渡辺 哲 院長の独自取材記事
渡辺内科クリニック
(世田谷区/上北沢駅)
最終更新日:2026/04/06
京王線上北沢駅の南口から徒歩1分。線路沿いを真っすぐ進んだところに「渡辺内科クリニック」はある。渡辺哲院長は、臨床、研究、予防と幅広く医学に貢献してきたベテラン医師。現在も午前中は診察、午後からは多様な職務をこなす忙しい毎日を過ごす。近隣に住む高齢の患者が多いため、玄関には靴の着脱がしやすいよう小さな椅子がさりげなく置かれているなど、隅々まで配慮が行き届いている。院内は小さいながら、2022年5月に移転したばかりということもあり、明るく清潔な雰囲気だ。院内処方で大きな薬棚があるなど古き良き町のクリニックを思わせる一方、電子カルテなどの医療DXも導入している。しかし、診察の際にはPC入力はせずあえて手書きのメモを取るという渡辺院長。その理由や、地域医療にかける思いなどを詳しく聞いた。
(取材日2023年3月8日)
大学、研究所、総合病院での経験を地域医療に還元
医師になって半世紀。これまでのご経歴を教えてください。

慶應義塾大学医学部を卒業し同大学病院に勤務した後、ハーバード大学医学部がん研究所でがん遺伝子の研究に携わりました。帰国後は都立大久保病院、都立大塚病院に内科医長として勤務。1995年からは約20年にわたり、東海大学医学部で准教授、教授として、公衆衛生学を教えていました。公衆衛生学とは予防医学、感染症対策、産業保健などに関する学問です。がんなどの病気を予防するにはどうしたらいいのか、どのような検診が最適なのかということを長年研究したり教えたりしてきた経験を、この頃ようやく地域の方々に還元できているのではないかと思っています。2015年に開業して以来細々とやってきましたが、大学を定年退職したのをきっかけにいっそう地域医療に力を入れるようになりました。
開業したきっかけは何だったのでしょうか。
臨床、研究、予防と医師として幅広い経験を積んできましたが、「まだ地域医療が残っていた」と気づき、チャレンジすることにしました。最初は別の場所にありましたが、京王線の拡張工事のため2022年5月にここに移転してきたばかりです。患者さんは近くに住むご高齢の方がほとんどですので、患者さんの話をよく聞くために、診療時間に十分とっています。ご家族のお話を20分くらい聞くこともありますが、それも一つの診療かなと思っています。
地域医療に携わるようになり、大変だったことがあればお聞かせください。

新型コロナウイルス感染症では新患も受け入れていました。地域でお困りの方がいれば、どなたでも助けたいという思いがあったからです。でも、かかりつけ患者のみとするクリニックが予想以上に多く、当院に患者さんが集中してしまったのは大変でした。発熱者専用の外来は診療終了後の12時から13時までとして、一般の患者さんとは完全に分けるなど感染症対策を徹底しました。ピーク時には15時過ぎまで患者さんが途切れないこともありました。現在はだいぶ落ち着いているのを実感しています。
基本的に午前中のみの診療なのはなぜでしょうか。
神奈川産業保健総合支援センター所長やいくつかの団体での活動をしているため、午後はそれらの活動に充てています。基本的に水曜と木曜は休診ですが土曜と日曜はやっているので、平日は仕事で忙しい方も利用していただければと思っています。
大学病院とも連携しがんの早期発見などにも尽力
診療で大事にしていることはありますか?

患者さんがどう健康と向き合っていけばいいのか、その人に合った具体的なアドバイスをすることを大切にしています。一人ひとりライフスタイルも価値観も違いますからね。また、当院は院内処方なのですが、薬も最低限しか出さないようにしています。複数の生活習慣病を抱えている方などはどうしても薬の量が増えてしまいますが、中には削れるものもあるかもしれません。他院で処方された薬でも持ってきていただければ、相談に乗ることも可能です。最新の医学研究、特に臨床研究の結果に基づく予防、診断、治療を心がけています。またそれを患者さんに伝えています。
印象に残っている患者さんはいますか?
自分の専門外の領域のがんの早期発見ができ、現在も元気な患者さんは印象に残っています。私の専門外の領域でも構いませんので、何か些細な異変や悩みなど、相談していただけたら適切な医療機関をご紹介します。
大学病院との連携もしっかり行っているのですね。

当院にもエックス線と超音波検査装置はあるので簡単な検査ならばできます。がんと診断できるまでの設備はありませんが、長年の経験から「これは検査が必要」と判断できます。これまで培った人脈を生かして大学病院や総合病院を紹介できるのは強みだと思っていますね。また、どこかで受けた検査の結果だけ持ってきていただいても構いません。プラスしてどんな検査を受けたらいいのかなどアドバイスすることもできますよ。
がん研究のほかにも、力を入れていた研究はありますか。
もともとは肝臓と消化器が専門なので、酪酸による脂肪肝からの肝発がん予防の研究を行っていました。その後は腸内細菌と健康について研究しています。酪酸などの体に有益な短鎖脂肪酸は、食物繊維、穀物などを摂取することで、腸内細菌によって作られます。一方で、肉が中心の食生活になると体に有益な短鎖脂肪酸の作られる量が減り、逆に動脈硬化を促進する物質や発がん性物質が作られてしまいます。そのため、腸内環境を整えることは、健康維持のために本当に大事なことです。
患者と目と目を合わせて会話することを大切にしたい
今後の展望についてお聞かせください。

食事や運動など普段の生活から守る一次予防、健診で早期発見をめざす二次予防と、正しい知識に基づく病気の予防に取り組んでいきたいと思います。それは、元気で長生き、いわゆる健康寿命を延ばすのに役立つからです。どういう健診を受けたらいいのかという相談にも乗りたいと考えています。企業健診の見直しなどの啓発活動もしつつ、町のかかりつけ医としてますます近隣の方々の健康のために尽力していきたいです。
お忙しい毎日を元気に乗りきっている健康法があれば教えてください。
食事には気をつけていますね。炭水化物は多すぎても、まったく断ってしまうのも良くないとされています。そのため、玄米、麦、全粒粉のパンなどを適量食べるようにしています。ビタミンもビタミン剤やサプリメントではなく食事から摂取し、また、野菜、魚、大豆や豆腐などの食物性タンパク質を中心とした食事を心がけています。ジムに通っていたこともありますが、家で軽い筋力トレーニングをするだけでも、とにかく毎日運動します。やはり、肥満は生活習慣病の原因になりますから避けたいところですね。私が成功体験をお話しできれば、患者さんにも良い影響を与えられると考えています。
ほかに、日常生活の中で健康のためにできることはありますか。

実は、特別なことはあまりなくて、世間一般でよくいわれていることを取り入れるので十分です。アルコールはほどほどに、タバコは吸わない。日光は浴びすぎない。日常生活の中で運動のチャンスを見つけていく。通勤でできるだけ階段を使うだけでも300kcalくらいは消費されると思いますよ。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
当院では電子カルテも導入していますが、診察時にはあえて昔ながらのやり方で手書きでメモするようにしています。それは、患者さんときちんと目と目と合わせて会話をしたいからです。パソコンに入力するのは診療時間が終わってからですね。午前は診察、午後は外の仕事、夕方にクリニックに戻ってきてから入力作業を始めて夜遅くまでかかることもしばしばありました。本当は、手書きはやめてしまったほうが効率的なのかもしれませんが、患者さんに接する時にはしっかりと向き合いたい。こんなやり方が、もし気に入っていただけるのであれば、足を運んでいただけたらと思っています。

