青木 豊 院長の独自取材記事
あおきメンタルクリニック
(藤沢市/湘南台駅)
最終更新日:2025/10/14

湘南台駅から徒歩3分の「あおきメンタルクリニック」は、成人を対象とした心療内科・精神科外来、乳幼児家族に特化した外来、カウンセリングの3部門を擁するクリニックだ。青木豊院長は高校時代にフロイトの本に出会い精神科医を志し、成人患者の治療を通じて乳幼児期の親子関係の重要性を実感。そこで米国ルイジアナ州立大学で乳幼児精神保健を学び、帰国後は親子関係に方向づけた専門的治療を実践している。「なんとかして患者さんのお役に立ちたいんです」と穏やかに語る青木院長に、同院の診療内容や地域貢献への思いを聞いた。
(取材日2025年9月24日)
親子関係から心の健康を見つめる道のり
先生が精神科医を志したきっかけを教えてください。

高校時代、図書館でたまたま手に取ったフロイトの本に衝撃を受けたんです。精神分析を創始した人の業績に「これはとても面白い!」と興味をそそられ、精神科医になろうと決めました。医師になりたいというより、精神科医になりたいという思いが先にありましたね。大学卒業後は精神療法に興味を持ち、患者さんと向き合ってきました。その中で、患者さんの小さい頃の親子関係が、その人に非常に大きな影響を与えることを実感したんです。患者さんの心の中にある乳幼児時代は、本人に聞くことはできても、私がそれを実際に見ることはできません。実際、多くの人にとって乳幼児期の親子関係とはどういうものなのか。そこを学ばないと深い分析はできないと思い、乳幼児精神医学に関心を持つようになりました。
アメリカ留学で専門性を深められたそうですね?
はい、ルイジアナ州立大学にチャールズ・ジーナ―という乳児精神医学の研究者がいたんです。3年間彼のもとで勉強し、乳幼児精神保健、乳幼児精神医学を学びました。3年間の訓練では研究にも参加し、「研究も面白い」と思うようになりました。帰国後も研究を続け、現在も科学研究費を取って進めています。研究、教育、臨床の3本柱でやってきましたが、今はクリニックでの臨床に重点を置き、研究は趣味のように続けています。留学で得た知識と技術を生かし、日本ではまだ少ない乳幼児とその家族を対象とした専門的な診療を提供できるようになりました。親子関係に方向づけた治療で、乳幼児と家族を支えていくことが私の使命だと考えています。
クリニックの3つの部門について教えてください。

成人の心療内科・精神科外来、乳幼児家族に特化した外来、カウンセリング部門の3本立てです。心療内科・精神科外来の患者さんは大学生から高齢者まで幅広く診ていますが、主に働いている方や主婦の方が多いですね。湘南台駅がハブ駅なので、仕事帰りに通院される方も多いです。職場のストレスで適応障害になった方、うつ病を発症された方、産後うつの方などが中心です。一方、乳幼児家族に特化した外来は0歳から5歳までのお子さんとその親御さんが対象で、育児困難や親子関係の悩みで来られます。カウンセリング部門では、薬物療法だけでは十分な支援ができない方に、心理士による45分間のカウンセリングを行っています。心療内科・精神科外来と乳幼児家族に特化した外来の待合は分かれた造りにして、お子さん連れの方も気兼ねなく過ごせるよう配慮しました。
専門的アプローチで親子の絆を支える
乳幼児家族に特化した外来ではどのような相談が多いですか?

「なかなか言うことを聞いてくれない」「泣きやんでくれない」「寝てくれない」といったお子さんについての悩みから、「イライラしてしまう」「どうしても声を荒げてしまう」という親御さん側の育児困難までさまざまです。中には軽度の虐待に至るケースもあるため、親子関係がうまくいっていない場合は、関係性を改善するための支援が必要なんです。神経発達症(発達障害)のお子さんも診ることはありますが、当院では特に親子関係に焦点をあてています。地域の保健師さんや児童相談所からの紹介も多く、神奈川県内のすべての児童相談所と連携して虐待された乳幼児と親御さんの関係性評価を行っています。必要に応じて、患者さん個人ではなく、ご家族の関係性自体を対象に精神療法を行います。
親子関係の評価や治療は具体的にどのように行うのですか?
最初に3〜4回かけて評価を行います。ビデオモニタールームで親子のインタラクション(相互作用)を測定し、親御さんがお子さんにどういうイメージを持っているかを面接で聞き取ります。評価結果をフィードバックし、課題があれば適切な治療法を提案します。治療は週1回から2週に1回、45分ずつ行います。一つは行動に直接介入する方法。親子のやりとりをビデオで撮影し、一緒に見ながらより良い関わり方を話し合います。もう一つは親御さんの心に焦点をあてる方法です。親御さん自身が育てられた時の葛藤が子育てで再燃することが多いので、その葛藤を聞き取り軽減することで親子関係の改善を図ります。愛情の与え方に悩むケースも含め、アプローチ対象となる範囲は広いです。
患者さんへの心理的サポートについて教えてください。

心療内科・精神科外来では薬物療法も行いますが、薬だけで十分なサポートができない方も多くいらっしゃいます。心理的な葛藤を持っている方には、心理療法やカウンセリングが必要だと考えています。私たちはこれを非常に重要視していて、心理士を8人雇用し、充実した体制を整えています。薬物療法だけで改善が見込める場合もありますが、人によっては心理的なサポートが重要な意味を持ちます。また、成人の患者さんを診る時も発達の視点を大切にしています。その人がどうやって生きてきたかを重視し、家族歴を聞いたり、小さい時のことを伺ったりして、必要があれば心理カウンセリングをお勧めします。1回きりでなく、1年、2年、3年と継続的に関わることも多く、患者さんの人生に寄り添う治療を心がけています。
早期受診と地域連携で心を支える
診療で大切にされていることは何ですか?

やはり医師として、なんとか患者さんのお役に立ちたいという思いがあります。苦しんで来られた方に、薬であれ、心理療法であれ、乳幼児医療であれ、少しでも楽になっていただきたい。そしてもう一つ大事にしているのは、患者さんが今どういう状態にあるのか、そしてこれからどのような治療を行っていくかをしっかり説明すること。精神科や心療内科の治療は、一般の人にはわかりづらいところがあります。薬を処方されても、これが体や心にどう作用するのか不安になりますよね。ですので、できるだけわかりやすい言葉で、どういう治療でどう改善をめざすのか、治療プランを説明し、了解していただいてから始めます。治療の目標を患者さんと共有し、一緒に進んでいくことが重要なのです。小さなお子さんでも、成人の患者さんでも、その人にとって何が最適かを考え、丁寧に説明しながら進めていく。これがクリニック全体で大事にしていることです。
地域貢献への取り組みについてお聞かせください。
先ほど県内の児童相談所と連携し、虐待された乳幼児と親御さんの関係性の評価を行っているとお話ししました。虐待・ネグレクトという極端なケースですが、評価後は治療につながるケースもあり、地域への重要な貢献だと考えています。また、地域の保健師さんとの連携も大切にしています。子育て支援課との情報共有により、大変な思いをしている方たちをネットワークで支えることができます。「もう手が出そう」「本当に苦しい」という時には、すぐに来ていただければなんとか手助けしたいと思っています。乳幼児の保護は私たちの重要な仕事の一つです。主役は児童相談所ですが、評価というかたちで専門性を生かして貢献しています。
読者へのメッセージをお願いします。

精神的、心理的に悩んでいる方は多いと思います。そういう時、当院のようなメンタルクリニックをぜひ役立ててほしいと思います。初めての方は少し勇気が必要かもしれませんが、決して敷居は高くありません。苦しいと感じたらできるだけ早めに来ていただきたいです。初期のうちだと早い改善が見込めますし、仕事を休まずに続けながら治療できることも多いです。受診して「治療は必要ないですよ」と言われれば、それが安心につながります。本人が困っているのか、周りの方が困っているのか、その両方か。どれかに当てはまれば一度受診を考えてみてください。私は家族との時間を大切にしながら、この仕事を続けています。家族の大切さを実感しているからこそ、皆さんの家族関係や心の健康のお手伝いができると信じています。困ったときには気軽にご相談ください。