香山 虎哲 院長の独自取材記事
葛西ホームケアクリニック
(江戸川区/葛西駅)
最終更新日:2026/02/13
東京メトロ東西線・葛西駅から徒歩15分。静かな住宅街にたたずむ「葛西ホームケアクリニック」。院長の香山虎哲(こてつ)先生は複数の病院の整形外科で外来診療や手術などに携わった豊富な経験を持つ日本整形外科学会認定の整形外科専門医。香山先生が2021年に訪問診療に特化したクリニックを開院した理由は、高齢になり通院のための外出もままならなくなってしまった患者が、人として安心して豊かな生活が送れるようサポートし続けたいという思いがあったからだ。「大切なのは前向きになること。それだけで治療だけでなく生活の質も向上すると考えています。人間って不思議です」。患者のサポートを行うのが楽しいのだと爽やかな笑顔で教えてくれた香山先生に、訪問診療への想いを聞いた。
(取材日2026年1月15日)
「来てもらう」ではなく、「こちらから行く」医療を
医師をめざしたきっかけを教えてください。

最初に医学の道をめざしたのは幼稚園時代です。幼い頃から空手をやっていたんですが、骨折も含めてケガが本当に多くて。接骨院や整形外科に通ううちに「治療する仕事っていいな」と自然に思うようになりました。ずっとスポーツを続けるつもりでしたし、体に関わる仕事をしたいという気持ちもあり、中でも整形外科は、一番身近な存在でした。通っていた場所でもあり、自身にとっても親和性が高かった。だから、最初から整形外科医が目標だったと言えるかもしれません。大学時代は岩手で過ごしましたが、卒業後は、実家のある東京に戻り、東京女子医科大学の整形外科に入局しました。当時は研修医制度もなく、早い段階から手術にも関わらせてもらいました。ここでは本当に豊富な経験を積ませていただいたと思っています。
そこから、なぜ訪問診療という道を選ばれたのでしょう?
2008年に東京女子医科大学を退局し、ご縁があって、開業医の先輩のもとで外来診療とリハビリを担当するようになりました。外来だけをしていると、どうしても物足りなさを感じるようになったんです。大学病院で、それぞれの先生方はご自分の専門科を診ますよね? 循環器内科だったり精神科だったり。外来ならそれだけでも良いのですが、「そこだけしか診なくて良いのだろうか?」と考えてしまって。整形外科も運動器を診ますが、その背景には必ず生活があります。「この人はどんな家で、どんな毎日を送っているのか」それを見ずに診療していることに、違和感を覚えるようになりました。また、高齢の方の中には、痛みがあっても通院できない方がたくさんいます。「整形外科には来てもらえば診られる。でも、行ってくれる整形外科があってもいいんじゃないか」と思ったのが、訪問診療を始めたきっかけです。
現在は、ほぼ訪問診療が中心なのですね。

そうなんです。主に患者さんのご家族からご相談をいただいたり、近隣の病院から「退院された患者さんがいるのですが、診ていただけませんか」とご依頼を受けたり、ケアマネジャーさんからご紹介をいただいたりしています。診療は、医師、サポートを担う事務担当者、ドライバーの3人1組のチーム体制で行っています。新たに導入したポータブル型エックス線や、アプリと連動してタブレットですぐに確認できるエコーなどの機器を活用し、患者さんやご家族の「今、どうなっているのか知りたい」という思いに応えられるよう心がけています。特にポータブルエックス線の導入により、手術が必要な骨折であっても外出をためらう患者さんに状況を説明し、適切な治療につなげることができるようになりました。
訪問診療ならではの創意工夫でできることを
地域を見守るドクターとして先生ご自身の役割は、どのようにお考えですか?

かかりつけ医であり、コンシェルジュのような存在でありたいと考えています。訪問診療の現場では、整形外科だけを診ている患者さんはほとんどいません。また、糖尿病や心疾患、精神疾患など、どんな病気でも体を動かすことは大切です。そのため整形外科はさまざまな診療科とつながれる立場にあると感じています。これまでリハビリテーションの分野も学び、整形外科だけでなく、内科や精神科など幅広い領域の先生方と関わってきました。その中で、1人の医師としてできることは限られる一方、チームで関わることで、患者さんに提供できる医療はもっと広がると実感しました。だからこそ、必要なときにはそれぞれの分野を専門とする先生につなぐ役割も大切にしています。私からご紹介することもあれば、他科の先生方から患者さんをご紹介いただくことも。患者さんやご家族が、安心して治療を受け続けられるようにするための「つなぎ役」でありたいと思っています。
患者さんとの会話を大切にするためにアプリを開発されたと伺いました。
訪問診療では、患者さんがのれんをくぐって来てくれるのではなく、私たちのほうが患者さんのご自宅に伺います。病気だけでなく、その方の人生を診る医療なのだと感じています。お部屋の様子、生活環境、ご家族との関係、これまでの人生。それらすべてが治療に関わってくるわけですから、やはり「お話をする」ということが何よりも大切だと思うのです。例えば、ご本人が治療について把握できていない場合、必要のない薬までたくさん服用してしまうようなことがあり得ます。そうした無理のある医療にならないよう、症状や生活の様子を丁寧に伺いながら、対話を重ねています。そこで、少しでも効率化し、ヘルパーさんやご家族とも共有しながら投薬の管理や症状を簡単に共有できるように、アプリを作りました。まだ開始したばかりなので、この先どんな結果が出せるか、楽しみにしています。
患者さんに運動してもらえるよう工夫を凝らしていると伺いました。

最近、患者さんにボクシングを教え始めました。きっかけは私自身がボクシングを始めたこと。長く空手をやっていますし、できるんじゃないかと軽い気持ちで始めたら動けない(笑)。打ちのめされつつも、この動き、もしかしたら患者さんに運動してもらう際に使えるのでは、と考えました。そこでジムの会長に相談したら、実際に車いすの方にも教えていると伺って。本格的な動きではなく、上半身を動かすだけでも何かにも応用できそうだと取り入れてみると、とても有用だと感じました。皆さんやったことのない動きに目を輝かせてくださってうれしかったですね。負けず嫌いな患者さんに「まさかできないよね?」とあえてちょっと意地をくすぐるように声をかけると「やってみたい」と自然と前向きな表情になるんです。“できた”という体験は、本当に力になるんです。体だけでなく、気持ちも前向きになる。そこに大きなやりがいを感じています。
すべてをつなぐ「地域の医局」のような存在をめざして
訪問診療を始められた前後で、医師としての考え方は変わりましたか?

だいぶ変わりました。少し乱暴な言い方になりますが、大学病院にいた頃は、症状に対して薬を出して終わり、という感覚がどこかにあったように思います。薬を飲むことの難しさや、階段をはじめとしたご自宅での移動の難しさなど、暮らしの中に困難があることに気づくことがあります。そうした現実を目の当たりにして、「では、どうすればいいのか」と考えるようになりました。その方の暮らしに合わせて支える。今は、訪問診療はまさに“オーダーメイドの診療”だと感じています。
これからの目標をお教えください。
大学病院であれば、医局に戻れば他の診療科の先生がいて、すぐに相談したり、連携を取ったりできますよね。その“横のつながり”を、開業医が中心となる地域医療の中でも実現できる仕組みをつくりたいと考えています。リハビリテーションは、いくつもの診療科にまたがる分野です。例えば、口腔領域での嚥下訓練ともつながります。そうした分野も含め、今は周囲のさまざまな分野を専門とする先生方と協力しながら、地域に“医局”のようなネットワークをつくれたらいいなと思っています。
最後に地域の皆さんにメッセージをお願いします。

「こんなこと相談しても良いのかな」と悩まれる前にどんなことでも気軽にご相談いただければうれしいです。ご希望があれば患者さんのやる気にビシッと火をつけることもお任せください(笑)。皆さんと一緒に、住み慣れた場所で「気持ち良く暮らす」環境を整えるためのサポートをしていきたいと考えています。

