小橋 嵩平 院長の独自取材記事
こはし内科・腎クリニック
(丸亀市/丸亀駅)
最終更新日:2025/09/29

JR予讃線丸亀駅より車で13分、院内からは讃岐富士が見える「こはし内科・腎クリニック」。小橋嵩平院長は患者との丁寧な対話を重視している。腎臓の状態が悪化し透析に進む患者は、気持ちの整理に時間を要することもあるため、「医療として正しい治療と、患者が望む治療が違う場合もある」と語る。だからこそ、納得の上で治療方法を選べるよう、焦らず丁寧に向き合うことを大切にしている。長時間透析、夜間透析、オンラインHDF、腹膜透析と複数の選択肢を用意した背景には、小橋院長の「患者のポジティブな選択を応援したい」という強い信念があった。
(取材日2025年7月31日)
高校3年の春、亡き父と同じ医師の道を歩むことを決意
腎臓内科の医師となられたきっかけは何でしょう?

父が腎臓内科の医師で、透析のできるクリニックを開いていました。子どもの頃から透析患者さんの患者会のイベントに同行するなど、医療や透析が身近な環境で育ちましたが、医師志望ではなく、将来は工学系の仕事ができたらいいなくらいに思っていました。その考えが大きく変わったのは、高校3年生の春。父が急逝し、喪失感の中で、「医師として生きる」という道がはっきりと見えたのです。腎臓内科を専門に選んだのも自然な流れでした。透析は週に3回ずっと通っていただくため、患者さんとの信頼関係が特に深くなります。疾患としてはつらいところですが、病気が治って関係が途切れるのではないところが他科とは違います。ただ病気を診るだけではない、人と人との関係性の中で医療を提供していけること。それがこの領域の大きな魅力だと感じています。
これまでのご経歴を教えてください。
県立中央病院で初期研修、腎臓内科で1年過ごした後、大阪の腎不全一貫治療をうたう専門病院に3年間勤務しました。同じ透析患者さんの診療でも、基幹病院は入院や手術がメイン。患者さんが継続的に通い、日々の困り事を解決する環境でも経験を積みたかったのです。その後は県内に戻り、2013年に長らく休院していた「こはし内科医院」を耳鼻咽喉科医師の妻と再開しました。当時、私は別の病院でも勤務していたのでメインは耳鼻咽喉科とし、内科の診療日は徐々に増やしていきました。ただ、透析施設がなかったので、腎不全が進んでも自分の所では解決できず、腎臓内科医として無力感も感じていました。「ここで透析を受けたい」という声も多く、腎疾患が進んでも自分が診たいという思いが強まり、2020年、隣に透析設備を備えた当院を開業。自分の理想とする医療のかたちに一歩近づけたと感じています。
医師として、印象に残る言葉はありますか?

昔、上司に「患者さんが自分の手を離れ、別の医師が診ることもあるだろう。その時に、恥ずかしくない治療をしなさい」と言われたことがあります。それ以来、常に新しい薬や治療法にアンテナを張り、日進月歩する世界に遅れないようにと気をつけています。医療は進化し続けていて、薬だけを見ても、10年前とは大きく変化しています。将来高齢になった自分が引退を決め、患者さんを別の医師に引き継いだときに、「なんでこんな治療をしていたのか?」と思われることは十分あり得ると思うんです。そうならないために、自分も学び続け、その時々の標準治療にアップデートし続けることが大切だと思っています。
長時間・夜間透析、オンラインHDF、腹膜透析に対応
透析患者さんは入り口が別にあるのですね。

クリニックの設計では、より良い透析、快適な透析のための環境を意識しました。透析専用の入り口と待合室を設けたことも特徴的です。免疫力が低下しやすい透析患者さんの感染対策のためでもありますが、ラフな服装で来院される方や治療を受けていることを知られたくないと感じる方もいます。専用の動線をつくることで、そうしたプライバシーや心理的な負担に配慮しています。院内はバリアフリーで、スペースにも余裕を持たせ、落ち着いて過ごせる雰囲気に。透析ベッドは患者さんの増加に合わせて増やし、現在は18床。透析室はテレビの他、Wi-Fiも整備。ベッドを起こすこともでき、スマートフォンやタブレット型端末を使ったり、仕事をされている方もいらっしゃいます。
こちらのクリニックの透析治療の特徴は?
オンラインHDFと長時間透析、夜間透析に対応しています。特に、長時間透析や夜遅くまで透析に対応できるクリニックは少なく、当院の強みです。一般的な透析は週3回・1回4時間程度。長時間透析は、1回あたり6時間〜8時間かけて行うもので、除水や老廃物の除去をゆっくり進められるため、透析の質の向上が期待できます。理にかなっているのに広がらないのは、ベッドの空き状況など施設側の事情と、患者さん側の考え方の問題でしょう。8時間だと1週間の7分の1を透析のために使うことになりますから、それを良しとするかどうかは患者さんごとに判断は分かれます。当院でも4時間の方が多いですが、患者さんが治療を強化したいと言われたときに選択肢として提供できることに意義があると思っています。夜間は活動量が多い方の透析希望が多いですが、終了時間が遅いため、長時間じっくり透析をしたり、遅くまで働く人の受け入れも可能です。
「オンラインHDF」とはどのようなものですか?

いわゆる一般的な血液透析(HD)は、体外に取り出した血液を透析装置で浄化し、再び体内に戻す治療法です。「オンラインHDF」は、その血液透析に加えて血液ろ過(HF)も同時に行う高度な治療法で、中分子や低分子量タンパク質など、通常の透析では除去が難しい老廃物を効率的に除去することをめざします。オンラインHDFを安全面に配慮し実施するには、超純水透析液を用いる必要があり、当院では厳格な水質・衛生管理体制のもと、透析液の浄化を行っています。さらに「腹膜透析」にも対応しています。これは患者さんの腹膜をフィルター代わりにして老廃物を除去する方法です。おなかにカテーテルを留置する必要がありますが、血圧への負担が少なく、在宅で行えるため通院頻度も月1〜2回と少なく済むのがメリットですが、腹膜が劣化すると使えなくなるため、いずれは別の治療法を検討する必要があります。
患者が勇気ある一歩を踏み出せるよう、丁寧にサポート
治療法はどのように決定されるのでしょうか?

患者さんとの相談ですね。腎不全になって今後どうするかという話になったとき、治療法を提示して、本人がどういう治療を望むか、生活に落とし込めるかということを考えます。「療法選択」と言いますが、大きく生活環境が変わるので、本人が納得する治療法を選ぶ必要があります。また、医学的に正しい治療と、患者さんが「やりたい」と思える治療が一致しない場面も少なくありません。だからこそ、患者さんとは十分に話し合います。「こういう治療もあるけど、どう思う?」と聞いたり、この薬や治療法は待ってほしいという希望があれば、どの程度猶予があるものなのかなども話します。特に、透析が必要となったとき、多くの方が気持ちの整理に時間を要します。なるべく自分から一歩踏み出そうと思ってもらいたいので、丁寧に向き合うようにしています。
腎臓以外のご相談も多いのでしょうか?
当院は丸亀市の端にあり、近隣の善通寺市、まんのう町、琴平町などからも患者さんがいらっしゃいます。主訴としては、風邪、発熱、腹痛といった一般内科の他、やはり腎臓が専門ということで、腎疾患や生活習慣病に関するご相談も多いです。健診で腎機能や尿検査の異常を指摘されて初めて来院される方も多く見られます。腎臓病は初期には自覚症状が出にくいため、検診の結果は大切にしてください。健診で何か異常を指摘されても、早い段階で受診すれば、生活習慣の見直しで改善できることも多いです。
読者へのメッセージをお願いします。

地域のクリニックとしては、腎臓の症状のあるなしに関わらず、誰もが安心して気軽に相談できる場でありたいです。透析施設としては患者さんのポジティブな選択を応援できる場所、解決策を提示できる場所でありたいと考えています。良い透析環境、快適な透析環境を得られるようにと努力していますし、なんとなくしんどいなどの不定愁訴も気軽にご相談ください。腎臓に不安がある場合、腎臓内科は数が限られていますので、まずご自身のかかりつけ医に相談していただくのもいいと思います。その上で「詳細を聞きたい」「もっと詳しい検査を」と思われたら、腎臓を専門とするクリニックに遠慮なく足を運んでいただきたいですね。