市野 武司 院長の独自取材記事
みなとクリニック品川
(品川区/大崎駅)
最終更新日:2024/05/22
患者に寄り添い、その人らしい生活を支える医療をモットーに、品川区を中心に在宅医療を提供する「みなとクリニック品川」。通院が困難な患者の自宅や施設への定期的な訪問診療に加え、訪問を開始した患者向けに24時間365日の電話受付、緊急時の往診対応を行っている。医療関係者とのつながりを重視した多職種連携、セミナー開催による訪問診療についての情報発信にも注力。2023年より院長に就任した市野武司先生は、在宅医療に長年携わってきたベテラン医師だ。外来では元気がなかった患者の、訪問診療時の明るく生き生きとした表情を見たことがきっかけで、訪問診療の必要性を痛感したと話す。優しい笑顔と、相手の声にじっくり耳を傾けてくれる姿勢が印象的な市野院長に、地域医療への思いや同院の診療ポリシーなどを聞いた。
(取材日2023年11月15日/情報更新日2024年1月31日)
患者、家族、医療関係者、みんなをつなぐクリニック
こちらはどのような医療を提供していますか?
品川区を中心に在宅医療を提供しています。主に通院が困難な患者さん、最期をご自宅で迎えたいと希望する患者さんの、ご自宅や施設への定期的な訪問診療を行います。加えて、体調の急変などの緊急時には日中だけでなく、夜間、土日でも医師による電話対応や状況に応じた往診を行います。ちなみに「みなとクリニック品川」という名前は、患者さんとそのご家族、そして地域の医療関係者の「“みな”さん“と”つないでいくクリニックでありたい」という思いを込めて名づけられています。船や人が集まる港のようなクリニックとして、患者さん一人ひとりの人生や生活に寄り添った医療を、地域で協力しながら提供していきたいです。
在宅医療ではどのような治療ができるのでしょうか?
点滴や、在宅酸素療法、人工呼吸器対応、皮下注射や静脈注射などを含む痛みの緩和や栄養管理サポート、検査については一般的な血液検査、尿検査、心電図、超音波検査などかなりの範囲をカバーできると思います。通院していた時と同じお薬が欲しい場合も処方できますし、具体的な疾患がなくても、健康管理といった予防的対応も行います。また、最近は認知症の患者さんも多いですが、認知症の方が訪問診療を活用することにはメリットがあります。認知症患者さんの中には、認知症以外に複数疾患をお持ちの方もいらっしゃいます。認知症を神経内科で診てもらって、それ以外の疾患はまた別の科を受診するとなると患者さんも大変でしょう。しかし訪問診療であれば、一人の医師がすべて診ることができるのです。私もこれまでに内科疾患全般、認知症、整形外科疾患など幅広く診療して経験を積んできましたので、それを生かして全身を診療させていただきます。
診療のポリシーを聞かせてください。
患者さんに寄り添った医療の提供です。何事も早めに気づいて早めに対処して差し上げること、そして悩んでいる患者さんを適切な方向に導くことを心がけています。患者さんと話すときは難しい医療用語を使わずわかりやすく説明し、不明点があればそのまま済ませるのではなく、患者さんが理解できるまで何度でもお話しします。そういうコミュニケーションが、信頼関係につながると考えています。医療のことに限定せず、訪問診療の費用や生活のことも隠さず話せるような関係になれればうれしいですね。また、患者さんと一番長い時間接するのはご家族ですから、ご家族の体調や経済面のことにも気を配り、家族全体を包括的に見た上で最適な医療を提案できるように努めています。
患者の生き生きとした表情に感動し、在宅医療の道へ
先生が在宅医療の医師を志した理由を聞かせてください。
もともとは多摩市の病院の神経内科で外来診療をしていたのですが、その時に訪問診療に携わる機会がありました。そこで非常に驚いたのが、外来では表情が硬くあまり話さない患者さんが、ご自宅では明るくエネルギッシュだったこと。その患者さんの生き生きとした表情を見て感動したのが訪問診療の道に進んだきっかけです。とはいえ専門は神経内科なので、大学院で博士号も取得したんですよ。でもやはりあの時の訪問診療での感動が忘れられなくて。私の父が開業医で地域のために尽力していた人だったので、その父の影響もあって、より地域に深く貢献できる在宅医療を頑張っていこうと決意しました。それから他院で訪問診療の経験を積み、訪問診療責任者や院長も務めた後、2023年より当院の院長に就任しました。
多職種連携にも力を入れているそうですね。
大学の関連病院勤務時におのおのの入院患者さんのカンファレンスを行っていましたが、そこでは患者さんやご家族、医師、看護師に加えて、介護士さんも入ってくださるのです。その介護士さんのもたらす情報が非常に有用で、医療を提供する上で患者さんの生活面を知ることが大切だと感じました。患者さんが最も多く過ごす場所は自宅です。その自宅での環境を知っているご家族と介護士の情報も欠かせないものと感じました。この経験は、今でも私の診療の素地となっています。医療、看護、リハビリテーション、介護福祉の複合的サポートがあって、良い医療が実現できるのではないでしょうか。当院では訪問看護ステーション、訪問介護員さん、薬局、患者さんのご家族との連絡にコミュニケーションツールを活用しています。忙しくても気軽に情報がシェアできて、早期の問題解決につながりやすいので重宝しています。
クリニックの雰囲気やスタッフについて聞かせてください。
現在スタッフは私に加えて非常勤医師と看護師、事務長、事務スタッフ、ドライバーが在籍しています。若いスタッフを中心に前向きに仕事に取り組んでくれていますね。また当院は少数精鋭の成長中のクリニックということもあり、チーム一丸となって、より良いクリニックづくりに注力しています。チームの風通しは良く、相談しやすい雰囲気なので、皆進んでさまざまな意見を出してくれるんですよ。クリニックと一緒に成長する過程を楽しんでいるスタッフの姿を見ると、とてもうれしく感じます。スタッフが意欲的であることは、患者さんの満足度向上にもつながるでしょう。ですからクリニックとしても、スタッフ一人ひとりの個性や生活背景を大切にしたサポートを行い、残業は少なくメリハリをつけて働ける環境の整備に努めていきます。さらに規模の拡大に向けて、主に日勤のスタッフを増やす予定でもあります。
本人の希望がかなうよう訪問診療について正しい理解を
市民向けセミナーなども開催なさっているそうですね。
訪問診療のことを知りたい方に向けて、訪問診療を始めるベストなタイミングや方法などを解説する講座を開催しています。地域に貢献したいという理由もあるのですが、より多くの人に訪問診療について早く知っていただきたいと思っています。これまで私が診てきた患者さんの中には、通院から訪問診療に切り替えるタイミングが遅かったために、本人が望んでいるのに、自宅で過ごすことができなかったケースもあり、「もっと早く知りたかった」とおっしゃる方も少なくありません。自分は訪問診療の対象にならないと思っていたり、訪問診療に切り替えることはこれまでの主治医に失礼だと誤解していたり。正しい知識を持っていないことで、不安を感じて踏み出せない方もいらっしゃるでしょう。そのときにご本人の希望がかなうように、訪問診療を理解して、選択肢の一つにしてほしいという思いから情報発信に努めています。
訪問診療を検討中の方に、アドバイスはありますか?
訪問診療は決して敷居は高くありませんし、訪問診療を検討するなら早い時期に始めるほうが良い場合があるので、気になったことがあればクリニックにご連絡していただきたいです。近年は訪問診療に携わる人が増えましたし、デバイスや技術の進化もあって、在宅でできる医療の幅も質も上がっているという印象があります。それに伴い、利用者もどんなかたちで訪問診療を受けるかを「選べる時代」になったと思いますので、気軽にご相談ください。
今後の展望やメッセージをお願いします。
患者さんが安心して自宅や施設で過ごせるよう、生活面も考えながら支えてまいります。医療・介護保険など、制度についてわからないこともご相談ください。 地域の方が不安を解消できるよう、なんでも相談できる身近な存在になれることが第一目標です。そして、常に患者さんの立場に立った医療を提供できればと思います。適切なタイミングで活用いただけるよう、訪問診療の周知にも引き続き力を入れていきたいと思いますのでよろしくお願いします。