蛯名 勝之 院長の独自取材記事
エビナ歯科医院
(新宿区/西早稲田駅)
最終更新日:2024/02/19

新宿からほど近い西早稲田は閑静な住宅地。大通りから中へ入ると、学生寮もあり、多くの人が生活の拠点としているエリアだ。そういった昔ながらの趣のある住宅街の中に「エビナ歯科医院」はある。初代が産婦人科として開業したのは大正時代。初代は産婦人科、2代目は内科、そして現在は3代目である蛯名勝之院長が歯科医院として受け継いでいる。専門とする診療科は変わっても、町のかかりつけ医として、この町の人たちの健康を支えるというスタンスは、創業当初から変わらない。2代、3代、時には4代にわたって通ってくれる患者もいる。「祖父の代にここで生まれた方が、入れ歯を作りにいらっしゃったりするんですよ」と笑顔で話す院長に、同院の歴史や今現在の診療の内容について話を聞いた。
(取材日2021年12月16日/再取材日2023年12月5日)
産婦人科、内科、歯科。3代続く“エビナの医療”
開業されたのはいつ頃でしょうか。

歯科医院として開業したのは1998年のことです。ただ、僕は医療一家の3代目で、診療所自体は祖父が産婦人科の医院を開業した大正時代からここにありました。100年もの間、この地は診療所のある場所としてなじんでいます。産婦人科、内科、そして歯科と、それぞれ異なる専門を持っていましたが、院名の「エビナ」というカタカナ表記は、祖父の時代から変わりません。名字の「蛯名」はちょっと難しい漢字なので、どなたにもわかりやすいように祖父が考えたと聞いています。地域に根差した医療を提供する立場として、わが祖父ながら、なかなか良い配慮だったと思っています。
地域の人たちのランドマーク的な場所だそうですね。
2代、3代、時には4代にわたって通ってくれる患者さんがいます。昔と変わらず、ご近所さんが歩いて来てくださる。そしてそのお子さん、お孫さんと代々のご縁がつながっていくのはうれしいですね。なかには勤務医時代の患者さんもいらっしゃいます。当時、大がかりな手術が必要な方がいらっしゃったのですが、悪いものは取らなければ予後に関わるが、その方のお顔に傷はつけたくない。悩みに悩んで口内からアプローチを行いました。その後、僕が大学病院を辞めてからも20年以上、いまだに慕って当院へ通院してくださいます。本当に感慨深いですね。
診察室のレイアウトも工夫されていますね。

普通の歯科医院とは違って、入り口すぐのところに僕の机があります。出入りの時は必ずこの前を通っていただくことになりますから、「今日はなんだか元気がないな」と思えば、まずお声をかけますし、帰りには「今日はこういう治療をしました」とお話しして次回の予約を入れるようにしています。ユニットに座っていると、どうしても緊張するし、歯科医師のほうが偉そうな感じになってしまうでしょう? ほんの数分なんですが、雑談を交わして「お大事に、お疲れさま」で終わるようにしています。治療は患者さんと一緒に力を合わせて進めていくもの。同じ目的に向かう同士として、顔を合わせてコミュニケーションを取ることは、とても大事ですね。
予防歯科の大切さと意識改革を国レベルで推進
口内だけでなく、全身を支える歯科医師をめざしているのですね。

高齢社会に伴い、自病をお持ちの方が多くいらっしゃるようになっています。そのようなときに、病状を把握した上で診てもらえれば患者さんも安心ですよね。しかし、実践できている人はまだまだ少ないかもしれません。僕もまだ完璧とは言いきれませんが、歯科分野以外の勉強会や講習会にも参加することで、いろいろな病気の知識を蓄え、困っている方のお役に立ちたいと思っています。口内だけでなく、全身の健康あってこそです。
日本歯科医師会でも活動されているそうですね。
これまで新宿区歯科医師会の仕事にも携わってきましたが、現在は日本歯科医師会の仕事にも関わっています。今までは新宿区の歯科医療の向上や普及のために動いていましたが、今は日本の歯科医療の未来について奔走中です。社会の中で歯科医師はどう求められているのか? 国民の皆さんが口内の健康に興味を持ってくれるにはどうしたら? など、具体的な方策を考えて厚生労働省にアプローチしたり、各都道府県の担当者へフィードバックを行います。例えば無料歯科検診、小児のフッ素、妊産婦歯科検診など、どのような方法でやっていくのがベストなのかを各地域に示していきます。地域のかかりつけ医と国の仕事、相反するように見えますが、「自分の地元のために」という思いは一緒です。
子どもも高齢者も予防が大事ということですね。

はい。昔は「予防」は医療の中でも重きを置かれていませんでしたが、最近は国も予防医療を重視するようになり、加えて各自治体の歯科医師会が積極的に関わることで、多くの方が予防歯科を受けられるようになってきました。口の機能を衰えさせないように、少しでも自分の歯を残せるように、虫歯や病気のない健康な状態を長く保てるように努めています。少しでも気になるところがあれば、ぜひおいでください。1ヵ月か2ヵ月に1回、理容院や美容院に行くように、小さなうちから定期的に歯科医院に通っていただきたいですね。痛みが出る前に対処が可能になれば、患者さんもつらい思いをせずに済むかと思います。
時代に合わせた人材育成、環境づくりをめざして
良い距離感と働きやすさを大切にされているそうですね。

初代から続く“エビナの医療”は、人間味のある温かいものです。歴代の良いところを残しながら、僕なりのスタイルを取り入れています。うちの祖先は北海道で漁師の網元であり、そのこともあってか親分気質があるのかもしれません(笑)。一族は今でも仲が良く、事あるごとに集まっています。そんな人とのつながりを大事に思う人たちの中で育ちましたから、人一倍、縁というものを大事に考えるようになりました。患者さんもスタッフも僕の大事な家族のように思っています。患者さんには壁をつくらず近い距離感で自然に声をかけたり、雑談を交えたり。スタッフには有休は取れているかなとか、自分の時間は持てているかなとか、働きやすい環境づくりを念頭に接しています。「自分がされて嫌なことはしないように心がけて」とだけ伝え、お互いに信頼しているからこそ、余計なことは言わず、職場では程良い距離感を大切にしています。信頼してるからこそですね。
お忙しい毎日と思いますが、リフレッシュ方法を教えてください。
歯科医院の待合室にある水槽は僕の趣味です。もともと生き物が好きで、自宅には3匹の猫がいますが、診療所にも生命感のある大きな水槽を置いています。小さなお子さんも飽きずに眺めていられますし、お年を召した方は懐かしい田舎の川を思い出されるようで、そこから話が弾むこともあります。水槽の中の魚は、全部僕が里山で釣ってきた魚なんですよ。残念ながら忙しくてなかなか釣りには行けなくなってしまいましたが、その代わりに今は仕事が終わってからウォーキングに出かけています。ここから神田川へ出て、そこから江戸川橋まで足を延ばし、また自宅まで戻る5キロくらいを歩いています。忙し過ぎて体調が優れない頃に比べ、健康になりました。
最後に読者にメッセージをお願いします。

スタッフや歯科医師を志す学生には、臆することなくいろいろな経験をしなさい、そして自分にされて嫌なことは他人にしない、と話しています。たくさんのことを経験すればするほど、さまざまな価値観や状況を理解できるようになり人の心は豊かに成長します。心が豊かになると受け入れられるものも増えます。僕は医療人として、心の許容量が何よりも大事だと考えています。大学で学生を教えていると、そのフレッシュな感性からいい刺激をもらえるんですよ。若い人たちに負けないように自分もまだまだ頑張らなくてはいけません。これからも地域の皆さんの良きサポーターとして健康をお支えできるよう、力を尽くしていきたいと思っています。