片山 茂明 院長の独自取材記事
にじいろクリニック
(神戸市東灘区/摂津本山駅)
最終更新日:2025/09/11

摂津本山駅から徒歩8分、閑静な住宅街にある「にじいろクリニック」。院長の片山茂明先生は、子どもの頃に通っていた近所の内科医に憧れて医師を志し、地元で開業した。午前中に外来診療を行う傍ら、在宅療養支援診療所として24時間365日対応する同院は、訪問診療に力を注いでいるのが特徴だ。「呼ばれたら行こうという感じですね」と飾らない言葉で語る院長だが、その言葉の裏には「困っている患者さんとご家族を救いたい」という強い使命感があるのは間違いない。「病気の背景を探ることが大事」という恩師の教えを胸に、患者の話をじっくり聞き、問題の本質を探る診療を心がけているという。開業から9年目を迎え、地域の高齢化に応えるために奔走する院長に話を聞いた。
(取材日2025年8月27日)
24時間365日対応する地域の「よろず診療所」
こちらのクリニックは在宅医療に力を入れていると伺いました。

午前中は外来診療も行っていますが、在宅療養支援診療所として24時間365日、訪問診療や往診を行っているのが特徴です。コープこうべが運営するサービスつき高齢者向け住宅に併設されているので、「施設にお住まいの方しか行けないのでは?」と思われることもあるのですが、どなたでも受診していただけます。地域の皆さんには、「コープこうべ」のクリニックと覚えていただいているようです。在宅医療では全身状態の診察を基本に、外来とほぼ同様の対応が可能ですので、薬の処方、血液・尿検査、心電図・エコー検査、点滴、注射、褥瘡の処置などを通じて、少しでも患者さんが安心して過ごせるようお手伝いをさせていただいています。
どんな相談で訪問を希望する方が多いのですか?
現在、80人くらいの患者さんを訪問診療で診ていますが、認知症の方、脳梗塞後で意思疎通が難しい方、胃ろうを作られた方、パーキンソン病の方、特に病気はないけれど年齢で通院が困難になった方など、本当にさまざまです。がんの末期で「病院ではなく自宅で最期を迎えたい」という方もいらっしゃいます。こうしたお気持ちに応えるために、認知症ケア、麻薬を用いたがん性疼痛緩和ケア、ターミナルケア、経管栄養、中心静脈栄養、酸素療法、人工呼吸器の管理、さらには患者さんのご希望があればリスクに配慮しながら腹水穿刺などを行うこともあります。いずれにせよ、お一人お一人のお気持ちに寄り添いながらできる限りのことをしたいと思っています。
外来診療ではどのような患者さんを診ていますか?

高血圧や脂質異常症などの慢性疾患の管理を基本に、日常の相談を幅広く受けています。私の専門は糖尿病内科ですが、生活習慣病に限らず、何か困ったことがあれば相談に来ていただく「よろず相談所」のような感じかもしれません。実際、整形外科や皮膚科など内科以外の相談もしょっちゅうありますし、どんな相談でも断らずに「まずは診てみましょう」という気持ちでいます。糖尿病に関しては、若い人と高齢者ではアプローチが異なるので、一人ひとりに合わせた対応を大事にしています。特に若くて血糖コントロールがうまくいかない方は抗うつ傾向をもっている方もいるので、そういう人こそゆっくり話を聞くことが大切だと思っています。
地元で取り組む患者の背景に目を向けた診療
こちらは先生の地元だそうですね。

そうなんです。出身の中学校もすぐ近くなんですよ。程良く都会で程良く田舎というのが何とも心地良く、海も山も近くて住みやすい土地に魅力を感じていました。もともと医師をめざしたのは、子どもの時に時々かかっていた近所の内科の先生に憧れたことがきっかけです。なので、その頃からいずれは地域で診療を行いたいという思いがぼんやりとあり、この環境なら自分の思い描く地域に密着した診療ができると考えました。2016年に開業してから9年になりますが、地域の皆さんに支えられていると感じることが多く、ありがたいですね。
勤務医時代はどんな経験を積まれてきたのでしょうか?
勤務していた旧・甲南病院で恩師に巡り合えたことが大きかったですね。その先生は本当に忙しく休んでいるところを見たことがないくらいだったのですが、「内科は病気だけ治すのではなく、その背景に目を配ることが大事」ということを教わりました。確かに、糖尿病や肺炎の治療自体は経験を積めばスキルアップしていきますが、その方が病気になった背景を探るのはそう簡単ではありませんでした。なぜ肺炎を繰り返すのか、その方をどうやって支えていくべきか、そんなことを日々考えていましたね。また、原因を探るには、患者さん本人はもちろん、ご家族との関係も非常に大事だと学びました。
背景を探るために、先生が大事にしていることは?

とにかく話を聞くことですね。その方が何を求めているか、問題の本質はどこにあるのか、そんなことを考えながら聞くようにしています。耳が遠い方も多いので、筆談にも対応しますよ。次の方が待っていると「早くしないと」という葛藤もありつつ(笑)、できる限りゆったりとした気持ちで患者さんと丁寧に向き合えたらと思っています。中には、話を聞いてあげることで問題が解決する場合もあると思います。また、介護者が疲れてしまったら在宅生活が成り立たないので家族の方にも気を配り、必要に応じて患者さんの入院先やショートステイ先を探すこともします。
チーム医療で高齢化する地域のニーズに応える
スタッフさんについて教えてください。

これはひそかな自慢なのですが、うちはスタッフが辞めないんですよ。患者さんにとってもなじみのスタッフがいると話しやすいんじゃないでしょうか。エコーを担当する検査技師は技術力が高く信頼していますし、糖尿病の栄養指導に関しては看護師が対応してくれます。また在宅医療にあたっては、外部のケアマネジャーや訪問看護師と頻繁に連絡を取る必要があるのですが、密に連携を図っている分、午前の外来診療中も訪問看護師からの電話が多いんです。そんな時も、スタッフが電話対応をしてくれて、そのサポートに救われています。総力戦で対応している感じですね。
今後の展望についてお聞かせください。
ニーズに応えながら、今のような診療を維持できたらと思っています。あとは自分の体力と相談しながら続けられたらいいですね。開業以来、1人で24時間対応していましたが、訪問診療はかなり肉体労働なので、定年まで続けるのは無理だなと感じ、1年前から当直の先生も配置するようにしました。夜間や日曜は当直医が対応できるようにすることで、24時間365日、より安定して医療を提供できるようになったと思います。高齢者はこれからさらに増えますから、それを見据えて地域のニーズに応えていきたいですね。
地域の皆さんへメッセージをお願いします。

体調のことはもちろん、体調以外のことでもまずはご相談ください。リハビリテーションや訪問看護の相談、介護保険の申請など、ご自身やご家族の健康に関することであれば、どんなことでも構いません。訪問診療を希望される方や親御さんが高齢になって何かお困りのことがある方は、直接電話していただくのが一番早いです。こちらからケアマネジャーや訪問看護師に連絡できますから。患者さん側で手配する必要はありません。緊急性が高い場合は医療情報がなくても行くことがあります。また、関連の医療機関と連携を図り、在宅で診ている患者さんを入院につなげることも可能です。困っている患者さんとご家族のために、これからも尽力していきたいですね。