平良 薫 院長の独自取材記事
たいら内科・消化器内科クリニック
(大津市/瀬田駅)
最終更新日:2025/09/08

瀬田駅から車で約8分、高速道路からもアクセス良好な医療モールに「たいら内科・消化器内科クリニック」がある。2020年に開業し、汎用超音波画像診断装置を使用した、負担の少ない肝臓検査で地域の健康を支えている。院長の平良薫先生は、返還前の沖縄で風疹による障害がある子どもの多さを目の当たりにし、「治す医療」を志した。外科医として肝臓移植の分野で研鑽を積んできたが、50歳を機に予防医療へと舵を切った。「70代、80代になっても家族や友人と一緒にお酒を飲める内臓機能の維持が目標」と語る平良院長。患者に寄り添う独自の指導方針や、肝臓を起点とした総合的な健康管理の取り組みについて聞いた。
(取材日2025年7月23日)
先天性風疹症候群との出会いから医師への道へ
医師を志したきっかけから教えてください。

私は沖縄の出身で、ちょうど返還前の生まれなんです。当時は日本政府の予防接種の管轄下になく、沖縄では風疹が大流行して先天性風疹症候群の子が本当に多かったんです。中学では生徒会活動を通じて、障害者スポーツの交流をよくやっていました。点字も書けるくらい勉強しましたし、サポートもできます。でも、どうしても「治す」ことはできない。その限界を感じて、いつしか治療する側に回りたいと思うようになったんです。交流を通じて理解は深まっても、根本的に治すことができないもどかしさ。それが医師をめざす原動力になりました。
外科、特に肝臓移植を専門にされた理由は?
沖縄では米軍の軍人さんが臓器提供の意思表示をすることが身近にあって、学生時代から移植医療に興味を持っていました。日本の文化では脳死移植はなじまないだろうと考え、めざしたのが今でいうiPS細胞のような、自分の細胞で臓器をつくる移植です。当時の教授には「SF映画の見過ぎだ」と笑われましたけどね。東北大学には胆道閉鎖症の専門家がいらして、わざわざそこまで勉強しに行きました。外科医として各地で肝臓移植を中心に経験を積んできたのは、将来の医療に貢献したいという思いからでした。
なぜ開業という道を選ばれたのですか?

外科医の技術・知識・体力のピークは50歳というデータがあるんです。その後は体力が落ちて老眼も入ってくる。じゃあ自分はどこまで外科医として向き合うのか考えた時、他の方法で肝臓の病気に向き合えるんじゃないかと。もう一つは、治療だけでなく予防に力を入れたいという思いです。この場所を選んだのは、当院にある汎用超音波画像診断装置を広めるため。高速道路のアクセスが抜群にいいこの場所なら、東西南北どこからでも来院してもらえると思ったんです。
肝臓を起点とした新たな予防医療を
汎用超音波画像診断装置とはどのような検査機器なのでしょうか?

超音波検査の仲間で、肝臓の脂肪や硬さを皮膚の外から測定できる機器です。従来この情報を得るには、入院して麻酔をかけ、肝臓に針を刺す生検が必要でした。患者さんにとっては大きな負担ですよね。でも汎用超音波画像診断装置なら針を刺すことなく5分程度で測定でき、その場で数字が出ます。脂肪の多い少ない、肝臓の硬いやわらかいが数値でわかるんです。患者さんが生活改善した結果も数字で見える。つまり「頑張った分だけ良くなった」という実感にもつながります。逆に年末年始で食べ過ぎたら「先生、食べ方悪かったですね」と自分で気づくこともできます。エコーで「脂肪肝です」と言われるだけより、はるかに具体的でわかりやすいんです。
肝臓を通じて他の病気も見つかるそうですね。
肝臓は病気のフロントラインだと考えています。心臓は血を送る、肺は呼吸、腎臓はおしっこを出す。それぞれ自分の仕事しかしていません。でも、これらの臓器にエネルギーやタンパク質を与えているのは肝臓なんです。だから肝臓が傷むと血圧が上がり、糖尿病になりやすく、コレステロールも上がる。実は睡眠時無呼吸症候群とも関係が深くて、肝臓の数値が悪い人の中には睡眠時無呼吸症候群の人も多い傾向にあります。当院でもCPAP(シーパップ)を使った治療に対応しています。肝臓を通して、高血圧や糖尿病、睡眠時無呼吸症候群まで関連してきます。また、肝臓の脂肪肝が良くなると、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが下がるというデータもあるんですよ。
診療で心がけていることを教えてください。

基本的にストップをかけるような「飲むな、食べるな、痩せなさい」といった言い方はしません。患者さんは言われなくてもわかっているんです。ただ、なぜ必要なのか説明がされていないから取り組めない。だから40代、50代の方には「70代、80代になって家族や友人と一緒にお酒を飲める内臓機能の維持を目標にしましょう」と伝えます。今飲むなではなく、歳を取っても飲めるように今どうコントロールするかが大事です。当院では最初の1年は薬も出しておらず、まずは生活習慣のアドバイスから始めて、その人なりに変えられるところを探していきます。お酒もゼロにはせず、週末は飲んでもらって平日どこで休むか。おやつも全部ダメではなく、上がりやすい物だけやめる。かなり具体的に指導しています。
相談しやすい地域のかかりつけ医へ
訪問診療にも力を入れているそうですね。

はい。私は末期がんで自宅で最期を迎えたいという方の訪問診療をしています。患者さんに無理のない範囲で、病院ではできないことが、お家ならできることがあります。例えば、亡くなる前に家族みんなで食卓を囲んだり。私はがんに長く関わってきたので、その経験を生かして、できるだけ苦痛は減らすサポートをして、なるべく家族の時間が取れるようにしています。離島診療の経験もありますから、ご自宅で最期を迎えたい人のサポートに回ることが、私には合っているのかなと思っています。
健診で異常がなくても注意が必要な場合があるとか。
健康診断で肝機能正常と言われた人の半分が、測定するとすでに脂肪肝ということがあります。肝臓は沈黙の臓器といわれますが、採血で異常が出る時はある程度進んでからで、最初の頃は隠れてでてこないんです。そのため早期発見が大切です。肝臓が悪い方に意外と多く見られるのが皮膚のかゆみです。肝臓は解毒が仕事ですから、うまくいかないと血液中にゴミが流れてそれがかゆみの原因になる。下痢も要注意で、脂肪肝の人は肝臓から便に脂肪をくみ出しているので便が緩くなりやすいです。例えるなら、こってりしたラーメンを食べた翌日に下痢をするのと同じ原理になります。
最後に読者へメッセージをお願いします。

「相談しやすい医師」でありたいと思っています。他院で採血した結果を「これはどうでしょうか?」と持って来られる方もよくいます。そんな場合でも私は、生活スタイルのアドバイスをさせていただきます。当院で検査を受けている受けていないは問いません。「来たもの拒まず」の精神で、フロントラインのアドバイスをさせていただきます。当院で検査したい方はもちろん検査しますし、かかりつけ医がある方はそこで定期的に受けて、肝臓に対して心配や相談事があればいつでも来てください。30代から50代の、まだ病気になる一歩手前の人たちが今後ならないようにする、それが私の一番の役割だと思っています。