渡邉 健二 院長の独自取材記事
らららこどもクリニック
(鹿児島市/都通駅)
最終更新日:2021/10/12

JR鹿児島中央駅から徒歩6分の「らららこどもクリニック」。2017年の開院以来、一般的な小児診療に加え、発達障害を含めた神経系疾患や重症心身障害児者の外来診療や、受診が困難な子どもの訪問診療を含めた小児在宅医療に力を注いでいる。院長の渡邉健二先生は、北海道大学農学部を卒業後に、鹿児島大学医学部に進んだ経歴の持ち主。物静かな語り口でとても丁寧な印象のドクターだ。小児科医療に力を尽くすべく、クリニックでの診療と訪問診療に力を注ぐ渡邉院長に、医師の道に進んだ理由や小児医療にかける想い、診療の際に心がけていることなど、たっぷり聞いた。
(取材日2021年6月3日)
医学の力の恩恵を受け、新たに医師の道をめざす
北海道大学農学部を卒業後、鹿児島大学医学部に入学されましたが、なぜ方向転換されたのですか?

何回か骨折をしたことがきっかけです。大学の時に住んでいた寮の行事で雪山に飛び込むジャンプ大会があり、背骨を圧迫骨折しました。他にも事故で右手を骨折したこともあります。その骨折はギブスで固定すれば済むものではなく、手術をしてもらったのですが、そうしなければ、おそらく右手が使えていません。右手に不自由なく生きられているのは医学のおかげです。「医学の力はすごい」と純粋に思い、医学の分野に携わりたいと思ったのが方向転換の理由。鹿児島大学を選んだのは、再入学者に対して比較的門戸が広かったこと、北海道の次は九州に憧れたため。小児科に進んだのは全身を診ることができる科だったからです。
医学部を卒業後、小児科に入局して育児休暇を取得されたのですね。
妻も医師なのですが、学年が下なので当時は学生でした。妻が修士時代にジェンダーの勉強もしており、育児休暇は必須と言われ、私も小児科でしたので、育児休暇を取得することにしたのです。小児科に入局する際に育児休暇の許可ももらっていましたので、環境が整った状態で取得できましたね。3ヵ月の育児休暇でしたが、その意義は大きかったです。子育ては孤独だと身にしみましたし、社会の中での存在意義がなくなってしまう、という状況を実感しました。3ヵ月の育児休暇が終わり、仕事に復帰すると、自分の気持ちが楽になりました。子育てではうつになりかねない、ということがよくわかりました。
かわいらしいクリニック名ですね。由来などをお聞かせいただけますか?
実はクリニックへの想いを伝えて名前を公募したんです。そうして選んだのがこのクリニック名。「ららら」というのは響きもいいですし、ウェブで検索しても同じ名前のクリニックがなかったので決めました。医療型特定短期入所事業を立ち上げようと最初から考えていましたので、クリニックが「ららら」、施設が「るるる」で、自分の中でしっくりきました。
一般の小児科医療に加えて、小児の神経疾患などにも力を注がれていますね。

もともと救急疾患のような場面は苦手で、患者さん、家族とは時間をかけて関わっていくことが好きでした。小児神経疾患は原因もわからない、治療法もない、段々悪化してしまう、という非常に大変な病気が多いです。そのような病気と付き合い過ごす患者さん、ご家族の不安を受け止め、少しでも和らげられるようになることが目標です。そのためにはできるだけ診断がつき、見通しが立てられることが大切かと思っています。最近はこれまで治らなかった疾患の治療法が開発され、早期発見・早期治療が望まれています。当院でもできる限り、可能な検査を行っていますが、大学病院や市立病院などの専門機関とも連携を取り、診断をしていくことを心がけています。
さまざまな不都合を抱えていても不幸せではない
訪問診療も行っているのですね。

医療的ケア児をご存じですか。人工呼吸器や胃ろうなどの医療を日常的に要する小児患者のことで、日本には2万人を超えるお子さんがいます。また小児神経疾患は徐々に悪化することもあります。さまざまな医療的ケアが施されるようになり、病気は進行しますが、元気に過ごせる方も増えています。ただそのような医療的ケアが必要になると容易に外来を受診することもできなくなります。自宅で診てもらえる、ゆっくり話を聞いてもらえる医師が必要な状況になってきました。院内で待つだけではなく、訪問診療をして、小児の在宅医療を支えていきたいと考えています。
クリニックの理念についてお聞かせください。
医療的ケアを受けている子どもはさまざまな不都合を抱えながら過ごしていますが、決して不幸せではないと考えます。五体満足でも自死してしまう方もいます。そんな中で言葉は出ませんし、寝返りもできなくても、家族に愛され常にニコニコしているお子さんを見ると、この子は本当に幸せなんだな、この子になりたいなと思ってしまいます。そのようにお子さんを育てられるご家族も尊敬します。そのようなご家族に接する中で、当院の基本理念「生んでくれてありがとう、生まれてきてくれてありがとう」ができました。子どもの能力はさまざまですが、それぞれが大きな可能性を持っています。一人ひとりの「子どもが健やかに成長し、もてる能力を最大限に発揮する」こともあげています。また子育てが孤独にならないために「子育てをする両親・家族も、社会の一員として生活・活動する」、「子どもの成長を通して、創造的な社会・未来を実現する」こととしました。
その想いが、医療型短期入所サービス「るるる」の設立へとつながるのですね。

「るるる」は、重度の障害がある方を対象とした日中のデイケア施設です。医療的ケア技術の進歩によって、以前は自宅で過ごすことができなかった方も、自宅で家族と一緒に過ごすことができるようになってきました。しかし重度の障害がある方は自立した生活が困難であり、日常的に必要なケアをご家族だけで行っていくには限界があります。「るるる」は、重度の身体的困難を抱えたお子さんを預かり、ご家族が安心して過ごすことができるよう想いを共有してサポートしています。
患者のニーズや想い、不安を一緒に解決していく
診療の際に心がけていることはありますか?

来て良かった、安心できたと思って帰っていただきたい。そのためには子どもや親御さんそれぞれにどのような不安があり、何を求めて来院されているのかを第一に考えます。発達障害の子どもを診る機会が増えていますが、子どもと親のニーズがずれていることがよくあります。それを擦り合わせていくこと、ほとんどの場合、患者さんが「どうしたいか」という答えを持っていますので、それを言語化し、うまくやれることを一緒に考え、引き出すよう心がけています。この子たちが将来親元を離れ、独り立ちできるベースをつくっていかなければいけませんから、焦らず長いスパンで考え、成功体験を積んでいくことが大事です。
プライベートについてお伺いします。先生の子ども時代のお話、そしてお休みの日のお話をお聞かせください。
子どもの頃は内弁慶で人前に出るのが苦手でした。基本的にはあまり喋らないタイプです。背も低いといったコンプレックスの中、隅っこで隠れて生きていこうと思っていたくらい。大学で北海道に行き、寮で暮らすことで大きく変わったと思います。例えばヒッチハイクで北海道から鹿児島まで何度か往復したり。無理だと思っていたことも自分が動くことでできることがたくさんあると実感しました。今も人前に出ることは苦手ですが、仕事柄、そうも言ってられない状態もあり、必要な時には勇気を出しています。また、妻と出会ったことで前向きになれるようになった気がします。休みはあまりないのですが、映画や釣りに行ったりします。子どもが小さい頃はよく一緒に行きましたが、もう大学生になりました。
今後の展望、読者へのメッセージをお願いいたします。

在宅医療を支えていきたいというのが大きな柱です。子どもはいずれ大人になります。その方たちの社会での居場所を作りたいのです。そのために安心して過ごせる施設を拡充したり、他施設とも連携を深めること、訪問診療を増やしていったりという方向を考えています。発達障害の診療は非常にニーズが高く、常に予約がいっぱいで初診は3ヵ月待ちの状態が続いています。療育の必要性とともに、子どもさんやご家族の困りを笑顔に変えていくことを目標に、2021年5月に療育施設「児童発達支援教室ゆるゆる」を開設しました。患者さんのニーズや想いを受け止め、一緒に解決していきたいという姿勢で診療に取り組んでいます。子育てに対する悩みなど、お気軽にご相談ください。