じた保険適用内で行っています。また、加えての交通費実費は頂いておりません。
嚥下のトレーニングなども行われているのですね。
患者さんの年齢や状況を考えると、特殊な治療より、お口の中の困り事の解決を図ること、きちんと食事ができて栄養が取れるように導くことが重要です。嚥下障害に対する治療やリハビリテーションも含めて、食事や栄養につながる処置を行うことを重視しています。ほとんど出歩けない方の診療を行うわけですから、なるべく自分たちで解決したいと思っていますが、インプラントの不具合や口腔がんの疑いがある場合などは、地域の中核病院の歯科口腔外科に紹介することもあります。
診療の際に、大切にされているのはどのような点ですか?

訪問歯科診療では、一般診療よりも患者さんやご家族とのコミュニケーションがより重要になると思います。やはり患者さんと話をする時間は長くなりますね。特に独居の方の場合、1日ほとんど誰とも話をしていないということも多いので、長居はできませんが、治療の説明なども含めて、できるだけ話をすることを心がけています。ご本人が理解できない場合にはご家族によく説明します。口の中の痛みや不具合を治療することも大切ですが、加えて、毎日の生活が快適になるように、訪問診療を受けることで少しでも楽しい時間を過ごしていただけるようにということも心がけています。いつもチームで活動していますから、私だけでなく、スタッフも積極的に患者さんやご家族に話しかけることを心がけてくれています。少しでもにぎやかな時間を過ごしていただければ、価値があるかなと思っています。
超高齢社会の中で高まるニーズへの対応をめざして
先生の立場から現在、気になっていることはありますか?

昔は高齢になると歯がなくなり、総入れ歯の方が多かったと思いますが、8020運動などの成果もあり、歯が残っている方が多く、総入れ歯の方はだんだん少なくなってきたと感じています。歯が残っていることは良いことなのですが、だからこそ高齢で寝たきりになって自分で歯磨きなどの管理ができなくなると、虫歯になったり歯が欠けたりというトラブルも起こりやすくなるのです。総入れ歯は外して口腔ケアを行うこともできますが、歯が残っているからこそのトラブルが起こり、治療が必要になることもあります。予防歯科が広まり、これからはもっと歯が残っている高齢者が増えると思いますが、自分自身で歯や口腔を管理できなくなった場合に生じる問題が顕著になり、訪問歯科診療の必要性はさらに高まると思っています。
これからの展望について聞かせてください。
介護保険が導入されて訪問歯科診療が広まってきたこともあり、ポータブルの機材なども進展して訪問歯科診療でも精密な治療ができるようになりました。国の方針としても在宅医療を重視していますから、訪問歯科診療はこれからも発展していくだろうと感じています。私自身、訪問歯科診療が軌道に乗ったら一般診療も行いたいと考えていたこともあるのですが、団塊の世代がすべて75歳以上になる2025年問題もあり、ご高齢の方が増えて訪問診療のニーズはどんどん高まると予想されますので、できればずっと訪問歯科診療に取り組み、地域の皆さんのお役に立ちたいと考えています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

歯科医院はたくさんありますが、訪問歯科診療は、まだ行き届いていない地域も多く、不便な思いをされている人も少なくないようです。まずは、訪問歯科診療があるということをできるだけ多くの方に知っていただきたいと思っています。どういう診療が受けられるのかご存じない方も多いと思うので、まずは気軽にお問い合わせください。ご自宅に伺う場合、「家が狭いから」とか「片づけていないから」などと気にされる方もいらっしゃいますが、特に用意していただく必要もありませんし、掃除などの準備も不要です。訪問診療で患者さんが喜んでくださることは、私たちにとっても喜びであり、いわばウィンウィンの関係になれると私は思っています。どうぞ遠慮なく、ご相談ください。