伊瀬知 毅 院長の独自取材記事
せいあいクリニック
(姶良市/帖佐駅)
最終更新日:2025/04/25

鹿児島県姶良市の姶良ニュータウンで2018年から診療を続ける「せいあいクリニック」。院長の伊瀬知毅(いせち・たけし)先生は、鹿児島大学第二内科(現・消化器疾患・生活習慣病学講座)に15年間在籍して経験を積み、日本消化器病学会消化器病専門医や日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医などの資格を持つ内科診療のエキスパート。急性期病院から慢性期病院、地域医療、僻地診療までさまざまな経験を積んだ結果、地域医療の重要性を実感したことが開業のきっかけだという。内装は、「クリニックらしくない、リラックスできる空間」にこだわり、明るく開放的な雰囲気になっている。穏やかで丁寧な口調が印象的な伊瀬知先生に、医師としての歩みやクリニックのこだわり、今後の展望などについて話を聞いた。
(取材日2025年3月26日)
患者の「生活」を支えたいとの想いで地域医療の道へ
医師をめざしたきっかけをお聞かせください。

小さい頃から体が弱く、頻繁に風邪をひいては病院に通っていました。中学生になってからは胃の痛みにも悩まされるようになり、中学1年生でバリウム検査、中学3年生では胃カメラ検査を受けました。初めての胃カメラはとても苦しく、「二度と受けたくない」と思ったのを覚えています。「胃が痛いのに、さらにこんな検査をしなければならないのか」「もっと楽に検査できたらいいのに」とつらさばかりが募る中、クリニックの先生がとても親身に話を聞いてくれたんです。先生と話すだけで気持ちが前向きになることも多く、いつしか「先生みたいな医師になりたい」と思うようになりました。自分が育った戸建て団地の中にあるクリニックで、学校帰りに立ち寄ることもあり、身近な存在だったことも大きかったと思います。
実際に、医師になっていかがですか?
憧れの先生が所属する鹿児島大学医学部に進学し、同じ消化器内科を専門に選択しました。実際に医師になって感じたのは、教科書通りの知識だけでは問題を解決できないということです。検査で明確な異常が見つかるケースばかりではなく、症状はあるのに検査では異常が見つからない場合も多く、通り一遍の診療ではうまくいかないことを痛感しました。患者さんの主訴だけでなく、他に何か見落としている点はないか、薬の反応や治療経過なども注意深く観察しながら診療を続けています。これまで学んできたことを生かしつつ、患者さんからも多くのことを学ぶ毎日です。そのようにして患者さんとともに病気と向き合い、改善につながったときは本当にうれしいですね。
地域医療に興味を持つようになったきっかけを教えてください。

大学退局後は、消化器内科医として急性期病院で内視鏡治療を専門に行っていました。その後、慢性期病院に勤務し、さらに3年間、内科医として地域医療や僻地診療にも携わりました。そこで実感したのは、大学病院には大学病院の、急性期病院には急性期病院の役割があるということ、一方で、その役割だけをしていてもその後の患者さんの生活につながらないケースも多いということです。次の医療機関への連携や自宅退院までのサポート、そして在宅でのケアと、医療は途切れることなく続きます。そうした流れを間近で見て、自分の考え方も変化していき、「病気だけでなく患者さんの生活そのものを支える地域医療に携わりたい」という思いが強くなりました。
患者に安心してもらえるクリニックでありたい
開業までの経緯を教えてください。

最初は僻地での開業も考えましたが難航し、鹿児島に戻ることも考え始めたところ、ちょうどこの土地とご縁がありました。実際に訪れた際、子どもの頃に住んでいた団地の雰囲気に似ていて、さらに桜島と海が見えるロケーションに惹かれ、直感的に「ここでやりたい」と思いました。 病院っぽくしたくなかったので、医療施設ではなく一般住宅を手がける会社に依頼し、天井を高くし、内装も真っ白ではなく、部屋ごとに異なる壁紙や色を取り入れ、廊下の壁は漆喰、床はカーペットにするなど、温かみのある空間にこだわりました。外装も落ち着きのある和風テイストにしたので「うどん屋さんかと思いました」と、言われたこともあります(笑)。もちろん、医療設備も充実させています。胃カメラ・大腸カメラといった内視鏡に加え、より詳細に観察できる拡大内視鏡やCTも完備し、2024年にはAIによる診断補助機能が付いた胃カメラを導入しました。
どんな患者さんやどんなご相談が多いですか?
中高年の方はもちろん、最近は若い方の来院も増えています。胃や腸などの消化器は精神的な影響を受けやすい場所ですが、「メンタルの問題ですね」と突き放すのではなく、他の要因も考慮しながら丁寧に診療していきます。一見雑談のように思える会話の中にも診断のヒントが隠れているので、診察ではとにかく話を聞くことを大事にしています。例えば、胃の痛みを訴えている方に、胃カメラをしても異常が見つからない場合、精神的なものの可能性も考えます。しかし、会話の中で「便が細い、おなかが張る」などの言葉が出ていたら、念のため大腸の検査をするという選択肢も生まれます。そうすると、もしかしたら初期の大腸がんが見つかるかもしれません。このように教科書通りでないケースから学ぶことも多くあるので、その学びをさらに患者さんに還元していきたいですね。病気だけでなく、気持ちの面でも納得し、安心していただける診療を心がけています。
開業から現在までで、印象に残っているできごとなどはありますか?

やはり、新型コロナウイルス感染症のパンデミックです。まだ開業1年半だった当クリニックも患者さんの数が大幅に減り、経営が不安になるほどでした。鹿児島県第1号の感染者が姶良市で確認されると、人々の外出は激減し、医療物資も不足。夜な夜な代用品を探し回り、雨合羽を医療用エプロン代わりにするなど工夫を重ねました。さらに、ある方から「ここに感染症の第1号の人の家族が受診したのでしょ?」と言われ、事実無根の話が一人歩きする風評被害の怖さを痛感しました。「患者さんに少しでも安心してもらいたい」との思いから、発熱者専用の外来の設置や動線の分離、PCR検査機器の導入など感染症対策を強化し、オゾン水発生装置や紫外線殺菌庫も導入、現金の消毒まで徹底しました。現在もこの思いと取組みは変わらず、感染症対策を万全にすることが医療者の努力義務であり、患者さんに安心して受診してもらうための使命だと考えています。
これからも変わらず、地域のために
先生のご趣味はなんですか?

趣味は神社巡りです。参拝することで心が浄化され、リフレッシュできるんです。モヤモヤした気持ちも晴れるように感じますし、何より感謝の気持ちを持つことで前向きになれます。当クリニックにはロゴとキャラクターがあるのですが、ロゴは「SEIAI」のSを龍、Aを鳥居に見立て、龍が鳥居をくぐるデザインにしました。キャラクターも龍で、高千穂在住時に龍神の神社をよく訪れていたことや、私自身「顔が龍に似てきた」と言われることから決めました。
今後の展望をお聞かせください。
今後も地域に根差した医療を大切に、患者さんの生活そのものを支えていきたいです。退院後に自宅へ戻っても、すぐに以前の生活に戻れるとは限らず、特に一人暮らしの方は家事の負担や日常生活への不安が大きいものです。そうした方々の支えとなるために、在宅生活と病院をつなぐ存在となれたらと思っています。将来的には訪問看護ステーションの設立や生活のサポートが必要な方のための施設づくりも視野に入れています。当クリニックを拠点にしながら、家族が遠くにいて心細い方も安心して生活できる仕組みを作れたらいいですね。医療と生活の隙間を埋める存在として、地域の皆さまに手を差し伸べていけたらうれしいです。
最後に、地域の方々へメッセージをお願いします。

私の力は微々たるものかもしれませんが、これまで多くの患者さんやご家族と話をする中で、疾患の学び以上に人生の学びを数多くいただきました。それぞれの人生観や死生観に触れるたびに、勉強になることばかりです。その貴重な経験に恩返しできるよう、これからも精いっぱいの愛を持って診療にあたりたいです。当クリニックは消化器内科を専門としていますが、内科一般も幅広く診療しています。病気や症状の有無にかかわらず、どんな些細な不安や心配事でもご相談ください。皆さまに安心して受診してもらえるクリニックでありたいと思っています。