橋本 崇史 院長の独自取材記事
フォレストガーデンクリニック
(福岡市西区/九大学研都市駅)
最終更新日:2024/10/16

九大学研都市駅から徒歩6分、2階建ての白い建物が「フォレストガーデンクリニック」。同院は2024年5月にはしもとメンタルクリニックから名称も新たに移転開院したクリニックだ。院長を務める橋本崇史(はしもと・たかし)先生は、精神科と心療内科での幅広い経験をもとに前身となるクリニックを開院後、診療だけでなく社会復帰の支援まで総合的なサポートを行いたいという思いからリニューアル開院に至った。院内の至るところにある観葉植物のほか、青い鳥やフクロウの置物もそっと安らぎを与えてくれる。「誰にでも心の不調は訪れるもの。決して特別なことではありません」と、言葉を選びながら話す橋本院長に同院の取り組みやこだわりについて聞いてきた。
(取材日2024年9月4日)
睡眠や気分の変化を感じたら、すぐに相談してほしい
どのようなきっかけで来られる方が多いのでしょうか?

気分が落ち込んでしまう、これまでできていたことが少しずつできなくなってへこんでしまう、心の中のもやもやが取れないなどきっかけはさまざまです。日々の生活の中で、心に不安を感じた際は遠慮なくお越しいただきたいですね。また、眠りにつけない、睡眠が浅い、夜中によく起きてしまうなど、睡眠に影響が出ているときも精神的な不調の原因となり得るので要注意です。メンタルの不調は一人で抱え込んでしまいがちですから、違和感を感じたときが相談をするタイミングだと思います。精神的なものではなく身体的な疾患が影響していることもありますので、その際は適切な科を紹介して総合的な見地から治療を進めていきます。
初診の際はどのようなことをするのでしょうか?
他の科のクリニックと同様に、まずは問診票を書いてもらいます。現在の患者さんの状態、いつから違和感や変化を感じているのかなどを教えていただきます。当院には精神保健福祉士という専門のスタッフがいますので、まずは問診票をもとにお話をさせていただきます。ここまででおよそ30分ほどかかりますが、その方の背景から今お困りのことまでを理解する必要があるので、患者さんにもご協力をいただいています。精神保健福祉士による事前のお話の内容をもとに、私が診察を進めていきます。診察自体はケースによって30分ほどお時間をいただくこともあります。丁寧にお悩みや考えていることを棚卸しすることで、その方の悩みの根本や困っていることを理解できるように努めています。
診察や治療において、こだわっているところはありますか。

精神科、心療内科の治療において、もちろん薬物療法が役立つのは間違いありません。しかしながら、お薬に抵抗のある方がいらっしゃるのも事実です。そのような方にはお薬を無理強いすることはしないようにしています。代替案として提供できるものがありましたら、漢方を積極的にお勧めすることもあります。また、心理士によるカウンセリングや、デイケアで行う認知行動療法や対人関係療法といった心理療法など、さまざまな選択肢をご用意しています。一人ひとりの悩みやお困り事が違うように、求める治療方法も一人ひとり違うはずです。少しでも患者さんに寄り添って、納得のいく治療を受けていただけるように、選択肢の幅を広げている点はこだわっているところだと思います。
社会とつながる支援も提供できるクリニックへ
こちらへ移転し、リニューアル開院に至った背景もお聞かせください。

外来診療を丁寧に行うよう心がけていますが、ニーズに応えて訪問診療も始めたことにより1日に診療できる人数が限られてきたので、そこを広げることができないかと考えたことが一つのきっかけです。そして、薬物療法によるアプローチだけでなく、認知行動療法や対人関係療法など薬物療法以外の治療をもっと行えるクリニックにしたいと考えていました。精神疾患は慢性化しやすく、社会復帰しても再発することが少なくありません。復職と休職を繰り返し最終的に社会復帰が困難な方もいる中で、その方を福祉などの社会資源につなげられるクリニックをつくりたいと思い、今回のリニューアル開院に至りました。
リニューアルをきっかけに、診療の幅が広がったんですね。
これまでは外来診療、訪問診療のみだったのですが、リニューアルをきっかけに心理療法部、認知症デイケア部、精神科リハビリテーション部を設けました。心理療法部では公認心理師が複数在籍していますので、各種心理検査をはじめ、カウンセリングも実施しています。認知症デイケアは医療保険が適用になりますので、介護保険で週に1、2日しか利用できなかった方も週5日利用できます。重度認知症デイケアがクリニックに併設されているところはまだ少ないのですが、医療保険で利用できることにより経済的な負担、ご家族の負担も軽減できると思います。患者さんの生活リズムを整え、なおかつご家族が休める時間も設けられるレスパイトケア的な役割も担っているのが特徴です。個別対応の入浴できる環境が整っているため、ここで入浴を済ませての帰宅も可能です。
精神科リハビリテーションは、どのような方が利用できるのですか?

当院では、気分障害や発達障害などの方が日中ご利用できるデイケアと、休職中の方が社会復帰に向けたリワークプログラムを行える環境を構築しています。リワークプログラムでは、認知行動療法や対人関係療法を集団で行っていくのが特徴です。休職中や社会復帰をめざしている方にはどうしても不安や焦りがありますから、そこをしっかりと受け止め前に進めるようサポートを行います。なお、訪問診療については外来診療の休診日である水曜に実施しています。事前にソーシャルワーカーがご家族やご本人とお話させていただき導入を検討します。患者さんの選択肢が広がった分、私一人では担うことができないことも多いため、同じ志を持つ各分野のエキスパートが集結してくれました。今、総勢約30人で連携しながら各部門で対応にあたっています。
心の不調は、誰にでも訪れるものだからこそ
先生のご経歴と精神科を専門に選ばれた理由を教えてください。

私は東京で生まれ、その後は静岡県で高校まで過ごしました。父親が久留米の出身だったので、福岡はゆかりのある土地だったんです。親や親戚も医師だったことから医療が身近に感じられる環境で育ったことも影響し、福岡大学の医学部に進学しました。福岡大学病院で2年間初期研修を行い、3年目より福岡大学病院精神神経科に入局。その後は大学病院の関連施設などで研鑽を積みました。医師になる前から心理学に興味を持っており、精神科が一番自分の興味をかき立ててくれる診療科だったんです。特に興味深いと思ったのが、他の診療科で行う検査と違い明確な数値が出ないこと。目に見えないものを推測しながら診療を行っていく過程や、正解が一つではないところが難しくもやりがいのあるところだと思っています。
さまざまな症状と向き合う中で、注力された領域はありますか?
幅広く診療したいと思っていたので専門はあえて決めずにやってきましたが、特に治療の手応えを感じることが多かったのはパニック障害などの不安障害です。症状へのアプローチ法は薬物療法が中心になるのですが、私が大事にしているのは診察の中で不安に感じていることをうまく引き出していくこと。そこから治療の糸口がつかめることも多々あります。勤務医時代は市中病院での勤務が中心でしたが、もともと医師になった時点で開業することを念頭に置いており、2014年に当院の前身となるはしもとメンタルクリニックを西区の周船寺で開院し、外来診療を中心に薬物療法と精神療法を柱とした診療を開始しました。当時は、うつ病などの気分障害やパニック障害をはじめとする不安関連障害、そして発達障害の患者さんが多かったですね。
最後に、心の不調を抱えている方やそのご家族へメッセージをお願いします。

心の不調は本当にさまざまですが、決して特別なことではなく誰にでも訪れるものです。私自身、医療はあくまでも入り口で、その先の生活まで考えることが大事だと思っています。だからこそ、そのサポートができる医療と福祉に精通しているのが当院の強みだと思います。心の不調を抱えた経験により、社会復帰することに対しての不安が生じるかと思います。その気持ちに寄り添うだけでなく、実質的な面も含めてサポートすることを重視しています。心の不調を抱えている方が今すぐそこまで考えることは難しいかもしれませんが、総合的なサポートを準備してお待ちしていますので、まずはお気軽にご相談いただけるとうれしいです。