吉岡 淑隆 院長の独自取材記事
つむぎこどもクリニック
(越谷市/越谷レイクタウン駅)
最終更新日:2024/09/05
取材で「つむぎこどもクリニック」を訪れると、クリニック前を散歩コースにしている近隣の保育園児たちから絵を受け取って目を細める吉岡淑隆院長の姿があった。診察室の壁も子どもたちからもらった絵や折り紙作品でびっしり。「お医者さまではなく、地域のお医者さんでいたい」と言う吉岡先生。白衣ではなく、黄色のユニフォームがトレードマーク。胸元に施されているイラストは、絵が得意な吉岡先生自身が描いたそう。吉岡先生は、クリニックで患者を待っているのではなく、軽いフットワークで、地域に求められる子育て支援を実現するために尽力する小児科の医師。併設の病児保育室も自主運営する。優しい笑顔と気さくな人柄が魅力の吉岡先生に、開院に至ったきっかけや病児保育室のこと、子育て支援にかける想い、将来のビジョンを語ってもらった。
(取材日2024年7月17日)
待っているだけでなく、地域に出ていく小児科の医師に
開業に至るまでの経緯を教えてください。
以前の勤務先での上司が子育て支援に尽力されている方で、私を子育て支援の講座や現場によく連れて行ってくれました。小児科の医師は病院にいて外来で患者さんを診るというイメージしかなかったのですが、自ら外に出向いていく働き方もあることを知りました。そして10年後に開業することを目標に、子育て支援に関することを全部学ぼうと決意しました。次に勤務したクリニックで病児保育と出合い、その後勤務した都内の小児科では、子育て広場や産後ケア、保育園の立ち上げと運営に携わりました。外来の診察はその瞬間しか診てあげられない。しかし、患者さんそれぞれに生活や家庭環境といったバックグラウンドがあって今に至っている。地域に積極的に出てみて、子育て支援そのものの必要性をすごく実感しました。そのため、子育て支援もする小児科クリニックを開院することにしました。
なぜ越谷に開院したのですか?
妻の実家が越谷にあり、上の子が生まれるタイミングで越谷に引っ越してきたんです。ここ越谷はファミリー層が多いわりに、私がかつて勤務していた都内に比べて子育て支援がまだまだ行き届いていなくて、子育てで困っている人や苦労されている方がたくさんいました。開院する2年前の2019年に小児科医、助産師、看護師、保育士が集まって子育て支援チーム「つむぎて」を立ち上げ、子どもたち向けのイベント、保護者向けや子育て支援者向けの講座を行い、子育て支援に取り組みました。それが開業のベースになっていますね。
「子育て支援を特徴とした小児科クリニック」として、どのようなことに取り組んでいますか?
1階にあるクリニックでは、小児科全般、子育ての悩みや発達面での不安などお子さんのことならなんでも診ています。待合室、診察室、処置室、病児保育室のすべての場所で子育て支援という想いを持ってすべてのスタッフが取り組んでくれています。2階にある病児保育室は自治体からの協力を得られませんでしたが、目の前で困っている子どもたちやご家庭と日々向き合う中で、自主運営で始めるしかないと決意し2021年10月に開設しました。ウェブ予約システムの導入や広報も自分たちで取り組みました。開設前から今現在も地域の方々や企業団体さまからご支援をいただいており、「みんなでつくる」を具現化するとともに感謝と責任を持って取り組み続けています。他にも、子育て広場の開催、病児保育室の休室日の貸出、地域イベントへの出店、子ども向けイベントの開催、子育て講座の講師もさせていただいています。
建物全部が子育て支援の場。病気の時に頼れる場所に
病児保育室とはどういった場所なのか、改めて教えてください。
「子どもが発熱して保育園に預けられない。でもどうしても仕事を休めない」といった時にお子さんをお預かりする場所です。当室では保育士と看護師が常駐し、病状や年齢に合わせて部屋を分けるなどして保育と看護をしています。お子さんが病気の時でも保育が途切れてしまわないようにすることも病児保育の一つの目的で、それを医療が支えています。人は一人で生きていくことはできませんし、子どもはいろいろな人と関わりながら生きていきます。困った時に頼れる人がたくさんいる、そんな地域をつくっていきたいという想いです。
医院で取り組んでいることを積極的に発信されていますね。それはなぜですか?
病児保育の必要性を知ってもらい、認知度を高めていきたいからです。当院の取り組みを知ってもらうために見学会を兼ねた子育て広場を月に1回開催したり、病児保育室の保育士たちが自主的に広報誌を作って、近隣の保育園に配布したりしています。見学にいらっしゃった小児科の先生方に当院の運営スタイルを知っていただき、可能性を感じてもらって、それぞれの場所で病児保育施設の開設設置に向けて一歩踏み出してくださればうれしいです。どこに住んでいても同じように子育て支援があって、地域格差がなくなればうれしいです。
吉岡先生を筆頭にスタッフの皆さんがとても明るいですよね。共有している想いなどはあるのでしょうか。
「この建物全部が子育てを支えている場であるということを念頭に働いてください」とスタッフには伝えています。受付や診察室だけでなく、待合室も廊下も病児保育室も、とにかくすべてです。例えばお子さん2人連れで来院していて、1人を抱っこしながら何かをしようとしていて大変そうだと気づいたら、声をかけて抱っこしてあげてほしいのです。困っている方がいれば、当たり前に手を差し伸べられる場所でありたいので、そういう想いで働いてほしいと入職する前の面接の段階から熱く語っちゃっていますね。なので、今いるスタッフとはその想いが共有できていると感じています。見ている方向が同じなので、スタッフ全員がそれぞれにお子さんやそのご家族のために自主的に行動してくれています。感謝の声をいただくこともあり、想いが伝わっているのだと感じますし、信頼できるすてきな仲間と取り組めていることに感謝をしています。
つながりを大切にして、多様な子育てを受け入れていく
クリニックとしての今後の展望はどのようなことを考えていらっしゃいますか?
2025年9月に病児保育室を併設したクリニックをもう1つを開設する予定です。当院の病児保育室では多くのお子さんをお預かりしていますが、依頼してくださっても10%ほどは断ってしまっている現状があるんです。定員に達したという理由もありますし、安心安全にお預かりするために疾患や病状によっては保育士1人に対してお子さん1人しか保育できない状況もあります。ですが、もう1つ病児保育室をつくれば預かれなかったお子さんも保育することができますよね。
産後のお母さん方への支援も考えているそうですね。
今後はお母さん方の支援もしていきたいと考えており、産後ケア施設を併設したクリニックの開院も構想中です。産後のお母さん方は体や心そして環境の変化から産後うつにも陥りやすく、特に日本では妊産婦の自殺率も高くなっています。そんなお母さん方が安心して過ごせる環境を整えなければならないと思っています。そしていずれは、日本全体が子育てのしやすい社会になることをめざしています。
最後に、読んでいる方へメッセージをお願いします。
お子さんを育てている方たちには、「困った時にはいつでも頼ってくださいね」と伝えたいです。「人に迷惑をかけてはいけない」「親なんだから」そんなプレッシャーの中で、すべてを抱え込んで頑張っているご家庭を見かけます。困った時には頼っていいんです。それは迷惑ではなく、信頼関係が芽生えるということだと思います。人に頼っている姿を子どもたちが見て、困っている時は人に頼っていいんだとわかれば、とても生きやすくなると思うんです。子育ては多様性に富んでいます。いろいろな考え方、生き方、文化、働き方があります。これらが受け入れられる社会を、子どもたちに生まれてきて良かった、ここで育って良かったと思ってもらえる社会を一緒につくっていきましょう!