太田 真弓 院長の独自取材記事
クリニックおおた
(横浜市磯子区/新杉田駅)
最終更新日:2025/06/24

新杉田駅と杉田駅から徒歩約10分の場所にある「クリニックおおた」は、児童精神科の診療も行う小児科クリニック。同じ建物の2階にある精神科、3階の放課後等デイサービス施設とも連携し、乳幼児から大人まで幅広い患者を支えている。「思春期には思春期の、成人すれば成人した時の問題がそれぞれ出てくるので、赤ちゃんから大人まで縦断的に診させていただける環境をつくりました」と太田真弓院長。2017年8月の開業から2ヵ月だが、遠方から足を運ぶ人も多く、発達テストには多くの予約が入っているという。すでに多くの地域住民に慕われているクリニックがこの場所に造られた経緯から、診療に際しての心がけまでさまざまな話を聞いた。
(取材日2017年10月3日)
小児科診療をメインとしつつ幅広い悩みに対応
開業の経緯をお聞かせください。

私は神奈川県出身で研修も横浜市でしたので、慣れ親しんだ横浜市内か、前職で勤務した都内のどちらかで開業先を探していました。そのタイミングで、前職で一緒だったドクターのご実家がやってらした平屋のクリニックを3階建てに造り替え、地域の患者さんや発達障害がある方をビル全体でトータルに支援していこうという話を持ってきてくださり、それに賛同するメンバーの一人としてここに開業したんです。ビルオーナーのドクターは今、2階で精神科診療をやっています。3階の放課後等デイサービス施設は、行政上の都合で別組織になっていますが、そこの代表やスタッフも前職で一緒だった人ばかり。前職でやっていた発達障害がある方たちをトータルで支える活動を、人員とシステム丸ごと、この場所に持ち込んだ形ですね。
クリニックを造るにあたってこだわった部分はありますか?
院内を温かみのある雰囲気にしたかったので、内装には木目をできるだけ使うようにしました。待合室や診療室には、ファブリックの椅子だけでなく、座れる切り株もたくさん置いています。座りたがる子もいれば嫌がる子もいますが、座面のシールがだいぶこすれているのを見ると、よく利用してもらっているのだなと思います。もう一つこだわったのは、院内をできるだけシンプルにしたこと。一般的に、小児科の院内というと「かわいい」イメージで、アニメや子ども番組のキャラクターをあちこちに置いていることが多いと思いますが、当院ではかわいいものがたくさん置いてあると気が散ってしまう子もいるかなと思い、最小限にしました。
診療で心がけていることをお聞かせください。

目の前のお子さんに合わせて、話すトーンを変えるということです。静かにしゃべる子には割とはきはき、直接的に伝えるように。元気な子には逆に、声のトーンを落としたり、ほとんど聞き取れないくらいのボリュームで話したりすることもあります。また、はっきり具体的に伝えることも心がけています。具体的にというのは、「あーんして」ではなく「お口を大きく開けてください」などということです。同時に、今から何をするのか予告して、心の準備ができるよう心がけてもいます。例えば、「お胸の音を聞くからシャツを上にまくってください」といった声かけですね。話し方や言葉選び次第でこちらの話の通る・通らないが違ってきますから。お母さんにお子さんの症状や治療について説明するときも、具体的にわかりやすくという点を常に意識しています。
同じビルの精神科、放課後等デイサービス施設とも連携
ビル内の皆さんとは具体的にどう連携を図っているでしょう?

2階の精神科とは、患者さんの性別や成長段階に応じて連携を図っています。当院はお子さんがメイン、2階は20~30代の方がメインなので、親子一緒に診療を受けられます。また、私は基本的にお子さんから成人まで診ますが、男の子の場合、思春期を迎えると異性である女性の医師に相談しにくいことも出てくるので、そうなったときには2階へバトンタッチしたり、初診時にどちらの担当になるのか話し合ったりしています。3階の放課後等デイサービス施設は、発達障害があり集団に溶け込みにくい子が練習のために通う施設で、私がアセスメントを行ったり個別の問題を診たりする一方、治療の参考に活動風景を見学させてもらったりしています。同年代の集団の中で、その子はどう振る舞うのか。診療室では決してわからないそうした行動を3階に上がって観察することで、学校に通う際にも適切なアドバイスができるわけです。
どんな症状の患者さんが多いですか?
鼻水・咳や腹痛などで来院するお子さんもたくさんいらっしゃいますが、感染症が少ない季節だと、初診の数では児童精神科にかかる方が多いですね。ADHD(注意欠陥・多動性障害)や自閉症スペクトラムといった発達障害があるお子さんだけでなく、不登校のご相談でいらっしゃる親御さんも多いです。児童精神科では、親御さんに説明する際、お子さんには外にいていただくようにしています。なぜなら、その内容が悪口のように聞こえてしまうことがあるからです。別日に説明させていただくことを提案する場合もありますね。また土曜日は発達障害テストを行っていますが、来月まで予約が埋まってしまい、なんとか枠を増やそうと調整中です。児童精神科にこれほどニーズがあるとは、想定していませんでした。近くに療育センターがあることと、そもそも児童精神科のクリニックが少ないため、遠方からいらっしゃる方が多いためだと思います。
児童心理学を学んだきっかけはなんですか?

もともとは循環器を希望していたので、研修後は心疾患の治療で知られる東京女子医科大学の小児循環器科で診療を行っていました。大学で先天性の心疾患を抱える子どもたちをずっと診ているうちに、思春期を迎え大人になるにつれて心の問題を抱える患者さんが増えてくることに気づいたんです。「いつ入院するかわからない体だから、進学は無理、就職は無理」と社会的な壁にぶつかり、「どうせ病気だから自分にはできない」などと自分に否定的になってしまう。でも、循環器で主治医をやっていると、心の問題まではなかなか診られません。そこまで踏み込むなら、一度循環器から離れて心理の勉強をしないと無理だなと思い、一度大学を辞めて、大学院で心理学を学ぶことにしました。
小児科の医師として、子育ての悩みにも応じる
医師をめざした理由や小児科を選んだ経緯など教えてください。

医師をめざしたのは、叔母が内科医師をやっていたこともきっかけになりましたが、女性でも一生続けられる職業がいいと思ったことが大きな理由です。小児科を選んだのは、大人よりも将来のあるお子さんを診るほうが、やりがいがあると考えたため。例えば、2型糖尿病を持つ成人の患者さんの場合、食事療法の視点で見ると良くないことでも「これだけは我慢せず食べたい」と主張されることがあります。そういう場合、私は基本的に「ご自身が良いというなら、それでもいい」と思ってしまうんです。でも、未来あるお子さんなら、「将来のことも考えて、今もう少し頑張ろうよ」と励ましたくなります。まだ先の長い人生の可能性がたくさん広がるお子さんに、やりがいというか、道しるべの一つになりたいと思ったということなのでしょう。
プライベートはどう過ごされていますか?
体を動かすことが好きなので、スポーツをしていることが多いでしょうか。以前はジョギングしていた時期もありますし、前職ではスタッフのみんなと時間をつくってテニスをやっていましたが、開業後は忙しくなってしまい、なかなか時間が取れません。健康のためにジムで体を動かす程度。ちょうどこの近くにテニスコートがあるので活用したいんですが、クリニックが落ち着くまでは難しいですね。
最後にメッセージをお願いします。

何か困っていることがあれば、すべて診させていただければと思います。気になることがあれば、ご相談ください。離乳食や授乳に関する子育て相談などでも構いません。一人で抱え込んでいては、追い込まれてしまいます。当院はお子さんの性格や行動パターン、生活環境といった普段の様子を踏まえて、一人ひとりに合った診療を心がけています。特に発達障害は、どう対応したらよいのかわからないと思います。当院は小児科をメインにするクリニックですが、風邪や腹痛などで来院された方が、自然な形で発達障害に関するご相談にいらっしゃることも少なくありません。大人の方も同様に診療できる環境が整っていますので、ご家族全員の診療の窓口としてもご利用ください。