八森 淳 院長の独自取材記事
つながるクリニック
(横浜市港南区/上永谷駅)
最終更新日:2022/12/05

深田橋バス停下車すぐの場所にある「つながるクリニック」は、訪問診療と外来診療に対応するクリニックだ。地域医療に尽力した八森淳院長が「都市部にこそ包括的な医療が必要になる」と考え、2016年に開業した。現在は看取りなどの終末期医療にも対応するほか、訪問看護師はもとより、ケアマネジャーや調剤薬局、そして弁護士などと連携し、患者とその家族を取り巻くあらゆる課題の解決に力を注いでいる。今回は具体的な診療内容などついて、院長に詳しく話を聞いた。
(取材日2022年9月27日)
「届ける医療」は都市部にこそ必要だと考え、開業へ
なぜ横浜で訪問診療を行おうと思われたのでしょうか?

私は自治医科大学という、「地域のかかりつけ医を育てる」ことを目的とした大学で学びました。卒業後は地元青森に帰ってへき地医療などにも携わりました。地方の良い点は、ご近所付き合いがあることです。例えば、「誰々さんのところはお元気そうだけど、実は……」というお話を、良くも悪くもご近所さんが教えてくださるんですね。また専門的なクリニックも少ないため、結果的に総合的な医療を提供するという形ができていたんです。だからこそ高齢化が進む都市部では、今後総合的な医療、全人的な医療が必要になるのではないかと、20年ほど前から考えていました。
なので、あえて都市部で開業されたのですね。
横浜で専門的なクリニックを探すのは難しくありません。しかしその専門性ゆえに対応できる症例が狭まるので、患者さん自身がその病気ごとにクリニックや病院を探さなければならなくなります。だから当院がめざすのは、診察の上見立てをつけ、必要な時には「今あなたの状態ならこの病院やクリニックが良いかもしれないですね」と各専門医療機関につなぐ役割を担い、それらの疾患を全体的に把握し治療にあたる役割を果たす機関であることです。ただ9割の健康問題はクリニックで対応できるといわれています。私たちが訪問診療を行うこの周辺には野庭団地があり、半径1km以内に2万人ほどの方が暮らしておられます。団地は5階建てで、エレベーターがない所もあります。この環境では、高齢の方や膝腰の悪い方、脳梗塞の後遺症がある方、難病や酸素が必要な方の通院は難しいです。
訪問診療は外来診療とどのような点で異なるのでしょうか。

まずは通院することが困難な方に医療を届けられること。もう一つは先ほどの青森時代の話にも通じますが、家の中の状態がわかる点です。外来では患者さんがクリニックや病院に足を運ぶので、ある意味「よそ行き」の状態です。しかし訪問診療ではご自宅か施設にお伺いするので、患者さんの生活環境がどうなっているか、それに伴って服薬がきちんと行われているか、ご家族がどこまで患者さんに時間をかけられるのか、さらに家族間の問題や経済的な課題、介護力はどこまであるかなど、ご家族の生活全般に配慮した医療が提供できます。これらは外来診療では見えにくいので、患者さんとその方を取り巻くさまざまな課題の解決に向けて手を差し伸べやすいというメリットが訪問診療にはあると考えています。
地域にいる多職種の専門家に「つなげる」役割も担う
多職種で患者さんへのアプローチを検討する検討会の方法を開発、実践し全国で展開しているそうですね。

当院の医師や看護師だけではなく、地域のケアマネジャー、訪問看護師、調剤薬局のスタッフ、さらには弁護士など地域の専門家とチームを組み、患者さんの課題解決のためにさまざまな視点から意見を出し合い、より良い治療、そして環境へとつなげていく多職種で行う検討会の方法を新たに開発し、全国的に活用していただいています。この検討会の手法を「見える事例検討会」、通称「見え検」と呼んでいます。地域医療は、医療と介護だけでは成り立ちません。金銭的な問題や相続の問題を抱えながら訪問診療を受けている方がスムーズに治療を受けるために、金銭的な問題などを治療と並行して解決する必要もあります。その点は、医師・看護師などでは対応ができないため、弁護士さんなどのお力が必須なのです。このように多職種チームでより良い医療、より良い生活のお手伝いができるよう丁寧に取り組むのが、当院のモットーです。
終末期に向けた体制も整えられているとか。
常勤の医師は私を含め3人で、一人は自治医科大学の同級生で、感染制御、褥瘡管理、フットケアなどの専門的な知識も持つ日本外科学会外科専門医で、総合的な医療もできる先生。もう一人は、緩和ケア部門での責任者も経験された先生です。住み慣れた場所で最後を迎えたいというニーズはもとより、新型コロナウイルスにより入院後の面会が非常に困難になりました。つまり終末期で入院すると、もしかしたら次に会えるのは、最期の時になってしまう可能性もあります。苦痛や痛みを取り除いていく医療である緩和医療は私たちの得意分野です。同時に、患者さんが生きている間にできることを「見え検」で模索し、実行していくという充実した体制ができています。もちろん必要な時には、休日も夜も駆けつけられます。
つながるクリニックでは、医療のこと以外も相談できるのでしょうか?

もちろんです。遺言書の作成から相続に関することなど、ご自分の病気以外の面が一番気になるからどうにかしたいと切実に考えておられる方も、非常に多いです。例えば「見え検」で作った治療計画が、疎遠になっていたご家族との再会のきっかけになることもあるでしょう。そうして患者さんのご家族のケアまで視野に入れられるのも、私たちが行う訪問診療の特長です。また、がんなどは残された期間が予測できる病気ともいえます。ということは残された時間に何ができるかを考え、実行に移せると、ポジティブな方向に発想を転換することも可能になります。亡くなった後のケアはもちろん、生きているうちに課題を解決して家族の負担を減らしたい、見送る前にできる限りのことをしてあげたい。双方のお気持ちに添えるよう先手先手でアドバイスができるのも「見え検」で多職種が連携し、チームとして力を発揮するからこそだと思いますよ。
手の届く範囲の患者を大切に、迅速な対応を心がける
あえて訪問診療の範囲を広げないようにしているとも伺いました。

車で15分以内に収まる距離を一つの目安としています。というのも、当院は症状の重い方も診ていますので、24時間365日の対応ができる限界がそこだからです。そろそろ看取りの時期かと思われる患者さんの場合、ご家族も精神的に不安定になります。距離が近ければ「今日お伺いした患者さんの娘さん、様子が気がかりだからもう一度行ってみよう」と診療後に訪問してフォローができます。やはり患者さんご本人だけを相手にしていないのが訪問診療なので、患者さんが求める医療を提供するためにはある程度距離を絞ることも必要だと考えています。
住み慣れた場所で最後まで、という願いをかなえるために尽力されているのだと感じます。
ええ。例えばご高齢になると肺炎にかかりやすくなります。しかし、その度に入院すると自宅にいる時間は短くなります。「訪問診療で大丈夫?」と思われるかもしれませんが、訪問診療での定期的な状況把握と訪問看護師のこまやかなケアを受けることで、肺炎予防、入院予防につなげることもできるのです。また、患者さんとご家族の選択肢を増やすことができ、それぞれのご家庭の状況に応じた適切な対応も行いやすい。そうした点が、入院ではなく訪問診療を選ぶメリットといえます。もちろん入院やCT、MRIなどの検査の必要な急性期の疾患だと判断すればすぐに入院施設のある医療機関に連絡をして送ることもできます。大きな病院につなぐべきかどうかの判断を医療者が素早く行えるのも、訪問診療の大きな特長だと思います。
訪問診療だからといって、医療レベルが下がるわけではないのですね。

もちろんです。訪問診療は予防、治療、緩和の側面が目立ちますが、当院では超音波検査機器等を使い、専門的な医療の提供にも注力しています。急性期の疾患だけでなく病気や状態によっては、訪問診療と病院への通院の併用も行います。大事なのは、在宅で医療を続ける際のリスクやご家族の負担を理解していただきつつ、ご家族や患者さんの人生を守るために何ができるかを、チームで考え、支え続けること。病気や介護、制度のことや亡くなった後の手続き等、わからないことがあるのは当然のことです。だからこそ地域に根差した専門家の力を集めて皆さんが生活しやすくなるようサポートしていく私たちがいます。ぜひお気軽に相談くださいね。