桑野 夏州久 院長の独自取材記事
くわの歯科
(大津市/おごと温泉駅)
最終更新日:2025/08/12

おごと温泉駅から徒歩20分、地域で「けやき通り」と呼ばれ親しまれる市道沿いにたたずむ「くわの歯科」。2019年に滋賀県出身の桑野夏州久院長が開業した。外来で歯科全般に対応するほか、訪問歯科診療にも力を入れ、高齢化が進む地域でかかりつけ医として患者と長く付き合う覚悟を持つ。15歳の時にネパールで経験したボランティア活動や、恩師との出会いが人生観に影響し、「幸せ」とは何か考え続けたと語る桑野院長は、物腰はやわらかく穏やかだが、歯科診療にかける思いは人一倍強い。これまでの歩みと、たどり着いた「幸せ」の答え、そして地域歯科診療にかける思いを詳しく聞いた。
(取材日2025年7月24日)
海外での経験や恩師との出会いから、歯科医師の道へ
先生が歯科医師になったきっかけは何ですか?

15歳の時にネパールでボランティア活動をしたことは大きなきっかけの一つでした。10年かけて生徒会でためた300万円を持ってネパールへ学校建設に行ったんです。1週間の滞在中に見たネパールの人々の生活は、15歳の私には衝撃的でした。ネパールは産業が発達していないので、食べていくために皆必死で、ご飯も食べられない、寝る家もない、学校にも行けない子どもたちを目の当たりにしたんです。親が子どもにひどい仕打ちをして、旅行者の同情を買って物乞いをさせるなんてことが、ネパールの人々の日常でした。それで見えている世界が180度変わったというか、「自分たちはすごく恵まれているんだ」と痛感し、帰国後もずっと「自分にとっての幸せとは何だろう」と考え続けることになりました。
それから、歯科医師をめざすのにどんな経緯があったのでしょうか。
ネパールに同行してくださった75歳の歯科医師の先生と、帰国後も交流があり、下校時によく遊びに行きました。最初に「友達になってほしい」と言われて驚きましたが、「君の15年の経験を素直に聞いたら、僕はその15年をもらえる」なんて言ってくださって、人生の師匠ができた瞬間でした。15歳で出会ってから先生が亡くなるまで長く交流があり、先生には人生の指針となる多くの言葉をいただきました。まさに人生の恩師ですね。「時間だけは絶対買えないから大事にしなさい」「人の話を素直に聞きなさい」とよく言われましたし、「大学生までは近寄って来る人皆と友達になりなさい」という教えも実践し、当時は少しヤンチャなグループの子とも仲良くなりました。私が柔道をしていて体が大きかったこともあって、その子たちからは「番長」というあだ名で呼ばれていましたね(笑)。
恩師との出会いがあって、歯科医師になることを決めたと。

そうですね。実は最初から歯科医師になると思っていたわけではなく、帰国後に「自分にとっての幸せとは何だろう」と考え続けていたところに、ふと「これかも」と思えた経験があったんです。電車で赤ちゃんを連れたご夫婦を見た時に、すごく幸せそうで、その姿を見て私も温かい気持ちになりました。それで、「人の幸せな姿を見るのが、僕にとっては幸せなのかな」と気づき、そのことを恩師に話したら「歯科医師になるのはどう?」と提案してくださいました。「歯科医師は健康を守ってあげることで、いろんな人が笑顔になれるベースを作る。みんなの幸せを守る仕事で、幸せを増やせるんじゃないか」という言葉に「おお!」と、しっくりときたんです。歯科医師になりたいという気持ちが固まった瞬間でした。
原因を究明した上で、「その人」に適した治療の提案を
なぜ滋賀県のこの地域で開業されたのですか?

中学生でネパールを訪問した際、国歌斉唱に同席し、同世代から小さな子どもまで、胸に手を当てて国歌を歌う姿を見る場面がありました。ネパールの同級生に聞くとネパール人であることを誇りに思っていると言われ、そのように言える姿勢がうらやましく、自分もそうありたいと考えるようになりました。歯科医師になってもからも、自分が生まれ育った湖西地区を大切にしたい、貢献したいという考えは変わらず、ここで開業をさせていただきました。実は当院の建物は、父と一緒に工事に入って建てました。思い入れがあるだけに、地域のために働くぞという意気込みや責任も感じています。この地域はご高齢の方が多いため、今後は訪問歯科診療が求められると考えて、開業前にいた東大阪では約1年間集中的に訪問歯科診療だけに関わり、経験を積みました。
診療で最も大切にしていることは何ですか?
まず患者さんの話をしっかり聞き、検査して原因を突き止めることです。同じように「歯が痛い」とおっしゃって来られた患者さんでも、その原因はそれぞれ違うもの。虫歯なのか、歯周病なのか、力のかかりすぎなのか、その他に原因があるのか、原因を突き止めた上で、適切な治療につなげることが肝要です。治療については、原因を患者さんに説明し、理解してもらった上で提案します。さらに、噛み合わせや審美性、長持ちするかどうかまでを考慮して治療を進めます。当たり前のようですが、どんな患者さんにも、どんな治療に対してもこうした一つ一つを丁寧に、徹底して行うことを大切にしています。患者さんの求めることや悩みもさまざまですので、勉強会などを通じて研鑽し続けることも欠かせません。また、病気にならないように健康を維持するための予防歯科にも力を入れています。
訪問歯科診療にはどのような思いで取り組まれていますか?

訪問歯科診療は、地域の方を最期まで診るために必要だと考えています。東大阪で訪問診療をしていた時も、診療所で診るのとご自宅で診るのとでは、患者さんの表情が全然違うと感じていました。ご自宅だとリラックスされていて、言いたいことを言ってくれるような気がしたんです。訪問歯科診療では何でもできるわけではありませんが、患者さんの「本音」や「解決したいこと」ととことん向き合える分、「幸せ」にも近づける気がして、やりがいを感じます。ご家族や患者さんから「本当に助かった、ありがとう」と言っていただくことが、これ以上に幸せなことはありません。
長く寄り添うかかりつけ医として
患者さんとの関係性で大切にされていることは?

長期的な信頼関係を築くことです。最後まで付き合うつもりで治療をするのが私の信念なので、患者さんにはご本人がお口の健康を維持し続けられるような提案をすることを心がけています。例えばインプラント治療は、セルフケアや定期通院が苦手な人には向きませんし、ご高齢になって介護を受けるようになったら、管理が難しくなることもあるでしょう。患者さんのために、向いていない方には「向いていないですよ」とはっきり言うこともありますし、初診から「とにかくインプラントだけをしてくれ」と希望される方はお断りすることも。患者さんからは「先生、色気ないな」「もっとお金儲けしたらいいのに」と笑われることもあります。でも、その人に最適な治療を提案することが大切だと思っています。
スタッフに共有している理念などはありますか?
命を大事にすること、つまり健康で元気でいることは第一に考えてほしいと必ず話しています。人が何かできるのは生きている間で、死んでしまっては何もできません。実は、2歳上の兄も歯科医師でしたが、34歳の時に体調を崩し、急に亡くなりました。亡くなる4日前に電話があったのに、私は忙しくてかけ直せなかったんです。「人は簡単に亡くなるんだ」と、その時、恩師の「時間を大事にしろ」という言葉がフラッシュバックしました。健康の大切さを改めて感じましたし、スタッフにも仕事をする上でそれが「真ん中」にあってほしいです。それが軸としてあった上で、患者さんの健康、幸せを支えていけるのだと、スタッフ全員で共有したいと思っています。
今後の展望と地域の方へのメッセージをお願いします。

末永く地域のかかりつけ医でありたいです。具体的に「この治療ができます」と言いたいというよりは、困った時に任せてもらえるクリニックでありたい。地域の信頼をずっと受けていたいです。困っている方はもちろん助けたいですし、私たちの理念を理解してくださる方とは長くお付き合いできたらうれしいです。実は、恩師に学んだ経験から、歯科医師になってからも各地を回ってさまざまな歯科医師の先生に師事したんです。師匠と呼ぶ先生方から教わった技術も生かし、できる限りこの地域ですべてを診られるように努めていますので、お口の中のことは何でも相談していただければと思います。人の幸せを見ることが自分の幸せ。その原点を忘れずに、今後も地域の皆さんを支えていきたいと思います。
自由診療費用の目安
自由診療とはインプラント治療/27万5000円~
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マウスピース型装置を用いた矯正については、効果・効能に関して個人差があるため、必ず歯科医師の十分な説明を受け同意のもと行うようにお願いいたします。