美川 達郎 院長の独自取材記事
豆の木在宅診療所
(出雲市/浜山公園北口駅)
最終更新日:2025/12/25
出雲市「豆の木在宅診療所」で院長を務める美川達郎先生が在宅医療を志したのは、ある患者との出会いがきっかけだったという。美川院長は幅広い診療に対応するため、さまざまな診療科や訪問診療の現場でも経験を積み、2016年に在宅医療専門クリニックとして同院を開業した。開業後は志を同じくする市内のクリニックと協力しながら、患者がなじみの場所で自分らしい暮らしを少しでも長く続けられるよう、24時間365日連絡が取れる体制でサポートしている。「その人にとっての幸せがあります。ご本人が望まれることは最大限サポートをしたいですね」。今回は開業までの経緯やクリニックの特徴、利用の仕方などについて話を聞いた。
(取材日2025年11月17日)
最期を自宅で迎えたいという想いに寄り添う、在宅医療
まずはご経歴についてお聞かせください。

島根医科大学(現・島根大学医学部)を卒業後、いろんな科を経験して専門を決めたかったので、診療科のローテーションを取り入れている大阪の淀川キリスト教病院を選びました。当時は直接どこかの専門科の医局に入局してから配属されるのが一般的で、ローテーションできる病院は全国でも珍しかったんです。早くから緩和ケアにも力を入れている病院だったので、ホスピスも回らせてもらいました。当時は病院で最期を迎えられる方がほとんどでしたが、その中で在宅医療の存在を知り、心を動かされました。その後、在宅医療を念頭に島根県に戻り、島根県立中央病院の総合診療科の外来や病棟のほか、幅広い診療ができるよう皮膚科と整形外科も回らせてもらいました。また出雲市民病院や大曲診療所では、訪問診療というのが実際にどういうものなのかを勉強させてもらいました。
先生が医師になられた頃は、在宅医療は珍しかったのですね。

そうなんです。呼吸器内科を専門にしたんですが、当時受け持った肺がんの患者さんの中に「とにかく家に帰りたい」という方がいて。弱ってきてからも、ご本人の希望で外来で診続けていたんですよ。そうしたら、ある日突然「家で診てくれるお医者さん見つけました」と言われて。それを聞いた時は「家で診てくれるお医者さんっていったいどんな?」「そんな仕事があるんだ」ぐらいに思っていました。なので、いずれ病院に戻って来られるだろうなと思っていたら、後日「自宅で最期を迎えることができました」とご家族から教えていただいたんです。がんの場合、病院で亡くなられる方がほとんどの時代でしたから「そんなことができるんだ」とすごくびっくりしたのと同時に、在宅医療を志すきっかけにもなりました。
なるほど。それでこちらへ戻られたタイミングで在宅医療を学び、開業されたのですね。
はい。出雲市民病院で経験を積んだ後は、以前から知り合いだったすぎうら医院の杉浦先生に「在宅医療を一緒にやってみないか」と声をかけてもらって、在宅診療部というのを立ち上げました。がんのターミナル期(終末期)の人も、医療用麻薬を使った緩和ケアを取り入れて、最期まで家で診たいねという話をして。お薬が持続的に入っていく機械を使って、家で看取れるというのを始めていったんです。今はこの機械もだいぶ広まり、おうちでも結構対応できる時代になりました。開業後はすぎうら医院など市内の6つのクリニックで連携し「最期はおうちで」というニーズに応えていけるよう、協力しながら診療にあたっています。
自分らしい暮らしができるよう、最大限のサポートを
こちらはどんなクリニックですか?

出雲市の中心部から少し外れた西側や大社周辺の山あいの方々を中心に、住み慣れた所、好きな場所で、少しでも長く自分らしい暮らしができるようお手伝いをさせてもらっています。ご自宅を希望される方もいますし、ご家族の状況などから施設へ、という選択肢もあります。必ずしも家にこだわる必要はなく、患者さんにもご家族にとっても、良い時を過ごしてもらえるような方法を一緒に考えていきます。その方にとっての幸せがありますので、望まれる最大限のサポートをさせてもらえたらと思っています。当院の患者さんはクチコミで知ったという方がほとんどです。「ここを選んで良かった」と言ってもらえるとやりがいを感じますね。
在宅医療について解説していただけますか?
寝たきりの方、一人で通院できない方、退院後ご自宅での療養を希望される方の所へ、あらかじめ計画を立てて契約を交わし、訪問します。これを訪問診療と呼んでいます。月に1回とか2回とか、この日に来ますねと予定を決めて「体調変わりないですか?」と確認したり、お薬を出してあげたりという感じですね。また、24時間365日連絡ができる体制で、悪化時などの病状に応じて臨時往診も行い、お看取りもさせていただきます。昔から行われてきた往診、つまり急病時にのみ伺う往診を思い浮かべる方もいらっしゃいますが、それとは異なるものです。
こちらで受けられる診療について教えてください。

在宅医療として必要なことはほぼ提供できるかと思います。僕の専門が呼吸器内科なので、特に肺気腫や肺がんの患者さんは専門性を持って診させてもらいます。他分野で専門的な治療が必要と判断した場合は、連携している先生に紹介して診てもらうこともありますし、逆に連携先のクリニックから紹介を受けて伺うこともあります。診療時間外は連携しているクリニックでローテーションを振り分け、状況に応じて当番の医師が訪問します。月に1回は必ず6つのクリニックで集まって情報交換をしていますのでご安心ください。そうすることで24時間切れ目なく対応することも、医師1人の負担も抑えて長く続けていくこともできます。
抱え込まず、ケアマネジャーや病院の相談員に相談を
在宅医療を利用したい場合、どうすれば良いですか?

お電話などでご相談をお受けしますが、患者さん本人やご家族だと必要な内容をおまとめいただくのが難しいかもしれませんので、担当のケアマネジャーさんに情報をまとめてもらって、うちに連絡をいただくのが一番スムーズかと思います。入院中の方でしたら、病院の相談員さんにご相談ください。主に対応しているのは出雲市の西側ですので、行けない時は他のクリニックさんを紹介することもあります。退院が決まるタイミングで病院へ伺い、病院の看護師さんやこちらのケアマネジャーさん、訪問看護師さんも集まって会議を開き、必要な医療やサービスについて話し合います。在宅医療は訪問看護師さんとの連携がすごく大事です。医師一人、看護師一人なので、すぐに伺えない時に、先に訪問看護さんに行ってもらうことも多く、密に連絡を取り合います。
医師をめざしたきっかけや、院名の由来についても伺います。
高校生の頃に気胸という病気をしまして、ブラスバンド部だったので大会に出られず落ち込んでいました。その時に処置をしてくださった先生が、優しくて安心できる方だったのが一つのきっかけですね。初めてクリニックにかかる時に、ひと安心させてあげられるようなお医者さんになりたいと思いました。院名については、家で飼っている動物たちの名前が豆にちなんでおりまして。「健康にまめに」という言葉もありますし、豆の木が空高く伸びていくイメージから、院名に「豆の木」をつけました。
最後に読者へのメッセージと、今後の展望をお聞かせください。

通院が難しくなってきてなかなか病院に足を運べない、病院よりも自宅で最期を迎えたいなど、どうすれば良いかお悩みの方もいらっしゃると思います。そういう時に一人で、家族だけで抱え込まず、ケアマネジャーさんや病院の相談員さん、ケアマネジャーさんがいない時は市区町村の介護保険課に相談してもらったらいいですよ、ということをまずお伝えしたいですね。僕も今の体制が維持できるよう、引き続き頑張っていきたいと思います。ただ、クリニック1軒あたりで担当できる患者さんは限られており、残念ながらお断りしてしまっている方もいらっしゃるのが現状です。まだまだ難しいとは思いますが、今後訪問診療を専門的にやってくれる先生がもっと増えて、在宅医療の裾野が広がっていってくれると良いですね。

