山城 真理 院長の独自取材記事
やましろ内科クリニック
(所沢市/東所沢駅)
最終更新日:2025/09/26

高齢化が進む現代、在宅患者の生活を支える訪問診療のニーズは高まるばかり。そんな中、2018年9月、東所沢地域に「やましろ内科クリニック」がオープン。院長は、日本腎臓学会認定の腎臓専門医であり、約7年間の訪問診療経験を持つ山城真理先生。いつでも「患者の話を聞く」ことを第一に、外来で高血圧や糖尿病、高脂血症の予防・管理や更年期障害の相談を行う一方、積極的に訪問診療も行っている。山城院長に、開業したきっかけや医療への思いを聞いた。
(取材日2018年10月17日/更新日2025年9月18日)
出産・子育てを通じて得た感覚がかけがえのない財産に
どんなきっかけで医師をめざされたのですか?

最初のきっかけは父ですね。私が生まれた時から「この子は医者にさせたい」と言っていて、産院の先生に「女医さんは結婚・出産があって続かないから無駄だよ」と言われるほどだったそうです。そういうプレッシャーの下で育ったんですが、理数系で医療には興味がありましたし、誰かの役に立てる仕事はいいなと感じたことや「女性でも、出産や育児があっても一生続けられる仕事についてほしい」との両親の強い希望もあって、中学に入学した頃からは、自分でも医師になれたらなと思うようになりました。ただかなり大人しい性格だったので、医学部に進んでもなお、本当にこの仕事は自分に合っているのかと悩み、苦労したこともたくさんありましたね。けれど、2年間の研修医生活で自分の意見を伝える大切さや楽しさを知り、先輩のドクターや患者さんに認められる経験も積んだことで鍛えられ、この仕事が好きだな、一生やっていきたいな、と思うようになりました。
総合病院で働きながら、出産・子育ても経験されたのですね。
ええ。川越の埼玉医科大学総合医療センターで研修を終えた後、同院の腎・高血圧内科へ。3年後ぐらいに上の子の出産で1年お休みし、復帰して2~3年働いた後、もう一度休職・出産しました。その後、子どもを預けて働けるように埼玉石心会病院に移り、子育てをしながら約7年間、透析治療を中心に診療に携わってきました。医師としてのプライドやモチベーションを維持したまま、出産・育児を乗り越えていくのはやっぱり本当に大変で、1年間前線から離れて復帰する際は、能力や技術はもちろん、コミュニケーションの取り方や空気の読み方もわからなくなっていることに強い恐怖感がありました。出産・育児はそれだけ大変ですが、一方で、子どもを通じて医師として以外の立場でいろいろな人と話し、どんな医師に診てほしいと思うかを直接聞けたのは、とてもいい経験だったと思います。貴重な体験をさせてもらった分、頑張らなくちゃなという思いです。
なぜ開業に踏み切られたのでしょう?

子どもがある程度成長したこともありますが、開業の一番のきっかけは父の死でした。前立腺がんで、気づいた時にはすでに骨や脳に転移しており、入院からわずか10日で亡くなりました。その経験から、末期がんの患者さんを診る自信も、緩和ケアに携わる勇気も自分にはないと感じましたが、自宅のベッドで最期を迎えたい方の力になれたらと思うようになったんです。父は私がいつかこの地で開業することを願っていましたし、暮らす町で在宅診療を行うことにも自然と前向きになれました。その思いを形にするため、石心会病院と並行して川口市の在宅専門の医師のもとで5年間学び、開業前の2年間は所沢市の先生のもとで修行を積みました。現在は外来診療と並行して訪問診療にも力を入れており、週2回の午後を中心に毎月約40人の患者さんを受け入れられる体制です。時間が許す限り他の曜日や時間帯にも対応し、患者さんの暮らしに寄り添う診療を心がけています。
訪問診療も外来も、患者の話を聞くことから
診療の際に心がけていることは何ですか?

患者さんの話はしっかり聞くようにしています。例えば、「頭が痛い」という方でも、よくよく聞くと「数ヵ月前にも同じような症状を起こしていて、病院で薬をもらったけれど効かなかった」ということもあります。すると同じ薬を出すのは避けられるし、何度も繰り返すなら慢性疾患やアレルギーの可能性も考えられたりと、診断が変わることも結構あるんですね。話の途中、何度も「これは言っても無駄だと思うけど……」と言う方がいらっしゃいますが、全部聞きたいし話してほしいと思っています。病気を治すのは薬だけではなく、悩みを話し、解決することで気持ちが変われば、体にも良い変化が訪れることは少なくありません。そんな診療ができるのがクリニックの良さだと思うので、混雑により少しお待たせしまうこともあるとは思いますが、患者さんとのコミュニケーションを一番大切に診療を行っています。
外来診療で力を入れている分野は?
高血圧や糖尿病、高脂血症、骨粗しょう症の治療・予防に加え、更年期の女性の悩みにも寄り添えたらと思っています。私自身も更年期を迎え、同じ悩みを持つお母さん方と共感することが増えました。子育て経験のある立場として、育児の相談も微力ながらお受けしています。地域に根差した医療をめざし、開院から約7年。今では3世代で通ってくださるご家族もいらっしゃり、一緒に成長を感じられることは私にとっても大きな喜びです。また、男性の患者さんの中には「食事や運動が大切なのはわかっているけれど、営業の仕事で昼はおにぎりしか食べられない」といった方も多く、そうした方には生活スタイルに合わせたアドバイスを行っています。皆さん、実はご自身でも答えを持っていることが多いのですが、一人で頑張るのはなかなか続きません。だからこそ、「その方法で頑張っていきましょう」と励まし、寄り添える存在でありたいと思っています。
訪問診療では、どんなことを大事にされていますか?

「患者さんに丁寧に説明する」などは外来診療と同じですが、お薬が残っていないかには常に気を配って、普段の食事や寝る場所、生活の様子全般を確認するようにしていますね。例えば、毎食後に飲む薬を出していたとしても、「実はこの薬は合わないと思っていて」とか「1日1食しか食べないから」など、さまざまな理由で服用されていないことは本当に多いんです。それがわかれば、薬を変えたり、1回にまとめたりすることもできるのですが、「薬を飲んでいないのがバレると悪い」と考えて隠している人もいるので、お話していかないとなかなかそこまでたどりつけません。だから、うるさいと思われるかもしれないんですが、せっかく行くからには患者さんやそのご家族ともしっかりお話しして、衣食住全部を見させてもらっています。
自身の体に目を向けるきっかけを提供したい
院内の検査体制についても教えてください。

高血圧や糖尿病、高脂血症の患者さんがかなり多いため、その方たちがある程度自分の血管の状態を知ることで、食事や運動療法への関心を高めていけるように頸動脈エコーに力を入れたいと思っています。血圧や糖尿は「今回は数値が下がったからいいや」という人が多く、「上がったり下がったりを繰り返しながらも動脈硬化は進行していて、結局は心筋梗塞や脳梗塞に結びついてしまう」ということをお話しても、数値だけではなかなか実感を持ってもらえません。けれどエコーで実際の血管の状態を見て、脳の動脈や心臓の動脈もほぼ同レベルだと知れば、真剣に考えられるかもしれませんよね。もちろん何か見つかったら地域連携を組んで病院を紹介します。この頸動脈エコーの検査をすることで慢性疾患の予防や悪化防止のための意識づけの材料の一つになればいいですね。この他、腎疾患や急性期の腹部の検査でもエコーを使っています。
これから、地域の中でどんな場所になっていきたいとお考えですか?
散歩のついでにふと立ち寄って、ちょっと血圧を測ったりお水を飲んだりしてもらったり。それぐらい誰でも気軽に入ってもらえるコミュニティーの場でありたいなと思います。余力があれば、待合室でお茶会や相談会なども開き、患者さんが気軽に相談できる関係性を築いていきたいですね。
最後に、地域の方々に向けて一言メッセージをお願いします。

診療時間は限られているので、時間のある限りではありますが、いつまでもできる限り患者さんの悩みは聞きたいし、そこから改善策の提案や治療に結びつけられればと思っています。来てくれるすべての人に「自分の家族ならここまで検査したい」「身内ならこの地域連携に結びつけてあげたい」と思うことをしてあげたい、それを診療につなげていきたいと思っています。