金子 宏明 院長の独自取材記事
西新宿コンシェリアクリニック
(新宿区/西新宿五丁目駅)
最終更新日:2025/09/01

新宿の副都心からすぐ近くとは思えないほど静かな場所にある、「西新宿コンシェリアクリニック」。クリニックの名前の由来はフランス語の「コンシェルジュ」だという。旅行者の求めに応じて街の案内をするコンシェルジュのように、患者の良き医療案内人になりたいという思いが込められている。院長を務める金子宏明先生は、民間病院にて20年以上のキャリアを積んできた精神科のエキスパートである。「培ってきた経験を生かし、心の病に悩む方を支えたい」と、2008年に開業。以来、患者に寄り添う優しい医療を信条に、ストレスの多い現代人の心と体のトラブルをサポートしている。開業の経緯や診療への思いなどを語ってもらった。
(取材日2025年8月1日)
正しい診断を重視し病気を見極め治療の第一歩につなぐ
まずは、開業に至った経緯を教えてください。

浜松医科大学を卒業した後、同大学医学部附属病院の精神科に在籍しました。その後は民間の精神科病院で多くの診療に携わり、多様な経験を積ませていただきましたね。当時は主に統合失調症を専門としながら診療をしていましたが、勤めていた病院の経営方針についていけないものを感じるように……。そのことをきっかけに、「それならば自分の考え方を生かした治療をしよう!」と思い開業を決意したのです。当院は精神科と、需要の多い心療内科を併設しました。
心療内科と精神科の違いはどこにあるのでしょうか?
一般的に、精神科は統合失調症やうつ病といった精神病を診療する科で、心療内科はストレスなど心の問題が原因になり体に不調を来している状態を診る科だと考えられています。精神病は、生活環境やストレスなどの要因とはあまり関係なく発症することがほとんどです。ですから、病気をどのように治療していくのか、と向き合うことが重要になります。一方心療内科の場合は、心身のストレスなどが原因で不調が起こるので、その原因を突き止めて取り除く必要があるのです。例えば腹痛で内科を受診したけれど特に問題はないと診断された場合、実は心理的要因が痛みの引き金になっていることがあります。炎症やがんといった病気ではなく、心理的ストレスが原因となり下痢や便秘などの症状を繰り返す、過敏性腸症候群がその一例ですね。こうした病状は心療内科の適用となるので、ぜひご相談ください。
こちらにはどのような患者さんが多く訪れているのでしょうか?

年齢でいうと30~50代の働き世代がメインで、うつ病もしくは「眠れない」「出社がつらい」といったうつ症状で来られる方が多いです。最近はうつ病の概念が広がり過ぎていることから、診断をより慎重にしなければと心がけています。特に一般的なうつ病と、仕事など特定の状況や出来事に対してだけ過剰にストレスを感じて不調を来す適応障害は、明確な診断基準はなく見分けが難しいので細心の注意を払いながら診るようにしていますね。一応うつ病診断には国際的なガイドラインがありますが、このガイドラインだけを頼りに診断を行うのは危険だと考えています。患者さん一人ひとりの状態をしっかりと見極め、病気を診断することを重視しているのです。
患者が望む治療を実現するため、多様な選択肢を用意
漢方を取り入れた治療も行っているそうですね。

ええ。「漢方精神科」という外来を設けています。患者さんご自身が「ぜひ漢方で」と望んでいらっしゃる場合の他、症状が軽い方なら漢方薬から始めることをお勧めする場合もありますね。漢方薬による変化の感じ方が緩やかであるものの、副作用が出にくい点が強みだといわれています。精神科を訪れる患者さんの中には、抗うつ剤に抵抗がある方も少なくありません。そうした方に、漢方薬も使えるという安心を感じていただけるでしょう。開業時から、「当院では患者さんが望む治療を受けられるように、“選択肢”を多く設けたい」と考えていました。この思いを実現するためにも、「漢方精神科」の外来を設置したのです。自分が望む治療が受けられると精神的満足につながり、治療にも良い影響を与えると思っています。ですから今後も、患者さんが希望する治療を実現するためには、どんなことができるのかを追求していきます。
治療で一番難しいと感じるのはどんなことでしょうか?
心の病気に対する治療法は薬物療法が中心ですが、その際の薬のコントロールが難しいと感じていますね。薬の種類によっては、患者さんの状態に合わせて少しずつ薬量を減らしていきます。精神科の薬物療法では基本的に単剤、多くても2種類までの処方が一般的ですが、たった1~2種類でも薬を減らすタイミングを見極めるのが難しいのです。精神科の病気は、どのくらい回復しているのか目に見えるデータで表せません。ですから治療を進める際は、慎重に患者さんの変化を捉えることが大事となります。心の病気において一番残念な結果は自殺でしょう。病気による自殺は、回復すれば防げることだけにあってはならないと考えています。患者さんの気持ちが少しでも楽になるように、社会復帰できるように手助けするのが私の仕事です。そのことからも当院では、例えば、うつ病の患者さんは自分を責める傾向にあるので、あくまで「病気」が悪いのだとお伝えしています。
勤務医時代と開業された今、何か違いはありますか?

民間の精神科病院に勤務していた時は、かなりシビアな病状の患者さんを診ていました。ご自分でというよりはご家族などに連れられて来られるケースがほとんどで、「病気である」ということを自覚・理解ができていない状態でした。そのため、たとえ治療によって改善につながったとしても、患者さんご本人は成果を感じにくいのです。一方現在は、患者さんご本人が何かしらの自覚を持った上で受診されるケースが多いですね。治療によって患者さんに「以前より明るくなった気がする」「落ち着いて話せるようになった」といった変化を感じて喜んでいただけましたら、私もうれしいです。
「安心感を与えてくれる相談相手」であるために尽力
そもそも金子院長が医師をめざされた理由は何ですか?

江戸時代にある藩のご典医をしていた先祖がいるのですが、しばらく一族からは医師が出ませんでした。ですが親族の中では「誰かが医師になってくれたら」という雰囲気があったことから、いつしか医師をめざすようになりましたね。精神科を選んだきっかけは、医学生時代に受けた講義の影響でしょう。当時は器官別系講義の始まったばかりの頃でしたが、呼吸器系や循環器系というような系統的な講義を受ける機会があったんです。その講義を受けるうちに、「特定の臓器だけを専門にすると、その領域しか診られなくなってしまうのではないか」という考えを抱きました。それならば、精神科のような「人を診る」科が良いのではないかと思ったのです。当時は若かったこともあってそんな考えに至ったのでしょうが、今考えると専門を究めてきた先生に失礼ですね。ただきっかけはどうであれ、精神科の医師となったことは間違いではなかったと思っています。
お忙しい毎日だと思います。リフレッシュはどんな方法でされていますか?
健康のことも考えて、週に1回テニススクールに通っています。もともとは娘が通っていて私は付き添いだったんですが、「見ているだけでは」と思い始めたら私のほうがハマってしまったんです(笑)。また自宅にいる時、ボーっとする時間をつくるのがリフレッシュのコツですね。私の場合は、海外の推理ドラマなど、深く考えなくても楽しめる娯楽作品を観て過ごします。そうしているうちに少しずつクールダウンしてきて、気持ちがリセットできるんです。
診療の際に心がけていることをお聞かせください。

私自身がいつでも変わらない精神状態でいることを大事にしています。患者さんは心が不安定になっているので、医師のちょっとした変化にも敏感に反応されます。例えば話し方が少しでも違うと、「先生に迷惑をかけてしまった」「怒らせてしまった」と感じてしまうのです。人間ですからいつでもまったく同じ状態というわけにはいきません。ですがなるべく毎回同じようにお話を聞き、説明をして、同じ印象を与えられるように努力しています。患者さんに「ここに来ればいつもと同じように受け入れてくれる先生がいる」と思っていただけたら幸いです。心の病気は治療に時間がかかります。改善したと思ったらまた少し悪くなる、そうしたことを繰り返すときもあります。だからこそ焦らずに、患者さんの「自分で回復する力」を損なわないように手を差し伸べる。そんな寄り添う治療をしていきたいです。