宗光 俊博 院長の独自取材記事
むねみつホームメディカルクリニック
(高槻市/高槻駅)
最終更新日:2025/05/16

JR京都線・高槻駅から徒歩10分の住宅街に位置する「むねみつホームメディカルクリニック」。建物の3階が訪問診療に特化したクリニックだ。宗光俊博院長は大阪医科大学出身で、日本脳神経外科学会脳神経外科専門医の資格を持つ。2020年に開業し、現在は訪問診療、訪問看護、ケアプランセンターの3部門を展開。「脳卒中や神経難病の患者さんが在宅で長く暮らせるように」という思いから始まった訪問診療は、患者だけでなく介護者もケアする視点で総合的なアプローチを心がけている。超高齢社会において増加する認知症や神経疾患患者の「家に帰れない」状況をなくしたいという強い信念とチーム医療への深い理解を持つ宗光院長に話を聞いた。
(取材日2025年4月16日)
脳神経疾患に特化した訪問診療で患者の生活を支える
脳神経系に特化した訪問診療を始められたきっかけをお聞かせください。

脳神経外科医として病院で勤務していた時、急性期の治療を終えた脳卒中の患者さんがリハビリテーション後も、自宅に帰れないという状況を目にしていました。「なぜ家に帰れないのか」を考えると、脳卒中など脳神経系の患者さんを専門に診ることのできる医師が少ないからなんですね。ケアマネジャーからも脳疾患の患者さんを自宅で見ることは難しいと言われることが多かったんです。実は私の父も同じ高槻市内で脳外科医として開業していまして。いずれ父の後を継ぐ思いもありました。しかしながら、外来メインの診療所では、脳神経系の患者さんを家に帰してあげるのは難しい。そこで、訪問診療をメインとする当クリニックを立ち上げることにしたのです。
具体的にはどのような患者さんを診療しているのですか?
当初はがん患者さんの訪問依頼が多かったのですが、当院の特徴が地域に知れ渡ると、脳卒中や神経難病、認知症の患者さんの御紹介が非常に増えました。特にALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんが多く、人工呼吸器をつけて在宅療養されている方もいらっしゃいます。年齢層は幅広く、10代後半から100歳超まで診療しています。主に受診されるのは80歳以上が多いですね。訪問範囲は高槻市・島本町・茨木市の全域、摂津市の一部地域で、車で片道30分圏内をカバーしています。
クリニックの規模や診療体制の特徴は?

2020年に訪問診療クリニックと訪問看護ステーションを同時開設し、翌年にはケアプランセンターを立ち上げました。医師は脳外科医2人と神経内科医1人の3人体制で、訪問診療に付き添う看護師が5人、別部門で訪問看護の看護師が6人、さらにリハビリテーションスタッフも理学療法士と作業療法士、言語聴覚士を合わせて6人います。ケアマネジャーも2人体制で、部門ごとへの同時依頼にも対応できるようにしています。また、私たちのクリニックは「機能強化型在宅療養支援診療所」でもあります。これは年間の重症患者数や看取り件数など、一定の基準を満たしている診療所をいいます。島本町の水無瀬病院と提携して患者さんの受け入れ体制を整えています。
在宅でできるだけ長く快適に生活できるように
訪問診療の際に意識されていることは何ですか?

患者さんだけでなく、その家族も含めて「全員を診る」スタンスで診療しています。患者さんが主人公であることは間違いないのですが、介護されている方の不安や苦労も理解し、時には介護者の体調も気にかけています。中には夫婦で介護をし合う「老老介護」のケースもあるため、夫婦そろって診療させていただく機会もあります。介護者が転倒して入院したら患者さんだけでは生活できません。一時的に連携病院に入院してもらい、介護者が戻ってこられたら再度在宅診療に戻すという調整もしています。
24時間体制で対応されているそうですね。
訪問診療を始める際、まず私の携帯電話番号を緊急連絡先として患者さんやご家族にお伝えしています。24時間いつでも連絡できるようになっているので、「熱が出た」「こういう症状があるけどどうしたらいいか」などリアルタイムで質問に答えることができます。実際に電話がかかってきて往診に行くのは、10件中1~2件ほど。8割くらいは「この状態なら救急車を呼んだほうがいい」「このお薬で様子を見てください」など、電話でのアドバイスだけで対応できるケースが多いですね。私は前職で7年間、脳卒中の患者さんのいる病棟で24時間体制で対応していたので、夜間の電話応対や往診に行くことはあまり苦になりません。患者さんから「いつでも相談できる窓口があって安心」と思っていただけるとうれしいです。
初めて訪問診療を利用する場合の流れを教えてください。

まず当クリニックの地域連携室に電話していただくと、専任の担当者が受付をします。患者さんの情報をヒアリングさせていただき、現在通われているクリニックや病院からの紹介状があればご持参いただいています。ただ、長いお付き合いのある先生に言いづらいという方も中にはいらっしゃいますので、紹介状は必須ではありません。その場合は当院からかかりつけの先生へ情報提供の依頼をすることもできます。まずは問い合わせをしていただき、訪問診療が可能かどうか判断して、可能であれば初回訪問の日程調整をします。訪問診療というシステム自体を知らない方がまだまだ多いんです。「もっと早くこのシステムを知っていれば、自宅に帰せたのに」と言われる方もいます。訪問診療の啓発活動も私たちの大事な役割だと感じています。
多職種での協力体制が鍵。今後の地域医療の展望
スタッフの教育やスキルアップはどのようにされていますか?

訪問診療に同行する看護師に求められるスキルは、バイタルを測ったり採血したりといった基本的なものがほとんどなので、看護師の経験があれば十分対応できます。むしろ大切なのは、病院とは違う在宅の現場で、患者さんがどのように過ごしているのかを理解し、どうアプローチするかを学ぶことです。医師と看護師全員で定期的にミーティングを行い、情報共有をしています。「この患者さんにはどういうサービスが適しているか」「どうしたら助かるか」など話し合いながら、医療的な知識だけでなく、さまざまな制度やサービス、補助金についても一緒に学んでいきます。スタッフは20代から40代と比較的若い世代が中心です。結婚や出産などのライフイベントに備え、産休・育休制度も整えており、スタッフが長く働き続けられる環境づくりを心がけています。
現在地域医療に携わる中で、課題と感じることは?
最近特に増えているのが独居の方です。認知症が進行して生活が困難になり、地域住民から通報があって私たちが訪問するケースもあります。社会的に孤立している患者さんを、医療者だけでなく行政とも連携しながらサポートしていく体制づくりが今後の課題だと感じています。また、在宅で人工呼吸器などの高度な医療を提供できるのを知らない方も多いです。特にALSの患者さんなど神経難病の方は、専門的な管理が必要ですが、私たちのような脳疾患を専門とする医師が在宅医療を行っているところはまだまだ少ないのが現状です。
最後に今後の展望をお聞かせください。

地域医療は医師一人では何もできません。クリニック、病院、訪問看護師、リハビリスタッフ、ケアマネジャー、介護士、福祉事業者など、さまざまな職種が連携して初めて成り立つものです。その連携を今後さらに強化していきたいと考えています。私の目標は、神経系の疾患を持つ患者さんが、この地域で「家に帰れない」という状況をなくすことです。今後も医師やスタッフを増やして、より多くの患者さんを受け入れられるクリニックにできるよう診療を続けていきます。