吉見 格 院長の独自取材記事
荒田八幡 せきと呼吸と内科のクリニック
(鹿児島市/荒田八幡駅)
最終更新日:2024/10/11

体調を崩したとき、体に出るつらい症状の一つである「咳」だが、咳の原因を追究し治療していく呼吸器内科という専門の診療科があることを知っているだろうか。鹿児島市にある「荒田八幡 せきと呼吸と内科のクリニック」は、吉見格(よしみ・かく)院長が専門とする呼吸器内科を中心とした診療を行うクリニックだ。吉見院長は長年にわたり複数の病院で多様な疾患の診療に携わってきた呼吸器内科の専門である。インタビューでは「やっぱり人を診るのが好きなんです」と朗らかな笑顔を見せながら、取材陣の質問にじっくりと耳を傾ける真摯な姿が印象的だった吉見院長。言葉の一つ一つから診療にかける熱い思いと、しなやかで芯の強い人柄が伝わってきた。
(取材日2024年8月7日)
クリニックのネーミングに込められた思い
先生が呼吸器内科の道に進んだ理由をお聞かせください。

医師になりたての時に呼吸器内科で見た「患者さんをしっかり診察して、患者さんの中から答えを引き出していく」という先生方の姿勢に憧れたことが大きいです。それに、もともと臨床一筋でやりたいという思いもありました。私は母校である順天堂大学医学部附属順天堂医院や系列の病院で、ぜんそくなどのアレルギー性の疾患、肺炎といった感染症、肺がんなどの悪性疾患に至るまで多様な症例に携わってきました。外来診療に加えて、肺がんなどの疾患で入院している患者さんも治療していましたから、チーム一丸となって24時間体制で忙しい日々を送っていましたね。「肺という臓器だけ診るのではなく、患者さんを診る」という母校の先生方が貫いていたスタイルは私の中での原点になっています。
こちらを開院したきっかけを教えてください。
医師になった当初から「いつか生まれ育った地元の医療に貢献したい」という思いがあり、大学病院での勤務が一区切りついた時点で鹿児島県に戻りました。県内では消化器内科や循環器内科と比べて、呼吸器内科を専門にしているクリニックが格段に少ないこともあり、地域の方々のお手伝いができればと考えたのが開院のきっかけです。当院が開院した2021年は、まさに新型コロナウイルス感染症が全国的に拡大している時期でした。未知のウイルスと対峙することになったわけですが、手探りの中でも当院の隔離室を活用し、感染症防御に徹底して努めながら診療にあたっていました。まずはこちらが冷静にならないと患者さんも不安になってしまいますし、とにかく「やるしかない」という気持ちでしたね。
クリニック名がユニークですね。先生のどんな思いが込められているのでしょうか?

単純に自分の名前を入れても地域の方に認知していただくのは難しいですし、かといって「呼吸器内科」という診療科を出しただけではピンと来ない方が大勢いらっしゃるだろうと感じていました。具体的に「どんな診療をしているのか」という点に特化したほうがわかりやすいのではと考えました。ちなみに「荒田八幡 せきと呼吸と内科のクリニック」という名前自体は直感で、わずか数秒で決まったんですよ(笑)。表の看板を見て足を運んでくださったという患者さんもおられ、自分の思いが伝わったなという手応えがありました。
咳の症状で迷ったら、まずは受診を
診療において、重視している点について教えてください。

内科を受診する患者さんの主訴の中でも、咳の症状は特に多いです。一言で咳といっても一般的に認知されている感染症の他にもさまざまな原因がありますし、肺がんや肺結核など重篤な病気が隠れている恐れもあります。呼吸器内科を専門とする医師の役割としては「原因診断」をすることが最も重要と考えていることから、胸部聴診のほかエックス線をはじめとした画像診断を手がかりとして慎重に判断していきます。単にお薬を出して終わりにするのではなく、当院では患者さんに丁寧な診察を行うことをポリシーにしています。私としては、診察は患者さんとの一種のコミュニケーションだと捉えているのです。「呼吸機能だけでなく、人を癒やすのだ」という思いもその根底にはありますね。
クリニックを受診するタイミングはいつが良いのでしょうか?
「何週間以上咳が続いたら」という数字で判断するよりも「迷ったら受診する」ことをお勧めします。私は「何でこんな些細な症状で来たんですか」と患者さんに言うことは絶対にありません。というのも、風邪だと思っていたら、実は肺炎だったというケースもあり得ますから。逆に「何でこんなにひどくなるまで放っておいたんですか」という言葉がけも適切でないと個人的には思います。患者さんの中には何年も咳の症状が良くならずに来院される方もいらっしゃいますし、それに対して「来るのが遅すぎる」と感じることはないですね。「今までこの症状はつらかったでしょう。これ以上我慢すると疲れてしまいますから、一緒に治療していきましょうか」という思いを伝えるようにしています。
クリニック全体で大切にしていることは何でしょうか?

どれだけ見た目が立派な建物を造っても、そこで働く人の体制が整っていなければ医療機関は機能しません。ですから、互いを信頼しながらフォローし合えるチームづくりにこだわっています。呼吸器内科で適切な診断を行うためには詳細な問診が不可欠なのですが、当院ではまず看護師のスタッフが時間をしっかり取って患者さんに症状の聞き取りを行っています。普段から私と「これは喘息で表れる症状ですよね」といった確認のやり取りを重ねていくうちに、スタッフの聞き取りのスキルの向上につながっているので、とても頼もしく感じています。私自身が「仕事は楽しくないと長く続けられない」と思っていますから、スタッフとともに楽しみながら挑戦し、成長できることが理想ですね。
呼吸器内科の医師として「人に寄り添う」
クリニックの理念である「人と地域に愛される幸せクリニック」について詳しくお伺いします。

実は、私は医師になってから無理をし過ぎて身も心もボロボロになってしまった経験があります。その時にさまざまなジャンルの本を読んだのですが、とある本の中に書かれていた「良い会社は、中で働く従業員が幸せに働いている」という内容が心に響いたんです。医療を提供する側がまずは幸せに仕事ができる環境を整えることで、患者さんに心のこもった診療を行うことができるのではないかと考えるようになりました。それに、「医療従事者の心に余裕がなければ、本当の意味で患者さんを救うことはできない」という教訓は私の経験に基づいています。患者さんが当院を出る時、笑顔になっていただけたらうれしいですし、クリニックに携わる人全員に「幸せ」を感じてほしいという思いを理念に込めました。
先生が患者さんに説明をする際に工夫していることはありますか?
患者さんが理解しやすい言葉選びは意識するようにしていますね。例えば当院で多く対応する喘息の場合、専門的な「好酸球性の炎症が……」という説明をしても、イメージが湧きづらいですよね。ですから「喘息というのはアレルギー性の気管支炎ですよ」とか「さまざまな刺激によって、気道が敏感に反応して気管支がキュッと細くなって症状が出ます」という言葉に置き換えます。検査結果を説明する際も、喘息の症状を示したサンプルの画像と患者さんご自身の画像を比べて「ここが似ていますよね」と目で確認していただくことが大切です。また、診察の最後には「何かわかりにくかったことや他に聞きたいことはありますか?」という確認を欠かさないように心がけています。
最後に、地域の方へメッセージをお願いいたします。

医師になり25年以上たちましたが、つくづく「呼吸器内科は患者さんに寄り添っていく科なんだな」と感じます。私は地元のサッカーチームを応援しているのですが、医師と患者さんもサッカー選手とサポーターの関係と似ていると思っているんです。「患者さんのお手伝いをしながら一緒に頑張る」と言えば伝わりやすいでしょうか。「より良い道筋を見つけてほしい」という願いがありますから、患者さんが治療の選択に迷うことがあれば、「別の医療機関で意見を聞くという手段もありますよ」とアドバイスすることもします。当院のキャパシティーの関係で診療を完全予約制としているのが心苦しいのですが、咳などのつらい症状がある時には「呼吸器内科が選択肢にある」ことを知っていただけたらうれしく思っています。