北澤 重孝 院長の独自取材記事
きたざわこどもクリニック
(新座市/新座駅)
最終更新日:2025/11/14
「きたざわこどもクリニック」は、JR武蔵野線・新座駅南口から徒歩1分の場所にある小児科クリニック。院長の北澤重孝先生は、未熟児・新生児医療および小児の成長・発達を中心に豊富な経験を積み、大学病院では教授として後進の育成にも従事したベテラン医師だ。院内は青い空と白い雲がデザインされた天井に、カラフルな模様がちりばめられた壁、エックス線撮影装置に描かれたイラスト、パソコンのモニターに映るコアラの写真など、子どもたちが少しでも安心して診療を受けられるような工夫が施されている。「予防接種は、親御さんから子どもたちへの大切なプレゼント」という温かい言葉で語りかける、人間味あふれる北澤院長に、診療にかける思いを聞いた。
(取材日2025年10月9日)
症状を正確に把握するため、細かな手順をしっかり守る
開業から9年、当時と比べて変化はありましたか?

開業当時は生後9ヵ月から3歳ぐらいのお子さんが多かったですが、そのお子さんが保育園や幼稚園、小学校と進学し、患者さんの年齢層は高くなっています。年齢が上がると喘息や鼻炎といった症状が出てくるお子さんも多くなり、そうしたお子さんは今も当院に通ってくださっています。症状で多いのは、やはり風邪ですね。その風邪を診る上で一番大事にしているのは「ルーティン」です。風邪の症状を訴えて来院された方の99%は風邪なんですが、残りの1%を見逃さないために、しっかりと全身を診察することが大切だと、この9年で強く感じています。
具体的にどんなルーティンを行っていますか?
基本的なことですが、まずは聴診や視診です。例えば「おなかが痛い」と訴えているお子さんに聴診をするために服を脱いでもらったら、小さい発疹があって「これは溶連菌感染症ではないか?」といったこともあります。また、親御さんからお話を伺うことも大事です。「保育園で手足口病が流行っている」など背景を聞いておけば、しっかりと判断ができます。口の中を見せるのを嫌がるお子さんもいますが、見逃しがあってはいけません。ルーティンという言い方は正しくないかもしれませんが、きちんと手順を踏んで診療することが、正確な判断につながると考えています。
基本が大事ということですね。

そうですね。親御さんが納得できるよう、検査は多めに行っています。基幹病院や大学病院のような細かい検査ではありませんが、その検査を通じておかしいと思ったことや気になることを察知する「感度」を重視しています。また、現在この地域ではインフルエンザが流行し始めています。症状は風邪に似ていますが、2〜3歳くらいだと「喉が痛い」「節々が痛い」と自分の症状をうまく言えないことがあります。そうしたお子さんの症状を正確に把握するためにも、検査やチェックといった基本は重要です。
診療のベースは、根気強い問診
感度というお話が出ましたが、具体的にどんなことを大切にされているのでしょうか?

検査結果や数値がベースにはなりますが、一番大事なのは「問診」です。例えば咳の診療でも、咳を止めるべきか、咳をして痰を出させたほうが良いかで処方が変わります。喘息のようにゼーゼーする症状の場合、咳を無理に止めると余計に苦しくなるため、痰を切るための薬や気管支拡張剤が必要になることがあります。逆にコンコンとした咳のお子さんは、しっかり咳を止めてあげる必要があります。そこで、どちらを選ぶか判断するために、親御さんに詳しく問診します。どんな咳か、夜は眠れているか、走ったら咳が出るか、物を食べた時にむせないかなど、咳だけでも細かく伺います。医学の世界には「診断には問診が7割」という言葉があるのですが、その考えに倣い、生活の中での状況を細かくお聞きしています。
アレルギーや予防接種についても感度が重要そうですね。
食物アレルギーは増えています。そのための血液検査などもしっかりと行い、私ができる範囲で説明と検査をしています。例えばリンゴや桃を食べたら喉がかゆくなるという方がいらっしゃいますが、食物アレルギー以外に花粉症が関係している可能性もあります。食べ物に含まれる成分が花粉の構造と似ていて、反応してしまうんです。問診の時点で花粉症であることがわかっていれば、症状が出る時期やどんな花粉に反応するのかなどを事前にしっかり伺います。そうすることでいろいろな可能性を考慮して、より適切な検査ができますから、精度の高い診断につながります。花粉症も同様で、スギ、ヒノキ、ブタクサ、ヨモギなど原因はさまざまです。どの季節に症状が強く出るか、ペットを飼っているかなども判断材料です。これらを裏づける検査のために、問診で細かな質問をすることが、感度の高さを担保する上で大事だと考えています。
適切な処置のために検査があり、正確な検査のために問診があるということですね。

はい。お子さんや親御さんによっては「どうしてこんなに細かく質問するんだろう」と思う人がいらっしゃるかもしれません。でも、詳しい背景を伺わないと、正確な検査や適切な診療にたどり着けません。例えば検査の中には33項目のアレルゲンをまとめて検査するものがあります。小麦を食べて症状が出た場合、小麦が原因かどうかを調べることはできますが、その症状が出た経緯を詳しく伺わないと適切な判断に至りません。アレルギーは狙い撃ちのような要素があるため、お子さんが何に困っているのか親御さんと私で一緒に考えながら、具体的にお答えいただけるよう根気強く問診しています。
病気以外のことでも悩み事はどんどん話してほしい
問診や検査のほかに大切にしていることはありますか?

診療に納得していただけるよう、丁寧な説明を心がけています。まれに特定の薬を要望されることもありますが、その際はこれまでに処方されているかや、処方理由も詳しく伺います。説明が難しい場合は、お薬手帳からその方の服薬履歴をしっかり確認。当たり前のことですが、言われるままに処方することは決してしません。あとはお子さんの予防接種ですね。これは本当に大切なことだと思っています。私が医師になった1980年代は、髄膜炎や敗血症などで亡くなったり後遺症が残るお子さんも多くいたのですが、こうした感染症の死亡率の軽減に向け、予防接種が推奨され治療技術も進歩しました。命を守るためにも、ワクチン接種は重要なことだと親御さん方にも知っていただきたいですし、お子さんにも伝えてほしいです。お子さんにとって注射はハードルが高いものですが、「これは親御さんからのプレゼントだよ」という気持ちで「頑張ろうね」と声をかけています。
お子さんと接していて、最近気がついたことなどはありますか?
発達障害の診断基準が明確化されてきて、数が増えている印象があります。当院でもご相談を受けることがあります。発達障害は病気というよりも、社会生活の中での不便さと捉えています。それを解決するのは薬ではなく、「療育」が非常に大切です。その療育サービスを受けるためには、自治体に診断書や意見書を提出する必要がありますので、そういった書類を作成することもあります。あとは、先ほどもお話ししましたが、ルーティンを大切にきちんと検査することですね。特に0歳児はいろいろなリスクがありますから、風邪で済ませることがないよう、先入観を持たず聴診器を当てるようにしています。親御さんにも丁寧に問診し、わかりやすく具体的なコミュニケーションを取ることがとても大事だと感じています。
お子さんの成長を喜べるやりがいもありそうですね。

以前勤めていた病院で未熟児を担当したことがあるのですが、5〜6歳になって病院に遊びに来てくれて、お友達の話をしてくれたことがありました。先日も、私が担当した未熟児で出生したお子さんが、学校の委員会の委員長になったと年賀状で報告してくれました。そういうお話を聞くと、本当にやりがいを感じますね。
読者へメッセージをお願いします。
悩み事は抱え込まずにどんどん話してください。病気のことでわからないことやSNSなどの情報に左右されて不安になることもあると思います。私に聞いて下されば、その情報が正しいかどうか医学的に説明できます。もちろん、具体的な病気の話でなくても構いません。「うちの子、算数が苦手なんです」といった話でも良いんです。「算数が苦手なら、ほかのところを伸ばしていきましょうか」といったお話もできます。まずは気軽に話してもらうことが大事ですので、遠慮せず足を運んでください。

