中井 秀典 院長の独自取材記事
ひなたクリニック
(鹿児島市/谷山駅)
最終更新日:2022/08/19
JR指宿枕崎線の谷山駅から徒歩4分の場所にある「医療法人千寿会 ひなたクリニック」。訪問診療と訪問看護が特徴のクリニックだ。中井秀典院長は明るく気さくで、言葉の端々から患者に対する奉仕の精神が感じられる優しい先生。専門の呼吸器外科のほかに内科や外科、麻酔科、精神科で豊富な経験を積み、2017年に同クリニックを開業した。2021年4月には併設の訪問看護ステーションあさがおを立ち上げ、通院が難しい高齢者などに対して診療と看護の両輪でサポート。院長の優しい人柄を慕い信頼を寄せる患者も多い。院長の理念に共感して集まったスタッフとともに、クリニック全体で日々研鑽に励んでいるという。温かい人柄で患者やその家族に寄り添う中井院長に、患者への思いや今後の展望を語ってもらった。
(取材日2022年6月11日)
さまざまな経験を積み在宅医療の道へ
まずはクリニックの特徴について教えてください。
当クリニックの特徴は、訪問診療・訪問看護・外来診療の機能をワンストップで備えていることです。半径16km圏内が訪問可能なエリアで、定期的に通院することが困難な患者さんや高齢者のために、車でご自宅や施設に訪問して診療や看護を行います。在宅だけでなく外来診療機能も備えている理由は、持病の通院のためにいくつもの病院を回っている患者さんたちから「1ヵ所で済ませられたら助かる」といった声が多かったからです。また、通院が困難になった場合でも、在宅医療への移行がスムーズだと考えました。現在は、水曜の午前中のみ予約対応で、状態を観察しながら、薬の処方などを行っています。当クリニックの強みは内科だけでなく幅広く診療できることですから、患者さんにも便利に使っていただけると思います。
在宅医療とは具体的にどんなものでしょうか。
大学病院などから要請を受けて、患者さんのご自宅や高齢者施設などを訪問して診療しています。急性期を脱して自宅で療養される方や、通院が困難なケースが多いですが、中には病院と在宅を行ったり来たりされる方も。患者さんの疾患や症状は本当にさまざまで、脳梗塞の後遺症のケアから筋萎縮性側索硬化症(ALS)、心不全や腎不全、がん末期の疼痛コントロールなどもあります。病院では短期間で治療を行うメリットがあり、在宅ではその人らしい生活を続けながら診療を受けられるメリットがあります。それぞれの良さを生かしながら連携しています。
訪問看護ステーションあさがおについて教えてください。
開業してからしばらくは外部の訪問看護ステーションと連携していましたが、やはりクリニックと訪問看護ステーションは同じ場所にあったほうがいいと考えるようになりました。私の理念に共感してくれるスタッフたちと、訪問看護ステーションあさがおを立ち上げました。訪問看護のスタッフは医師に同行して診療補佐をするとともに、独立して患者さんの対応も任せています。日常の看護から点滴などの医療処置、認知症のケアなどを行います。夜間対応が大変なときもありますが、みんな勤勉で患者さんのためにスキルアップを図っています。そんなスタッフたちから学ばせてもらうことも多いんですよ。スタッフは現在6人ですが、これからも増やしていく予定です。
院長の開業までのご経歴をお聞かせください。
実はちょっと変わっているんです。鹿児島大学医学部時代には外科医を志していました。けれども卒業の年に、病気により足の手術を行ったんですね。松葉づえでの生活が続き、すぐには外科的な仕事は無理だと思って進路を考えるようになりました。また、その頃、友人が精神疾患を発症したこともきっかけで、鹿児島大学医学部神経精神科に進みました。その後は、東京の三井記念病院麻酔科、国立がんセンターでは外科に従事。また、鹿児島に戻ってきてからは今給黎総合病院の呼吸器外科部長を経て、市比野記念病院や中木原病院、中山生協クリニックで内科や在宅医療を学び、今は地縁のあるこの地で開業しています。
24時間365日対応可能な体制をめざして
どうして在宅医療に携わろうと思われたのですか。
内科を勉強するためにクリニックで非常勤の医師をしていた時に、在宅医療の魅力に気づきました。患者さんにしっかり寄り添いながらお役に立てることが素晴らしいと思ったんです。もちろん在宅医療だけで対応できないこともありますので、その場合は病院と連携して「ここまでは自分で、ここから先は病院」という線引きはしっかりしています。訪問診療では医師が家庭に入っていきますから、ときには患者さんとご家族の調整役になることもあります。例えばがん末期の患者さんでは、医療でできることが必ずしもご本人の要望と一致するわけではありませんよね。ご家族が医療的措置を望んだとしても、ご本人が望まない場合は私が間に入って調整します。非常に神経を使いますし楽ではありませんが、これも医師の大切な仕事の一つだと考えています。
印象深い患者さんとのエピソードを教えてください。
慢性閉塞性肺疾患という呼吸困難が徐々に進行する疾患の患者さんが印象的でした。度重なる入退院のせいで「もう入院したくない」と、私が訪問診療で担当することになったんです。医師として患者さんの命を守りながらご自宅でなるべく快適に過ごせるように、夜だけ人工呼吸器をつけて呼吸筋を休ませることにしました。最初は会話もままならない状態だったのが、生活指導などの成果もあって、少しずつ筋肉もついて病状が安定に向かったことがうれしかったですね。とはいっても順調だったわけではなく、2ヵ月に1度くらいの頻度で夜間対応に駆けつけたり、普通であれば入院が必要な状況が何度もありました。患者さんご本人の意志を尊重しつつ、医師としてできる限りのことをしていきたいと考えています。
診療する上で大切にされていることはありますか。
自分の担当した患者さんは、24時間365日責任を持って診るということ。これは、私が国立がんセンターに所属していた時の院長から影響を受け、今も私の医療スタンスの基盤になる考え方です。当時、すでに60歳を超えておられた院長ですが、毎朝6時半には必ずご自分の患者さんを診に行かれるんです。たとえ年を重ねても、院長という立場になっても、「自分の患者は自分で診る」というスタンスに衝撃を受けました。開業して院長になった今でも、担当する患者さんはできるだけ自分で診たいと思っています。夜間や休日対応は当時から変わらないスタンスなので、体力的な問題はあっても、精神的には不思議と苦にはなりません。
絶え間ない努力で地域医療に奉仕したい
スタッフや外部機関との連携についてはいかがでしょう。
スタッフには、「常に他と比較しながら、絶え間ない努力でより良い医療、看護、介護を患者さんに提供すること」を理念として伝えています。幸いなことに当クリニックのスタッフはみんな熱心に患者さんのためを思って対応してくれています。訪問診療、訪問看護の特性上、外部のさまざまな機関との連携は欠かせないので、情報共有に努めています。チャットツールなどを活用し、患者さんの状態をタイムリーに共有できる体制をとっています。本当に緊急のときは電話で応対しますが、連絡に追われないようにこういったITツールを活用してテキストでのやりとりを基本としています。
とてもご多忙ですが、どのようにリフレッシュされていますか。
毎週1日必ず休めるということはないので、1日の中で何もしない時間を確保してリフレッシュしています。休日もゆっくり休むというより趣味で頭を切り替えるほうが好きで、学生時代から多趣味なタイプでした。最近はギターとボーカルの教室に通っていて、機会があれば訪問先の施設などで患者さんと一緒に歌を歌いたいと思っています。認知症でなかなか会話ができなかったり、ご趣味がなかったりする方でも、案外、昔の曲は覚えていらっしゃることがあるんですよ。いつか患者さんが喜んでくれることを夢に見ながら、コツコツと練習しています。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。
これからも在宅療養支援診療所として地域の患者さんのお役に立ちたいと思っています。ケアマネジャーやスタッフ、事務部門をさらに充実させ、供給力を上げていく方針です。また、院長の私にとっても地縁のあるこの谷山地区で、地域のお祭りのお手伝いなどの活動にも奉仕していけたらうれしいです。当クリニックでは、地域に奉仕して地域に学んで地域に育むことをモットーにしています。この地域で、しっかりと役割を果たしていきたいと思います。