田野尻 俊郎 理事長の独自取材記事
ウエストサイドクリニック湘南台
(藤沢市/湘南台駅)
最終更新日:2025/07/15

湘南台駅近くの住宅街の中に、溶け込むように「ウエストサイドクリニック湘南台」はある。入り口には大きなパラソルとガーデンチェアが置かれ、一見カフェのような外観だ。シャツにスラックスというリラックスしたスタイルで出迎えてくれたのは、理事長の田野尻俊郎先生。昼休みに訪問したからかと思ったが、普段の診療も同じスタイルで行っているという。「心療内科という敷居をできるだけ下げたいんです」という田野尻先生。確かに、同院にはゆったりとした雰囲気が流れ、クリニックに来たという緊張感はない。趣味のマラソンでは100キロの大会にも出場するというタフな田野尻理事長に、クリニックで行う診療や利用者への想いについて聞いた。
(取材日2025年6月4日)
ふらっと立ち寄れるような身近な場所に
明るくて落ち着く待合室ですね。クリニックづくりでのこだわりはありますか?

私たちは、ここをできるだけクリニックらしくない場所にしようと意識しています。ここのクリニック名だけを見ても、何科かわからないですよね。これも前院長のアイデアです。「ウエストサイド」というのは、前院長が好きだった作曲家の作品名からつけたと聞いています。また、受付のスタッフや私たち医師も、ユニフォームや白衣は着用しません。利用者さんには、気軽に来てリラックスして過ごしてもらいたいので、普段着のままお話しさせていただいています。
どういった相談が多いでしょうか。
職場や学校などの環境に適応できず、さまざまな心身の不調を来した方が多くいらっしゃいます。年代では20〜30代が最も多く、近隣に大学もいくつかあるので、学生さんも少なくありません。また、この地域は、自動車メーカーの工場や米軍施設で働く外国の方が多いのも特徴です。私たちは、そうした外国人の皆さんへの対応にも力を入れています。例えば、受付のスタッフは中国出身なので、中国語での受け答えが可能です。先日も中国人のご夫婦が2人でご相談にいらっしゃいました。また、そのほかの言語でも、翻訳ツールを駆使して何とかお話ができるように努めています。ご相談に来られる方の多くは、「この程度で受診してよかったのか」と話されます。「体調が悪いのは自分が弱いせいだ」と思ってしまうのです。しかし、ご自身でも把握できていない症状が見つかることもあるので、まずはお話を聞かせてもらいたいと思います。
受診のきっかけづくりに、オンラインでの初期相談も始められたそうですね。

はい。やはり最初の一歩の壁が高いので、その壁を少しでも下げられるようにと、オンラインでの初期相談を始めました。オンライン初期相談では、精神保健福祉士がお話をお聞きします。体調を崩されているご本人ではなく、ご家族やご友人など、周囲の方からのご相談も可能です。診療はできませんが、状況をお聞きし、さらなるサポートを提案することができます。また、医療的なこと以外のご相談にも、可能な限りお応えできるようにと考えています。例えば、会社をお休みしている場合の傷病手当の申請や、社会復帰に向けての公的サービスのご案内などです。誰に聞けばいいかわからないといったこともご相談ください。オンライン初期相談のご予約は、ホームページから行っていただけます。スマホでご利用いただけますので、気軽にアクセスしていただければと思います。
うつ病は脳の病気。薬以外の治療の選択肢も
うつ病の治療では服薬以外の治療法もあると伺いました。

はい。当院ではまだ導入していないのですが、今後導入していきたいものとして、今私が関心を持っているのがrTMS(反復経頭蓋磁気刺激療法)です。rTMSは、脳の特定の部分に磁力線を当て、脳内の神経細胞の活性化を図る治療法です。アメリカで開発され、うつ病への効果が期待されています。世界では、アメリカのほか、カナダ、オーストラリア、欧州の一部でうつ病の治療法として認められているものです。日本でもうつ病治療として保険適用となっていますが、厳しい施設基準があり、クリニック単位では保険診療での実施が難しいため、導入しているクリニックはまだまだ少ないのが現状です。
rTMSは、どのように行われるのでしょうか。
コイルを内蔵した装置を頭に着けた状態で治療が行われます。そのため、初回のみ頭部の測定などを行い、刺激部位を特定しなければなりません。同時に磁気による電流の強度を決定し、特定した部位に刺激を与えていきます。1回あたりの治療時間は、一般的に6〜10分。リクライニングチェアに座った状態で治療が受けられ、痛みはほぼないといわれています。治療の頻度は状況によって変わりますが、週2〜3回受けるのが通常とされています。
なぜrTMSの導入を検討されているのでしょうか。

この治療を導入したいと思っているのは、薬で改善が見込めない人にとって、薬の代替になるといったことが挙げられるからです。治療による副作用がほとんど生じないことが期待できるのも、この治療法の特徴です。薬物療法との併用も可能で、rTMSを続ける中で減薬も見込めることでしょう。rTMSを受けた方が、これまで手放せなかった頓服薬を減らせることも望めるかもしれません。ただ、rTMSを受けたとしても必ずすべてのケースで改善が期待できるわけではないことも忘れてはいけません。効果が感じられないことはもちろんありますので、過大な期待を持ちすぎないことも大切です。
小説に入り込むように心情を聞く
そもそも先生はなぜ精神科医になられたのですか?

40年近く前のことなので、記憶が曖昧ですね(笑)。ただ、精神科医は病気も含めて、その人の背負っている部分すべてを理解できないといけないというところに、魅力を感じたのかもしれません。なんというか、その方の人生を描いた小説を読んでいるような、そういった感覚があるんです。もともと本を読むのが好きなことも影響しているのでしょう。精神科医に興味を持ったきっかけも、精神科医が書いた文章や小説を読んだことからでした。医学部に進学してからは、内科などにも興味を持ちましたが、やはり最後は精神科に決めていましたね。
先生が診療において心がけていることを教えてください。
まずは、利用者さんのお話をよく聞くことを心がけています。心理的な疾患は、外傷や感染症などの治療とは違い、症状を外から見ることができません。ですので、利用者さんの気持ちや困っていることを丁寧に聞く必要があります。例えば、利用者さんがどういった立場に置かれていて、どういう精神状態にあるのか、私自身がその方の身に置き換われるくらいまでお話を聞いていきます。そのため、相談時間は30〜60分に及ぶことがほとんどです。ただし、話しにくいことを無理やり聞き出すようなことはしません。何度もご相談に来ていただく中で、徐々にお話しいただければと思っています。そうして対話を繰り返していくうちに、利用者さん自身も自己理解が深まり、良い方向に向かっていくことができます。私たちがめざすのは「人を癒やし、街を癒やす」存在です。そのために、スタッフ一丸となって利用者さんやそのご家族の力になれるようにと考えています。
最後に、読者にメッセージをお願いします。

私たちは開業当初から「今苦しんでいる人をすぐに診る」という方針を貫いてきました。これは、法人全体で共通する理念です。ですので、初めての方でも1週間以内にご予約いただける体制が取れるように努めています。こちらにお越しいただくのが難しい場合は、先ほどお話ししたオンラインでの初期相談もご活用ください。何よりも、利用者さんが来やすい環境をご提供したいと思っていますので、今後もさまざまな工夫を考えていく予定です。また、私たちは、多動性や衝動性といった症状の緩和に使われる薬も取り扱っていますので、症状でお困りの方はご相談ください。私たちは常々、自分たちにできることには全力を尽くしたいと思っていますので、気軽に頼っていただければうれしく思います。