黒光 浩一 院長の独自取材記事
くろみつクリニック
(今治市/伊予富田駅)
最終更新日:2025/12/22
泌尿器科診療と人工透析の二本柱で地域医療を支える「くろみつクリニック」。黒光浩一院長は、大分医科大学(現・大分大学)で研鑽を積んだ後、大分や愛媛で救急医療から移植医療まで幅広く経験し、愛媛で同院を開業。泌尿器科クリニックが極めて少なく、透析患者の受け入れ先も限られている今治の地で、地元医師との連携を重視。継続的な努力を重ね、地域住民の「身近なかかりつけ医」としての役割を果たすべく奮闘している。泌尿器疾患だけでなく、男性更年期障害や性別不合(性同一性障害)のホルモン治療、シャントトラブルへの対応など、幅広い医療を提供しながら地域に密着した診療を続けている。今回のインタビューでは、同院の特徴や診療のスタンスなどを尋ねた。
(取材日2025年11月4日)
地域の困り事を受け止める場所に
クリニックの特徴や理念を教えてください。

当院は泌尿器科と透析を中心に診療していますが、泌尿器だけを診るクリニックではなく、地域の方の困り事全般に寄り添いたいと思っています。泌尿器科は全身状態と密接につながっているため、来院された方の歩き方や表情、足の運び方なども含めて全体を診ます。症状が泌尿器以外に由来している場合も多く、必要があればCTやMRIなど、適切な医療機関へ紹介する体制も整えています。今治市は泌尿器科を専門とする医師が少なく、透析医療を提供できる施設も限られています。だからこそ、患者さんが迷ったとき「まず相談してみよう」と思える存在でありたいんです。専門かどうかに関わらず、気になる症状があれば気軽に来ていただける、「地域医療の玄関口」のような役割を果たせるクリニックをめざしています。
透析医療ではどんな工夫をされていますか?
当院の透析は、血液透析と腹膜透析の両方に対応しています。特に血液透析では透析液量を一般的な基準より多めに設定し、より質を重視した血液浄化をめざしています。全国的には1分間あたり500mLが標準ですが、当院では700mLに設定し、血液流量も300~350mLと高めにしています。水量やコストは増えますが、患者さんの予後や体調の安定性を考えると、この方式が適していると判断しました。また、血液透析導入のため、大学の医師と連携して土曜日の午後に内シャント造設術を行う体制も整えています。さらに、内シャント狭窄に対しては、祝日に私が一人で内シャント再建術を行える体制もとっています。透析は「続ける医療」です。だからこそ、日々の治療の質を落とさず、患者さんが少しでも快適に生活できるような選択を常に優先しています。
患者さんと関わる時に、どんなことを心がけていますか?

患者さんが診察室に入ってくる前から診療は始まっていると思っています。できるだけ私自身が扉を開けてお呼びするようにしているのも、そのためです。歩き方、声のトーン……実はそこに体調や病気のサインが隠れていることが多いんです。泌尿器の病気は人に言いにくいものも多く、「こんなことで来て良いのか」と迷われてしまう方もいます。そのため、まずは気軽に話せる空気づくりを大切にしています。また、透析患者さんは全身管理が必要ですから、ちょっとした変化も見落とさないように気を配っています。泌尿器科という枠にこだわらず、患者さんが必要とする医療につなぐことが大切だと思っています。「ここに来れば安心できる」と思っていただけるよう丁寧に話を聞き、必要な検査や紹介を迅速に行うよう心がけています。
医師としての歩みと診療の原点
医師を志したきっかけを教えてください。

実は、最初から医師になろうと思っていたわけではありません。親族に医師が多く、自然とその道を意識する環境ではありましたが、強い志があったというより「気づけば医学部に進んでいた」という感覚に近いです。ただ、研修医として大分医科大学に勤めてからは、責任の重さを肌で感じ、真剣に医師としての成長を考えるようになりました。医師となり10ヵ月ほどで救急病院に赴任、救急当番は研修医1年目でもすべての患者さんを断らずに受ける体制で、日々が修行の連続でした。また腎移植にも深く関わり、ドナーの腎臓の摘出を手伝い、レシピエントの術後管理まで担当した経験は忘れられません。命を預かる現場に立ち会ったことが、今の診療姿勢の基盤になっています。あの時の緊張感と責任感が、医師としての原点です。
泌尿器科を専門に選んだ理由は何ですか?
学生時代のポリクリ(臨床実習)でさまざまな診療科を回る中、最後に回った泌尿器科が一番しっくりきました。泌尿器科は外科と内科の両方の要素があり、手術だけでなく全身管理も求められます。腎臓・膀胱・前立腺といった臓器の扱いだけでなく、透析や移植にも関わるため分野が広いのが魅力でした。また、診療後に和気あいあいと語り合える雰囲気の良さも決め手の一つでした。泌尿器科は、患者さんの人生の長いスパンに寄り添える分野です。若い世代からご高齢の方まで幅広く、生活の質に直結する悩みも多いからこそ、丁寧な関わりが必要になります。そうした責任と面白さの両方を感じられたのが泌尿器科でした。
印象に残っている診療エピソードはありますか?

最も心に残っているのは、研修医時代に担当した腎移植です。ドナー腎を摘出するために大学とドナーの方が入院している病院を亡くなるまで数日間行き来し摘出。1つの腎臓を大学に移植希望登録した患者さんに移植することになり、夜から移植手術、その術後管理を連日行いました。当時は検査も自分で回し、結果を自ら持って走って提出するほど忙しく、気が抜けない毎日でした。その後、県内各地で移植医療の講演をする機会も頂き、医療者としての責任を強く実感しました。この経験があるからこそ、今の透析管理やシャント治療にも妥協したくないという思いにつながっています。患者さんの人生に長く関わる医療だからこそ、一つ一つの選択に重みがある――その感覚を教えてくれた出来事でした。
「まず相談できる」地域のかかりつけ医をめざして
どんな症状があれば受診を検討すべきでしょうか?

「排尿がいつもと違う」「腰や下腹部が重い」「血尿が気になる」など、少しでも変化を感じたら気軽に受診してほしいと思います。特に泌尿器の症状は生活に支障が出るまで我慢される方が多く、受診が遅れることで病気が進行してしまうケースもあります。また、泌尿器以外の疾患が隠れていることも珍しくありません。腹部画像検査をされていない患者さんに、念のためCT検査をしたところ、別の重篤な疾患が見つかったということもあります。迷ったらまず来ていただき、もし「異常なし」とわかれば安心だと思います。安心を提供するのも医療の大切な役割です。検査機器が充実しているため、必要な場合はその日のうちに評価できるのも当院の強みです。
診療の際、大切にしていることなどはありますか?
一番大切にしているのは、患者さんの話を丁寧に聞くことです。泌尿器の症状は恥ずかしさから話しづらいことが多く、すべてを言葉にできない方もいます。だからこそ、表情や体の動きからくみ取る姿勢が必要だと思っています。また、治療方針の正解は一つではなく、その方の生活や価値観に合わせて柔軟に考えることが大切です。透析患者さんの場合、体調のわずかな変化も見逃さず、全身を常に意識して診る必要があります。必要なときは他院と連携し、最適な医療につなげることも欠かせません。「ここに来れば何とかなる」と思ってもらえるよう、安心感と丁寧な対応を心がけています。
最後に、地域の皆さんへメッセージをお願いします。

泌尿器の症状は、誰にでも起こり得る身近なものです。それでも、多くの方が受診をためらってしまいます。当院では、泌尿器の専門治療だけでなく、男性更年期障害や性別不合のホルモン治療、透析の相談、夜尿症の診療など、幅広い年齢層・背景の方が受診されています。「こんなこと相談して良いのかな」という気持ちこそ、ぜひそのまま持って来てほしいと思います。地域の医療は、気軽に話せる場所があるかどうかで大きく変わります。困ったときに思い出してもらえる、身近で頼れるクリニックでありたい――それが私たちの願いです。これからも今治市の皆さんが安心して暮らせるよう、地域に根差した医療を続けていきます。

