長谷川 久美 院長の独自取材記事
薬王寺在宅クリニック
(古賀市/古賀駅)
最終更新日:2026/01/08
「自分が住んでいるこの土地で、長年培った訪問診療の経験を生かしたい」。そんな長谷川久美院長の想いのもと、「薬王寺在宅クリニック」は2019年に古賀市で開院した。病院ではなく、自宅での療養を希望する患者や家族が増えている中、長谷川院長は在宅医療に関する相談をはじめ、患者の苦痛や不安を取り除くことにも努め、最後までしっかりと寄り添える医療の提供に邁進している。10年に及ぶ一般企業勤務を経て、医師への夢を実現すべく32歳で医学部に入学した経歴を持つ長谷川院長。卒業後は総合病院の病棟で入院患者を診ながら、外来、救急、健診、訪問診療など幅広く経験を積み、58歳で開院を決意したというバイタリティーあふれる医師だ。そのパワーの源や、24時間365日対応の在宅医療にかける情熱にふれてきた。
(取材日2021年9月6日)
一般企業勤務を経て夢を実現すべく32歳で医科大学へ
開院にあたり古民家をリフォームされたとお聞きしました。

ええ、こぢんまりとしたクリニックにしたいと思っていたので、空き家だったお宅をお借りして診療できるようにリフォームしました。自宅もこのすぐ近くなんです。実家は福岡の宗像市にあるのですが、父が転勤族だったので生まれたのは広島、その後も各地を転々としましてね。実は18歳の時に上京し、東京農工大学の農学部林学科に進学したんですよ。卒業後は東京で山に道を造ったりダムを造ったりするための測量をする一般企業に入社。しかも女性の採用は初という。そこで10年勤務し、その間に結婚も。そして32歳の時に宮崎医科大学(現・宮崎大学)へ進学しました。
就職、ご結婚もされた後に医師をめざそうと思われた理由は何だったのでしょう。
就職に関しては私の考えが甘く、仕事は好きだったのですが男性社会の中に女性1人で飛び込んだものですから、さまざまなあつれきもあったんですよね。山に一定期間寝泊まりして測量をするので、男女2人だけというわけにはいきませんから、3人以上で行かなくてはならず。その分人件費もかかりますので、山に行く回数がどうしても少なくなるという。そういった日々を過ごすうちに、自分の中で行き詰まってしまったんですね。そんな時に、医師の夢を諦めた高校の頃を思い出して。「私はこのままでいいのだろうか」と、これから先の人生について考えました。その結果、「やっぱり医師に挑戦したい」という思いに至ったんです。そこからは働きながら勉強の日々。そして決意してから4年後の32歳で医科大学に受かりました。
ついに夢をかなえられたわけですね。大学生活はいかがでしたか?

まず、他の学生と10歳以上離れていますし、皆とは記憶力や理解力も段違いなわけですよ(笑)。必死についていく感じでした。いつもギリギリの成績で、東京にいる夫に電話で泣き言を聞いてもらったことも数知れず。ですので、留年せず6年で卒業できたことが奇跡でした。今思えば社会経験も決して無駄ではなく、皆に助けてもらいながらやっと医学部に入り、年の離れた友人もたくさんできたことはかけがえのない財産だなって。38歳で卒業し、東京の総合病院に入局しましたので、医師としてのスタートが遅かった分、外来、救急、健診、訪問診療と、がむしゃらにこなしました。研修を一通り終えると専門性を極める先生が多いんですね。しかし、私は幅広く診ることができる医師をめざし、引き続きさまざまな患者さんを診させてもらっていました。そして、週1回の訪問診療の経験も積ませていただく中、徐々に興味が在宅医療へと傾いていったんです。
高度な治療を望まない限り在宅でも多くのことが可能
在宅医療に気持ちが傾いたのは何かきっかけがあったのですか?

入院中に診ていた患者さんが退院し、ご自宅へ訪問診療に行くと、こんな表情をされるんだとびっくりするくらいリラックスされていて。病院ではストレスを感じたり、緊張されたりしていたんでしょうね。その違いを目の当たりにして、在宅医療もやりがいがあるなと感じたのがきっかけでした。結局東京では10年近く経験を積んだ後、私の両親がいる福岡へ夫と一緒に帰り、知り合いの先生がおられる博多区の総合病院に勤務させていただくことに。最初に在宅医療希望であることをお伝えしたところ、在宅専任でということになりましてね。そこからはずっと在宅医療に携わり、2019年に開院の運びとなりました。
どのような想いで開業されたのですか?
ここは、夏は川で蛍が見られる自然に囲まれたすてきな環境で、最初は自分がここで開院するなんて夢にも思っていませんでした。ですが、総合病院や、その後お世話になったクリニックでも訪問診療をさせていただくうちに、最終的には私が理想とする以上の患者数になっていたんですね。もちろん多くの方への医療提供は大事なことです。しかし、私個人としては一人ひとりをしっかり診ていきたいという想いが強かったものですから、それならば自分でやるしかないと。それが58歳の時でした。一からのスタートで本当に大変でしたが、スローペースで訪問診療と予約制の外来も行う中、徐々に医療センターから末期がんの方の相談も増えていきました。
在宅医療についてはご本人よりもご家族の方が情報を必要とされているのでは?

そうなんです。この辺りも高齢化が進んでいますので求められる分野ではあるものの、実際にどのように進めていけば良いのかご存じない方もたくさんおられるんですね。訪問診療の開始は施設や病院からの依頼、そしてご本人やご家族からのご相談。主にこの2つなんです。事前に一度面談をしてご意向を確認し、診療の方向性を決めるのが基本ですが、患者さんによって状況はさまざまですので、まずはお電話でご相談ください。どんな状態であっても高度な治療を望まれない限り、ご自宅でできることはたくさんあります。そのことを多くの方に知っていただきたいですね。
患者の希望に沿ったオーダーメイドの在宅医療の提供を
想像していた以上にできることがあると思われる方も多いかもしれませんね。

ええ、ご自宅でも点滴、在宅酸素、人工呼吸、中心静脈栄養、胃ろう、各種カテーテル、人工肛門の管理、褥瘡処置、外科的処置などができますし、薬は薬局に配達をお願いすることも可能で、必要な場合は24時間365日対応しています。在宅医療は医師だけではなく、訪問介護、ケアマネジャー、薬局などチームで行っていくのが大きな特徴。地域との連携をしっかり取って行うということをお伝えするとご安心いただけるものです。患者さんによって病状や、それまでの人生もさまざまですから、お一人お一人のお気持ちに沿ったオーダーメイドの医療を提供させていただくのが私の役割です。
誰もが人生の最終地点に向かうにあたり、日頃から行っておくと良いと思われることはありますか?
ご家族や大切な方とたくさん会話すること。何げない会話の中にもその方の希望する生き方が反映されていると思うんですね。元気な時に積極的な治療を望むか望まないかだけでも話しておくと、実際に向き合わなければならなくなった時に、ご家族の気持ちの揺れも少なくて済むと思います。私は白衣も着ませんし、医者っぽくもないので、近隣の方たちもご近所さん感覚でいろんなことを話してくださるんですよ。医療と関係ない話であっても気づきをもらうことが多く、その距離感は診療においても心がけ、世間話も積極的にするようにしています。実はそれが私自身のパワーの源にもなっているんですよね。正直、お看取りをするとやはり気持ちが沈みます。でも、患者さんの顔を見てお話しするとまた持ち直すことができるんですよ。逆に患者さんにとっても私がそんな存在になれたらうれしいですね。
では、最後に現在の診療体制、そしてめざす医師の姿についてお聞かせください。

スタッフ体制については、これ以上の方はいないと思うほど頼れる看護師が1人。あと経理は夫が担当、またその他の専門的な知識が必要となる事務処理についても知り合いに協力してもらいながら、私の理想とする一人ひとりの患者さんにしっかりと寄り添える医療をお届けしています。そして、近隣の方の中には風邪、外傷、喘息、めまいなどの症状を訴えて来られる方も。縫合など大がかりなことはできませんが、可能な範囲で外来にも対応しています。地域に密着し、「最後は先生に看取ってもらいたい」と言ってもらえるような医師になるのがめざすところなので、今後も規模は大きくせず、できる限りお気持ちに寄り添った医療の提供ができたらと思っています。

