松田 聡介 院長の独自取材記事
青崎いぶきクリニック
(広島市南区/向洋駅)
最終更新日:2024/08/07

JR山陽本線・向洋駅から徒歩およそ8分の場所にある「青崎いぶきクリニック」は、松田聡介院長が2015年に「坪田内科」を引き継いで改名し、現在の場所に移設した。坪田内科は地元住民に親しまれ、松田院長も子どもの頃に通院していたなじみ深いクリニックだったという。松田院長は2005年広島大学医学部を卒業後、市民病院や大学病院での勤務を経て、2012年から坪田内科に勤務。2015年には同院を継承し、院長に就任した。専門的に学んだ家庭医療を自ら実践し、後継の医師の育成にも尽力する松田院長に、地域医療における家庭医療への思いを詳しく聞いた。
(取材日2024年7月11日)
町のかかりつけ医をめざし、家庭医療を専門に学ぶ
医師をめざしたきっかけから教えてください。

子どもの頃は体が弱く通院も多かったですし、入院の経験もありましたので、医療に対し抵抗感があまりなく育ちました。その頃通院していたのが坪田内科で、医師を志したのも院長の坪田元記先生の影響が大きかったですね。いつも優しい人柄で、困ったときにはいつでも相談に乗るといった雰囲気を患者側に持たせてくれていました。そのため、当初から坪田先生のような、町の開業医になろうという思いは強かったんです。医師になるときにもお世話になり、親身になってくださいました。私が開業しようと思った頃に後継を探されていたこともあり、これも何かのご縁だなと感じて、当院の院長を引き受けました。
初めから家庭医療を志されていたのですか?
もともと町の開業医になるのが希望でしたので、学生の頃から臓器別で専門を選ぶことに違和感がありました。臓器別のスペシャリストではなく、全般を見るジェネラリストになりたかったんです。いろんな科の先生に相談したところ、「専門性を持った上で、裾野を広げるのがよい」と多くの先生にアドバイスいただいたのですが、町の開業医レベルでは必要のないことでも、スキルを身につけるために労力と時間を割かなければいけないことに疑問を持っていました。その労力を、開業した時に必要となる皮膚科や整形外科、耳鼻咽喉科領域に費やしたかったんです。学べる場所が見つからないまま、初期研修の2年目の地域医療研修の時の研修先で、総合診療の一つである「家庭医療」という単語に出合いました。それからすぐに家庭医療を専門とする医師をめざすことに全力を注ぎました。
こちらのクリニックだからこそできる医療というのをお聞かせください。

当院では、地域にお住まいの子どもからご高齢の方まで診療しています。1歳のお子さんから、106歳の方まで診させていただいた日もありました。また、外来だけではなく、在宅医療も行っているというのが当院の強みです。例えば、在宅の患者さんのご家族に健康上の問題が生じた場合、外来も行っていますから、在宅の状況も含めた上で診療させていただくことができます。背景を理解した上で、ご家族の健康を診ますので、症状や治療によっては介護が難しくなるのではないかということも、医師から助言できるんです。緊急事態には、患者さんのケアマネジャーに連絡し、ショートステイの手配を急ぎでできるかといった相談をさせていただくこともありますね。外来診療と在宅医療、両方行っているからこそできることではないかと思っています。
地域に住まう患者と家族に寄り添う家庭医療を
「青崎いぶきクリニック」に改名した経緯を教えてください。

継承時に主治医も院名も変わってしまうと、患者さんが不安に感じるかなと思いましたので、しばらくはそのままの名前で継続していたんです。しかし、「坪田内科」であるのに院長は松田であることから、誤解が生じることもありました。そのような経験から、改名の際には院名に個人名を入れないことにこだわりましたね。クリニックの診療体制も医師1人ではなく、医師が複数いるグループクリニックにしていきたいと思っています。
移転された理由についても教えていただけますか?
坪田内科はビルの1階でしたので、建物の構造上バリアフリー化が難しく、新体制をかなえるためには院内が狭いことも難点に。地域を変えずに広いクリニックにするために、この場所でなら理想が十分に実現できそうだと見込みがつきましたので、引っ越すことができました。
患者さんと接する際に心がけていることはありますか?

クリニックはそもそも楽しくないところですから、診療中に1回は患者さんを笑わせたいと思っています。飲みたくない薬を飲まされたり、食事を制限するように言われたり。診療までの待ち時間も負担でしょうし、診察代や薬代も払わなければいけない。楽しくない場所だからこそ、楽しくなれることを考えておかないと、ますます楽しくない場所になってしまうのではないかなと思います。当院では、患者さんと信頼関係を築きながら、時には診察とは関係のない雑談を交え、笑っていただけるように心がけています。総合病院に勤めている時にはなかなか難しいことでしたが、こうして開業医になってからは、患者さんとの距離も近く感じますね。地域密着のクリニックだからこそ、共通言語も多くなります。住所を見れば、通院時に通られる道も想像がつきますし、常に話題が尽きないですね。
広い視野で地域や後継まで考えた体制づくりを行う
家庭医療とその他の科目の違いを教えてください。

家庭医療の特徴の一つに、地域を見る視点というのがあります。目の前の患者さんだけではなくて、患者さんの家族、暮らしている地域まで見るんですよ。「エンゲルの階層」に、ミクロの視点からマクロの視点までというのがあります。医療で言うと、ミクロは分子という小さい単位から始まり、マクロへと近づくにつれて、細胞、組織、臓器、個人、家族、地域、国、世界へとなります。それぞれの臓器を専門別に診ている医師は、分子から個人までの範囲を見るといわれています。それに対し、家庭医療を行う医師は組織、臓器から、家族や地域まで見ています。視点からもわかるように、家庭医療は地域での想定まで考えるわけです。特に当院では、広島の他の家庭医療のクリニックよりもより地域を限定していますので、深く掘り下げて見ることができていると自負しています。
家庭医療を広めるために若い医師を受け入れ、指導されていると伺いました。
はい。若い先生たちに家庭医療について知ってもらい、学んでもらうことで家庭医療に貢献できるだけではなく、大学などの教育機関と通じることによって、常に新しい人材や情報とつながることができますので、こちらとしてもメリットがあるんですよ。個人クリニックでは情報が遮断されがちですし、一人の医師による判断で偏ってしまうことのないよう意識しています。地域のことを思ったら、長年続けてきた医院を終わりにしてしまうのはもったいないですので、先のことを考え体制を整えていきたいと思っています。
今後どのように展開していく予定ですか?

患者さんと距離が近いことは診療において物事を伝えやすくなる、理解が深まるメリットがあります。しかし一方で、伝えたくないことまで伝わってしまうデメリットもあります。将来的には、地域の医療を支えていくためにも、3人の医師で診療する体制を整えたいと思っていますが、当院のように距離感が近いスタイルは、若い先生や地域に来て日の浅い先生には難しく感じてしまうかもしれません。アメリカ家庭医療の定義の1つに「その地域の住民であること」というのがあります。そのくらいでなければ、地域のことが理解できないということなんですよね。しかし、気をつけないと切り目がないくらい距離が近くなってしまうこともありますので、継続可能な医療を考えたときに、患者さんだけでなく、スタッフの負担も考慮しながら、ある程度のルールを守り診療していきたいと思っています。