川口 雄才 院長の独自取材記事
川口クリニック
(生駒市/学研奈良登美ヶ丘駅)
最終更新日:2025/09/02

最寄り駅は近鉄けいはんな線の学研奈良登美ヶ丘駅、奈良市役所や木津川市役所から車で十数分という好立地の「川口クリニック」は、2024年4月に開業。緑豊かな高台に立ち、開放的な景色が楽しめる閑静な住宅街にある同院の院長を務めるのは、川口雄才(かわぐち・ゆうさい)先生。40年以上にわたり消化器外科の医師として、総合病院の院長として、がん治療をはじめとしたさまざまな専門的経験を積んできた。「一期一会」の精神で、患者一人ひとりのニーズに真摯に向き合うことを大切にしていると語る川口院長に、クリニックを開業した経緯や、地域医療、患者への思いを語ってもらった。
(取材日2025年7月2日)
さまざまな研鑽を地域に医療に生かす
先生が医師をめざしたきっかけからお聞きします。

中学2年生の時、授業で初めて「人体」について学びました。臓器の形や働き、精巧な仕組みを知るうちに、「人の体って本当にすごい」と感動し、自然とその世界に引き込まれました。一方で、哲学や精神世界にも関心があり、哲学科への進学も考えましたが、医師の道を選びました。ただ、医師は単に肉体を治療する職業ではなく、患者さんとの信頼関係や倫理観、死生観など、人間そのものと向き合う職業です。特に外科手術は、人の体にメスを入れるという重みがあり、心を静かに整え「無」の状態で集中する。その意味でも、哲学や精神世界への関心が役立っています。
外科医を選ばれたのはなぜですか?
もともと「人体」そのものに強い関心があり、臓器や内部構造を自分の目で直接見てみたいと思っていました。鬼手仏心の誠心のもと、外科医はメスを使い、胸やおなかを開いて臓器を見ながら治療を行います。内科は薬による治療が中心で、手術も内視鏡などカメラ越しに行うため、実際に人体内部を目で確認しながら治療するのは外科医ならではの魅力です。また、手術は成功・不成功の結果が比較的すぐに現れるため、その点でもやりがいを感じています。外科医はよく「器用ですね」と言われますが、重要なのは器用さよりも「センス」です。傷の接合が適切か、感染を防げるか、患者さんの持病や体力を踏まえた判断ができるか。人体全体の状態を読み取り、術後の回復を見通す力が問われます。
ご経歴や開業したきっかけについて教えてください。

医学部卒業後、大学病院や基幹病院で外科医として食道外科のがん治療を中心に、消化管全般、肝胆膵、乳腺外科、血管外科、救急科などで幅広い経験を積んできました。中規模病院では長年院長も務め、診療に加えて病院経営にも携わりました。40年以上のキャリアを重ねる中で、66歳の時に将来を見据え、生涯医師として現役を続けたいと考えました。しかし勤務医としての外来、手術、病棟管理、院長業務は非常に激務で、これを続けるのは難しいと判断せざるを得ない。ただ、開業医であれば自分のペースで仕事ができる。そこで次のステップとして開業を決意したわけです。特に、中規模病院では外科だけでなく内科、整形外科、脳神経外科まで幅広く診療し、オールマイティーに対応してきました。その経験が、今とても有益に感じられます。
何を自分が診て、何を専門機関に送るかの見極めが重要
こちらではどのような患者さんが多いのでしょうか?

近隣にお住まいの方が多く、年齢層は幅広いです。また、インターネットなどで調べて遠方から来られる方もいらっしゃいます。主な症状としては、発熱や風邪、頭痛などの一般内科的なものの他、胃腸や肛門に関する症状、例えば食あたりによる感染性腸炎、肛門のかゆみ、痔なども多いです。その他、整形外科や皮膚科的な症状にも対応しており、足の爪のトラブルや帯状疱疹なども診ています。もちろん内科疾患にも対応していますが、私自身が外科出身であるため、内科医とは異なる視点から診断を考えることができるのも当院の強みです。腹痛の場合でしたら緊急性の高い急性虫垂炎、いわゆる盲腸や急性胆嚢炎の可能性をすぐに念頭に置きます。これまでの外科的経験を生かし、緊急性の有無を触診で素早く判断し、必要があれば速やかに専門医療機関へ紹介しています。
地域のかかりつけ医として心がけていることを教えてください。
地域のかかりつけ医として大切にしているのは、「自分で診られるものはすべて診る」「必要があればすぐ専門医療機関に紹介する」という基本姿勢です。地域医療では、なんでも対応できるわけではありませんが、逆に言えば「何をここで診て、何を紹介すべきか」を正しく見極めることが、かかりつけ医の最も重要な役割だと思っています。例えば、痔一つとっても、外来で治療できるものと入院が必要なものがあります。糖尿病や高血圧症など、さまざまな慢性疾患を抱える患者さんに対しても、その見極めができるかどうかが大切です。私は40年以上、大学病院や基幹病院で外科医として命に関わるような重症の患者さんも多く診てきました。地域の開業医からの紹介で来られる患者さんの中には「もっと早くに治療できていれば……」と感じた経験が多々あるからこそ、自分が開業医となった今、その判断には特に注意を払っています。
特に印象に残っている患者さんとのエピソードはありますか?

私がまだ20代後半の新米医師だった頃に治療した初期の膵臓がんの患者さんで、今でも40年以上通院を続けてくださっている方がいて、患者さんとのこうした長い付き合いができるのも、医師という仕事の大きな魅力の一つだとあらためて感じています。また、私が初めて大腸がんの手術を行った女性の患者さんのことも忘れられません。手術後の入院中、その患者さんが「執刀医の先生が顔を見せてくれない、おなかも触ってくれない」と不満を漏らされたんです。その一言で私はハッとし、それ以来、術前術後は毎日患者さんの顔を見に行き、必ず患部を触り、聴診器を当てるようにしています。患者さんは医師の態度をよく見ています。どれだけ偉そうにしていても、そんな医師の鼻をへし折ってくれるのは患者さんです。上司の指導よりも素直に受け入れられるのが、患者さんの声。私にとって本当の「先生」は患者さんであり、患者さんの笑顔こそが一番のやりがいです。
今後は訪問診療やセカンドオピニオンに力を入れたい
ご自分の健康維持法や、ご趣味などありますか?

特にスポーツは何もやっていないのですが、週1回、日曜日にウォーキングをしています。食事は朝昼晩、家内に任せているのですが、ヘルシーでおいしい料理を作ってくれます。しっかり睡眠を取ることも大事にしています。睡眠時間は、6時間だと体がきついので、7時間以上寝るのが元気の秘訣ですね。あと趣味についてですが、今はクリニックでの診療ですね(笑)。以前はいろいろ興味があって、日本刀を用いて技や型を追求する居合道の6段を取得しましたし、仏教の僧侶の修行をして高僧の称号も持っているんですよ。
今後の抱負を教えてください。
地域の方々が、住み慣れた場所で継続して医療を受けられることが、私の考える理想の地域医療です。そのため、今後は訪問診療にさらに力を入れていきたいと考えています。今年2月から訪問診療を始めましたが、患者さんが施設へ入所するなどで継続が難しいケースもあります。それでも、現在通院されている方々が年齢を重ねて通院困難になったときにも、治療を中断せず継続できる体制を整えていきたいと考えています。また、がん患者さんを対象としたセカンドオピニオンにも力を入れたいと思っています。手術や抗がん剤治療の判断、再発時の対応、食事療法や免疫力の維持など、患者さんが不安に感じる点を、地域のクリニックで丁寧に相談できる場を提供したいのです。大きな病院では忙しさの中で流しがちな「心のケア」や「治療との向き合い方」も、地域の中でしっかりサポートできればと考えています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

患者さんの健康寿命を延ばすことを支えると同時に、健康ではいられない期間が平均して約10年あるともいわれる中で、その時間をどう過ごすか、患者さんにとって最も幸せな治療は何かを常に考えていきたいと思っています。お釈迦さまの教えである優しいまなざし、笑顔、優しい言葉、お手伝い、思いやりを大切にして、職員一同、一期一会の気持ちでより良い診療に努めていきます。「病を治して三流、人を癒して二流、世を正して一流」という言葉がありますが、医療を通じて少しでも地域・医療に貢献していきたいですね。当院を「散歩のついでに立ち寄れる場所」のようなイメージで、気軽に訪れていただければうれしいです。