清水 佑一 院長の独自取材記事
しみず歯科醫院
(大和郡山市/筒井駅)
最終更新日:2024/12/13

「地域の営みを壊したくない」と力強く語る清水佑一先生が院長を務める「しみず歯科醫院」は、近鉄橿原線・筒井駅より徒歩5分ほどの場所にある。医療への信頼と限界のどちらをも経験し、歯科医師を志した清水院長。高齢になった父の姿や、歯科医院が不足している故郷の課題を知り、継承を決意。歯科医院としての職務はもちろん、地域を少しでも活気づけたいと自身の役割を模索してきた。患者が自分の体に興味を持ち、通院のモチベーションを形成できるよう丁寧な説明を心がける清水院長。その背中を見て積極的にコミュニケーションを図るスタッフも、同院の診療において重要な一翼を担う。「歯科の領域にとどまらない健康づくりのサポートをしたい」と語る清水院長に、同院の歴史や継承のきっかけ、地域への思いなどを聞いた。
(取材日2024年10月24日)
地域の課題と向き合い、この地で歩むことを決意
まずは、先生が歯科医師をめざしたきっかけから教えてください。

もともと、父がこの場所で歯科医院をしていましたが、歯科医師になるよう言われたことはありませんでした。母が教師だった影響もあり、一度は教育の道を志し大学に入学。そんな中で手首を骨折する大けがをしたのです。緊急性の高い状態で即座に整復してもらったことに大きな感動を覚えました。一方で、子どもの頃からアトピー性皮膚炎を患っていましたが、なかなか改善することがなく、「お医者さんに行けば治る」と思っていたのに長らく変化しない状況に医療の限界を感じていたんです。急性的な外傷と慢性的な疾患両方を経験したことで、「なぜなのか」という疑問が湧き、医学や人間の体の神秘性について学んでみたいと思い、医学の道を志しました。
そこから同院を継承されるまでの経緯をお聞かせください。
愛知の大学を卒業後、県内の大学病院や歯科医院で研鑚を積みました。愛知は地元に戻らず開業される先生も多いのですが、基本的に歯科医院の数が多く、自分が愛知で開業する必要性を感じなかったんです。奈良に戻ってこようと考えたのは、地元に貢献したいという思いがあったのはもちろんですが、それ以上に、この地域に歯科医院が少なかったからです。世の中では、コンビニよりも歯科医院のほうが数が多いといわれることがありますが、それはあくまで都心部での話です。地方では単位人口あたりの歯科医院が少なく、あまり開業場所として選ばれない地域があるのです。この辺りは工場地帯や住宅街があり、人は多く困っている人もいるはずなのに、歯科医院が少ない、増えないという状況を目の当たりにし、この地で何か人の役に立てるのではないかと思いました。
地域の課題と役に立ちたいという思いが合致したのですね。

そうですね。ただ、2017年に歯科医院を継承しましたが、最初はとにかく患者さんの口腔内の状態が悪いという印象を持ちました。「歯科医院は痛くなってから行くもの」、つまり緊急性がなければ行かないという考えの人が多いんですね。メンテナンスや歯をケアすることの重要性が周知されず、父も「長年、歯を磨くことが大切だと言い続けてきたけど変わらなかった」と嘆いていました。これではいけないと思いましたね。加えて大和郡山市には若手の歯科医師が少ないことも課題だと感じました。長く開業している人は高齢になり、若い歯科医師が入ってこない。ほかの業種でも同じことが起こっていて、お店や歯科医院がなくなればどんどん人が減り、地域が廃れる原因になってしまいます。私がこの場所で仕事をすることで保てるものがあるならば、有益だと考えたんです。父も高齢になっていたので、地域の営みを壊したくないという思いが原動力でしたね。
重要なのは患者のモチベーション形成
院名にこだわりがあるとお聞きしました。

継承のタイミングで、名称を「しみず歯科醫院」と変更。この「醫」という字は、対症療法だけではない医療の全体像を表していると考えています。例えば、虫歯ができた場合、口腔内の衛生状態や噛み合わせの問題、唾液の状態、呼吸の状態、食の嗜好からどんな食べ方をしているのか、口の中だけでなく姿勢や筋肉、骨格、さらには人間関係や生活環境、習慣、仕事内容などさまざまな影響を考え、治療にあたれるように、という思いからこの漢字を選びました。ちなみに、当院のロゴは前院長の時代からあるもので、考案したのは口腔解剖学の教授をしていた祖父です。
診療する上で大切にしていることを教えてください。
一番は「自分の体に興味を持ってもらうこと」です。奈良に戻ってきてすぐの頃、治療に関して希望を聞いた時に「お任せで」と言われるケースが多いことにショックを受けました。自分が飲んでる薬について知らない方が多く、驚きました。治療が必要になっている以上、必ず原因があるはずですよね。いかにモチベーション形成をし、あくまでも自分で治すという気持ちを持続してもらえるか。患者さん自身が自分で対応できるように手伝いをするのが、歯科医師の役割だと思っています。また、メンテナンスの習慣がなく、ご自身の歯の本数を知らない方も多いです。定期的なケアの重要性や、汚れがたまりやすい箇所などを一つ一つ伝え、どこにリスクがあるのか意識してもらうことを重視しています。
根気強く伝えていくことで、モチベーションにつなげていくのですね。

はい、もちろん限界はありますが、話をしたり、治療を経験したりすることで意識が変わるきっかけをつくれればいいなと思っています。外科的処置を行ったことで「こんなに大きな手術をしなければいけなかったのか」「これだけの処置を受けたのだから、これ以上は悪くしないように気をつけよう」と、日頃のケアのモチベーション維持につながればうれしく思います。実際、大がかりな治療までいかずとも、進行しないように頑張りましょうと声をかけ続けた結果、定期的に来院してくださる方が増えてきているんですよ。また、歯科衛生士が丁寧なコミュニケーションを心がけてくれていることも大きなポイントだと思います。ブラッシング指導の時間をしっかりと取りながら、今の状態をどれくらい把握しているか、どの程度の治療を望んでいるかなどを確認し、患者さんのモチベーション形成のために重要な役割を担ってくれています。
心強いスタッフとともに全身の健康づくりのサポートを
スタッフさんについても教えてください。

20代~60代までさまざまな年代がいますが、穏和な人が多くスタッフ同士の仲は良いと思います。地域での役割について常々考えてきましたが、雇用を生むことも歯科医院の役割だと思っています。父の代から働いてくれている年配のスタッフも、常勤の人とは仕事内容が違うものの、ベテランならではの経験値を生かして活躍してくれています。私はどちらかというと「背中で語るタイプ」。厳しく指導するのではなく、私が普段から患者さんに行っている説明をスタッフが聞き、同じ方向性で積極的に話をしてくれています。人と人との関係を大切にするスタッフが集まっており、地域の方のコミュニケーションの場としての機能も果たせているのではないかと感じています。
今後の展望を教えてください。
今後は、より一層全身をしっかり診るためのプランを具現化していきたいと考えています。現在、栄養学や骨・筋肉に関わる勉強をしており、歯や噛み合わせの状態を見る上で、全身の骨格や筋肉の状態を見る重要性を学んでいます。そして重視したいのは食事指導です。普段から口にしているものの偏りを細かくチェックするなど、カウンセリングの時間を十分に取れればと計画中です。歯科の範囲にとどまらず、全身の健康をサポートできるような体制を整えていきたいですね。ちなみに当院ではファスティングの指導も行っております。興味のある方はご相談ください。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

口は全身の健康の入り口です。昨今、歯周疾患と糖尿病や認知症など、さまざまな全身疾患とのつながりが指摘されています。歯が悪いだけですぐに命に関わることはないものの、より健康に生きていくためには重要な役割を果たしています。病気になってから対策するよりも、いかに普段から気をつけておくかが大切ではないでしょうか。全身の健康との関係を念頭に置きながら、歯科の領域から健康づくりのサポートをさせていただきます。患者さんが望むことを第一に考えた無理のないご提案を心がけているので、まずは怖がらずにご相談にいらしてください。