田邉 智之 院長の独自取材記事
たなべ春日野クリニック
(広島市安佐南区/下祇園駅)
最終更新日:2025/04/03

広島市西部の新興住宅地春日野エリアにある「たなべ春日野クリニック」。2019年に開業し、地元の子育て世代をはじめ、高齢の患者も多く訪れる。田邉智之院長は脳外科が専門。大学卒業後、広島市立広島市民病院にて長く救急の現場に携わり、脳卒中などの脳血管の手術に数多く関わってきた。そして、救える命を増やすためには予防の段階から携わりたいという思いで開業を決意。MRIやCTを備え、脳疾患の早期発見をめざし脳ドックも行っている。また在宅医療にも応じ、老々介護でクリニックに来られない患者や、終末期の患者の自宅を訪れ、昼休みなどわずかな時間を見つけ往診を行っているという。そんなバイタリティーにあふれる田邉院長に、診療のことや今後の展望について話を聞いた。
(取材日2022年4月19日/記事更新日2024年12月17日)
重篤な病気を未然に防ぐために、地域密着の診療を
2024年の11月で、開業5周年だそうですね。

はい。これまでは、地域の方に当院を知っていただき、「少しでも多くの方のお役に立ちたい」と頑張ってきましたが、今ではだいぶ皆さんに認知してもらえるようになったと思います。ただ、開業前と同様、この地域には依然としてクリニックが少ないので、今後も責任を持って使命を全うしなければと、身が引き締まる思いです。また、春日野ニュータウンはやはり若い世代が多いのですが、開業当初から比べるとかなり人口が増えたように思います。新しくこの町に来られた方にも貢献していきたいですね。院内で変わったことといえば、ユニホームを青色から紺色に一新しました。僕はいつも白衣を着ませんし、スタッフも同じユニホームを着ていたので、以前はよくスタッフに間違えられたんですよ(笑)。
医師をめざしたきっかけを教えてください。
父と祖父が開業医で、祖父は皮膚科と泌尿器科、父は泌尿器科の医師でした。実家が開業していて、帰宅する時は毎日祖父のクリニックを通って家に上がるといった環境でした。まさに祖父の背中をずっと見てきた感じで。医師になるというのは、うまくレールに乗せられたような気もします。外科医になりたいと考えた時、カテーテルに興味があったので、カテーテルの治療ができて、なおかつメスを握って手術もできる脳外科に進みました。今は違いますが、僕らの医師になったばかりの頃はまだ、がんは発見が遅いと手術しても治すのが難しい時代だったんです。しかし頭の血管障害は、がんより助けられる可能性がありました。脳卒中の手術など、命に関わるような手術は救急医療では多く見られます。ですが、そういう手術ができたら医師として大きなやりがいになるだろうと思い、次第に脳外科の中でも救急に寄っていきました。
これまでの診療で、印象に残っていることはありますか?

予後が悪かった患者さんのことをよく覚えていますね。救命で壮絶な現場を患者さんと一緒に戦って、それでも命が尽きる場合もあります。例えば、救急で運ばれてきた患者さん100人のうち、90人が助かっても残り10人の人を助けられなかったら、後者の症例のほうが心に刻まれます。だから、助けられなくなる前に、未然に防ぐ方法を探りたいと思うようになったんです。それで、前線から一歩引いて、開業することを考えました。動脈硬化が血管障害の大きな原因となることや、血圧管理の重要性をお話しするのはもちろん、脳ドックなどで未然に原因疾患を発見していくことも大事な仕事だと思います。
発熱や頭痛など、患者のニーズに寄り添い幅広く診療
先生が大事になさっていることは何ですか?

堅苦しい感じじゃなくて、アットホームな雰囲気のクリニックにしたいですね。先日も、おばあちゃんが診療後も帰らずにしゃべっていました(笑)。スタッフ皆で和気あいあいとした、家族のような空気をつくりたいと思っています。救急の現場でもそうだったんですけど、チーム内でぎくしゃくするとうまく治療ができないんです。クリニック全体が一つのチームで動いているという感じだといいなと思います。
発熱症状のある患者さんのための外来を設けていると伺いました。
当院の専門は脳外科で、それをメインに診療を行っていますが、この地域にも発熱者が多くいらっしゃるので、地域の方々が困っているのなら、助けたいと思い、その患者さんたちを診る外来を設けました。外来を開設するにあたっては感染症対策も徹底し、一般の患者さんと発熱の患者さんの動線は完全に分けています。脳外科の患者さんや慢性疾患の患者さんは従来どおり受付を通ってもらって、発熱者、感染症疑いの方はいったん車内で待機していただき、スタッフが誘導します。車の中だけで診察する場合もあります。
近年は、ひどい頭痛に悩まされている方の受診も多いとか。

当院では頭痛の外来を行っており、片頭痛や緊張型頭痛などに悩まれている方が遠方からも多くいらっしゃいます。日本では特にですが、頭痛が軽視されているように思えるんです。例えば、発熱で会社を休まれる方は多いと思いますが、頭痛ではなんとなく会社を休みづらいですよね。ですが頭痛も、医療機関を受診して治療やコントロールをしていくべき、れっきとした疾患なんです。片頭痛などは、放置していると脳卒中のリスクを高めるというデータも。そのため、「頭痛になったら受診する」という意識を広める必要があると考えています。ただ、片頭痛と、肩凝りなどから来る緊張性頭痛は、非常に切り分けが難しいため適切な診断が必要です。当院では患者さんの状態をチェックシートで点数化し、それぞれに合った治療法を提案しています。また、市販薬の使用も有用ですが、頼りすぎると薬剤の使用過多による頭痛を引き起こす場合があるため注意が必要です。
MRIやCTも導入されているのですね。
頭蓋骨があるので、頭の中は可視化できません。心臓の先生が聴診器の代わりにエコーで心臓を診ていくように、僕らには、CTやMRIがなければ診断が難しいんです。画像で血管の形態が全部わかるので、動脈硬化や脳卒中のリスク、脳出血のリスクにつながる血管の奇形もわかります。頭痛、めまいの症状で来られる方が多いのですが、そういった脳卒中を疑う症状がある方は、基本的にMRIを撮って確認しています。MRIを撮ると、軽い脳梗塞や脳出血、脳腫瘍、脳動脈瘤が見つかることがあります。脳動脈瘤はこぶが破裂するとくも膜下出血になるので、未然の段階で見つけることが重要なんです。脳の検査は、症状があれば保険診療となりますが、症状はないけど頭のことが心配という場合には自費診療となります。
悩める患者の受け皿となり、生涯寄り添える医師が理想
在宅医療もなさっているのですね。

もともと在宅医療を考えていまして、開業後半年たってから始めました。クリニックを受診できる人は氷山の一角であって、今のご時世、老々介護の人がたくさんいらっしゃるんです。病院へ連れて来られずに急変して、救急車を呼んでも助からないケースもあります。だからそういう方々を一人でも多く救えたらと思っています。伺う先は基本的にはお年寄りが多いです。そのほか、がんの末期の患者さんも診ていますし、在宅での看取りにも対応しています。
認知症の患者さんも診ていらっしゃるのですか?
僕は認知症サポート医でもあるので、クリニックでも物忘れ相談というかたちで認知症に関する相談や診療を行っています。認知症にはいろいろ種類がありますが、一般に脳が萎縮すると認知機能が落ちるんですね。アルツハイマー型認知症においては、異常なたんぱく質の蓄積と神経原線維変化が起こって、脳の海馬という部分などが集中的に萎縮するといわれています。それらは、脳の画像を撮ればわかります。認知症は、まずは症状ありきなので、認知症テストを行い、MRI検査を行った上で診断します。
最後に今後の展望についてお聞かせください。

これからも、僕が生きている限りは地域に根差した診療を続けたいですね。今来てくれているお子さんらが大人になって、子どもを育てて、その子たちが反抗期を迎えるくらいまで続けられたらいいな、と。また、つらい症状があっても受診先がわからず悩まれる方は少なくないので、そうした方々の受け皿になりたいですね。当院が「頭痛の外来」を掲げているのも、その一環です。もちろんすべて治療できるわけではないのですが、「専門じゃないから」とはねのけるのではなく、「いいですよ、とりあえず来てください」と言える医師になりたい。そして最後、お看取りするまで患者さんに生涯寄り添える診療をするのが僕の理想ですね。
自由診療費用の目安
自由診療とは脳ドック/2万3000円~