松岡 優 院長の独自取材記事
末広ひなたクリニック
(徳島市/阿波富田駅)
最終更新日:2024/06/19

「赤ちゃんの首の据わりが遅い気がする」「言葉がなかなか出ない」「もう長い間学校に行けていない」など、子どもの発達や精神に関する心配事はどこに相談すればいいのか。「末広ひなたクリニック」は、そんな悩みを持つ親子を優しく迎えてくれる場所だ。院長は、「一番気にしているのは、来てくれた患者さんが満足して帰ってくれるかどうか」と語る松岡優先生。その思いは、診療はもちろん、内装や設備からなど、院内全体で感じることができる。松岡院長に、医療にかける思いを聞いた。
(取材日2024年3月13日)
咳や発熱から子どもの発達診断、療育まで幅広く対応
急性期医療から子どもの発達検査や療育まで、幅広く診療・サポートされているのですね。

診療内容としては、小児科・内科・アレルギー科・リハビリテーション科・脳神経外科に対応しており、発達障害・循環器・低身長・起立性調節障害などについては専門の外来を設けています。院内は、1階が診察室や待合室で、2・3階がスタッフの休憩所やリハビリルーム、個別支援で活用する個室、病児・病後保育などの施設です。専門分野の違う小児科医が6人と、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、臨床心理士などのスタッフが合わせて60人ほど在籍しており、発熱や咳、感染症などの急性期や予防接種などに加え、健診や低身長治療、首がなかなか据わらない、言葉が遅いといった子どもの発育の診断と療育、手足のまひや硬直、動きの制限などに対してのリハビリまで、広く対応しています。
徳島大学や市民病院での勤務を経て2013年に開院されたわけですが、開院のきっかけを教えてください。
一つは機関病院を定年退職した医師の経験や専門技術を生かせる場をつくりたかったからです。もう一つは、子どもの熱や咳などの急性期医療に対応した医療機関は多いけれども、「朝起きれない」「学校に行けていない」「産後4~5ヵ月たつのに首の据わりが悪い」といった悩みに対する受け皿となれるようなクリニックが少なかったことです。例えば、子どもが長く学校に行っていないという場合、親御さんもそう再々会社を休みにくい。その結果、月1回、心療内科で診てもらい薬をもらうのみのケースがほとんどでした。しかし、それでは不十分と思えて。もっと患者さんに寄り添えるような体制を整えたいと思い、臨床心理士などの各分野の専門家がいて、複合的な対応ができるクリニックをつくりました。
診療体制はどのようなものになっているのでしょう。

発熱や咳、感染症といった急性期症状での受診は常にかなりのウエートを占めているので、1人のドクターはそちらに対応しつつ、もう1人は成長・発達・発育診断や療育などの相談を幅広く受けるという体制を取っています。特に成長や発達については生活において一番困っていることが何か、親御さんのお話をしっかりとお聞きするために、お一人お一人に時間をかけることが可能な体制をとっていることも当院の特徴の一つです。循環器・内分泌などを専門とする外来については、それを専門とする先生の診療に合わせて予約制とさせてもらっています。6人の医師それぞれの専門分野を生かしながら、交代制でしっかり休みも確保しつつ診療にあたれているのは、当院の強みかなと思います。
患者一人ひとりにかける時間は、何があっても省けない
子どもの療育やリハビリは、どんなふうに診断・治療が進むのですか?

まずは診させてもらって、その子にどんな訓練やリハビリが必要かを判断します。例えば、2歳ぐらいでまだ、「あー」とか「うー」とかしか言えないなら、言語聴覚士さんが関わるよりも、まずは作業療法士さんによる感覚統合療法を受けてもらうといった具合ですね。半年ぐらい感覚統合療法を受けてもらって、3歳から言語聴覚士さんにも入ってもらうとか、その子の状態や困っていることに合わせてメニューを組んでいきます。1対1での対応が必要なら、作業療法士さんや理学療法士さんが1対1で療育指導を行いますが、目標や状態によっては、集団での療育のほうが適している場合もあります。そんな時は、同法人の児童発達支援を専門とする「しろくま」や「アルパカ」などの集団療育施設を紹介しています。
患者さんを診る上で、先生が一番大切にされていることを教えてください。
気にしているのは、来てくれた患者さんが満足して帰ってくれるかどうかです。患者さんの待ち時間が長いと、特に1時間を超えていると気になって、焦るんですが、一方で患者さんにかける時間を省くことはできません。僕らは毎日多くの患者さんを診ますが、患者さんにとってはその時だけ。「1週間後に来てください」となると、その時には問題が違ってくるので、来てくれた時に適切なアドバイスができなければ駄目でしょう。事件が起きた時、よく「なぜこの子が事件を起こしたかわからない」というのを聞きますが、僕はそれは、ちゃんとその子を見ていなかった裏返しだと思います。それはもちろん僕自身にも言えて、僕が診ていた患者さんに何かあったら、僕は何を見ていたんだと思うんですね。そんなことはできるだけなくしたいので、一回一回の診療を大切にしています。
「患者さんをしっかり見る」ことは、クリニック全体としてもとても大事にされていますね。

ええ。例えば、同じ発熱の患者さんでも、生後3ヵ月の子と3歳の子では意味合いが違います。咳でも、いつからなのか、朝に多いのか夜に多いのかで対応が変わってくるので、スタッフにはそういう患者さんの状態をしっかり見て、聞いて、状態に応じた対処をしてほしいと思っています。ただこれを、急性期の患者さんと学校に行けないといった発達や精神の患者さんの両方に行うのは、「頭を切り替えるのが本当に難しい」と感じる人が多いようで。だから将来的には、それぞれの専門看護師を配置するという体制にできればと思っています。また、患者さんの状態を見抜くには、経験はもちろんですが、土台として人を深く見るセンスとでもいうべきものがとても大切です。スタッフにはそういう力をつけていってもらえればと思っています。
総合的な診療を行う医師として患者に寄り添う
子どもだけでなく、大人を診るのもこちらのクリニックの特徴でしょうか。

そうですね。英国は、ファミリードクターという制度があります。患者さんの年齢や症状に関係なく、まずはファミリードクターと呼ばれる総合的な診療を行うかかりつけ医が診て、必要ならそこから小児科や耳鼻咽喉科、眼科などに紹介するというものなんです。僕はそういう総合的な診療を行う医師として日々診療にあたっています。まず診察させてもらって、自分の手に負えないケースやより専門的な医療や検査が必要なケースは、専門の先生を紹介したり、受診のアドバイスをしたりします。高血圧や高脂血症や糖尿病があってさらに心臓病もあるといった患者さんは結構多いですから、総合的に診ることが大切です。大人も子どもも人体の機能や構造は同じなので、大人も診ることで学べることはたくさんありますし、そうして学ぶことで、子どもの診療にも貢献できるんです。
地域の中でこういう存在でありたいというものはありますか?
徳島市は中心地ということもあり、すでに地域医療は完結できるようになっていると思います。感染症がはやれば感染症の患者さんを全員受け入れる。また発熱者専用の外来を設けるということもやります。すべてが地域の役に立っていると思うのですが、「地域医療に貢献するために」という上段にかまえた考えはなく、自然体でやっています。徳島市は、学校保健や各種検査、予防接種などの体制も整っていますから、僕たちは自分たちがやるべきことをしっかりやる、その結果として地域貢献がついてくるのだと思います。
最後に、今後力を入れていきたいことについてと、地域の方々へ一言メッセージをお願いします。

力を入れていきたいのは、神経・精神・発達のことです。この分野は例えば、「落ち着きがなく、じっとしていられないから注意欠如・多動症(ADHD)ですね」と言っても、その原因はわからない状態。体の病気でいうなら、「嘔吐や下痢があるから嘔吐下痢症ですね」というだけで、どこが悪くて、何が原因でそうなっているのか、はっきり解明されていないんです。当院には複数の小児科医がいるので、協力することで、この未知の領域に進んでいきたいですね。小さなことでも大きなことでも、悩み事があればご相談していただけるとうれしいです。